タイトル
2005.0605 Sun #1 喩えでなく長い日。本当に

 わたくしは旅行鞄を買わねばならない。成田に帰る度、飛行機の出口から税関に至るまでの道程、ご当地の米や味噌や胡麻油、訳の判らないレトルト食品や菓子を満載したアディダスのスポーツバッグとカップヌードルのおまけでもらった、画板も入ろうかという大きさだけが取り柄のトートバッグを肩に掛け、或いは床を引きずりながら次回こそキャスター付きのハードケースを購入し現地で買った、或いは貰った、はたまた拾った有象無象を詰めたカバンを軽快に引いて、JR改札前のスターバックスで財布を出すためにいちいち体を左右に160°くらい振らなくともいい装備にするのだ、はは、ああ愉快、痛快、と考えてあんまり愉快なので気分が悪くなり空港を出た途端喫煙所辺りでへばりこんでしまう。次こそは、と言うもののそれがいつになるか余裕コイて決まっていた試しはなく、今回の韓国行きだって向こうから「上映します」となんでか自分の携帯に連絡が入ってから上映予定日まで2週間くらいしかなくて、渋谷ロフトで20分ほど旅行鞄コーナーを眺めてはみたものの、はて自分に適当な大きさはどれなのだろうという事すら皆目見当が付かず、そんなことより飛行機のキップは取れるのかなどと言っているうちに無理矢理取った連休のしわ寄せで出発直前には全く休みが無くなり、果たして出発当日にはいつものヘナヘナバッグを持って早朝の新宿駅に立ちつくしていた。寒くはないので服は軽装、サングラスなど掛けてないし一見、サークル合宿かなんかに行く人みたいである。
 自分たちには関係ないんであるがアメリカ行きの飛行機には使い捨ても含めライターを持ち込めない決まりがいつの間にやら出来ており、多くの人が荷物チェックの段階でライターを放棄させられて、出国審査の向こうの喫煙所ではライターを持っていない人が灰皿にくくりつけられたチャッカマンで煙草に火を付けている光景がそこかしこに見受けられ、中途半端に低いとこにあるそれで無理矢理立ったまま着火しようとする人の姿勢は独特に間抜けであった。自分が眠いとか荷物重いだとか言うことはさて置くと、搭乗までのもろもろは至ってスムーズに運び、これはなんかある、きっとなんかあると目つきを悪くして蟹あんかけご飯の機内食を食べていたらソウルへも30分ほど早く着いてしまった。それでもまだなんかあるなんかあるとささやかな幸運すら素直に喜べずに体を傾がせて、超威勢のいい客寄せをしている銀行の出張所で1万円ちょっとを両替すると、2年の間にウォンが少し高くなってるぞ、日本円1に対してウォン9、前はほぼ10だったから前回のを残しておいて正解だったようだ。外へ出て出迎えの人の群れの中にソンワンくんの顔を見つけた。知り合って多分5年くらい、彼は今回の上映会には直接関わってはいないのだけれど、僕らと向こうの映画祭とのパイプ役にいつの間にかなっており、こうして向かえにまで来てくれることになってしまった。ソウルでも東京でも会う度にヘロヘロなのだが、今日は珍しく元気そうなのは日曜だからだろうか、再会のご挨拶をしてから市街へ向かうバス乗り場前で、既に行われた分の上映の様子を聞かせてくれた。期間中3回ある上映のうち、僕らが立ち会えるのが結局1回にされてしまった映画祭側の事情は、結局のところよく判らないのだが、既にチケットも取って予定を組んでしまったため渋々それを了承した。ソンワンはそのやりとりを全て取り持ってくれたので、会うなり何度も「怒ってる?」と機嫌の悪い馬をなだめるみたいに聞くから気の毒になりまあそれはもうよろし、と彼も行ったという昨日の上映の様子を聞くと、チケットは売り切れて満席、面白かったと言う。やっぱその回にも立ち会いたかったと思っているとソンワン、「そう言えば、映画のラストが意味不明だったけど、アレは何?意図的?」と聞いてくるのではて、とよくよく聞いてみると、最後の短編(#10)が終わって画面に「#11」という数字が出た途端テープが止まり終わりになってしまったらしい。あちゃあプロローグに当たる#00から#10までの11本分の資料は出していてプログラムにも載っていたのだが、その後に付けた全体のクレジットのための短い映像が上映されていないらしい。おまえらホントに事前にプレビューテープを見たのか、とスタッフをベルトで締め上げたくなったが今ここにいるのはソンワンのみ、仕方ないので会ったらすぐ説教もとい説明するべし、と血圧が上がるけれどもそれにしても。

01
ホテル入り口(裏口)ウエルカム。

 バスはソンワンがくれた割引券使って8000ウォンくらい、一時間ほど乗ってホテルのある鐘路3街(チョンノサンガ)へ。映画祭が用意してくれたホテルはいわゆるラブホテル、毎回ラブホなので驚きはしないが今回の部屋はちょっとグレードアップしていて部屋にはパソコンもDVDプレーヤもあり、照明からなにから全ての電械類が一つのリモコンで操作できるのが便利か、つうとそうでもないような、とダブルベッドの枕元にある謎の箱が喋り始め、聞いていたソンワンが笑い出すので何だ、と言うとその機械のだけ独立してるリモコンを差し出すから見ると「AUTO LOVE BED」と書いてあり、1000ウォン入れると7分間マットレスがオートグラインドしてくださるサービス、く、くだらない。イマイズミコーイチは眼前でマットレスの腰の辺りがウィンウィン上がったり下がったりしているのを見るなり「これにはマッサージ効果もあるに違いない」と発言してマットレスに駆けあがり腰をヘコヘコ動かし始めた。傍目にはどう贔屓目に見ても腰に悪そうに映るのだが、本人えらい嬉しそうである。しかしこれはデモンストレーションで、やがてすぐ止まってしまった。
 本日はパレードがある。今回の映画祭はKorean Queer Cultural Festivalの一環で、その他展覧会ありパーティありの中で、メインイベントがパレードなのは間違いない、なら見ようと支度もそこそこにホテル近くの会場に行くことにし、さて鍵を閉めようと思ったら掛からない。自分は鍵閉めが下手なので替わってもらうが、誰がやっても閉まらず、ソンワンにフロントに電話してもらうと、どこからかスリーブレスに短パンのスタッフらしいあんちゃんがぬう、とやってきて持ってた鍵で閉めてくれた。もしかして毎回閉めてもらわないといけないんだろうか。つうか開ける時は?と思いながらも考えても判らないので部屋を後にした。

02
「オートラブベッド」のリモコン。左隣のは「殿方が長持ちする妙薬」だと。