2010.0716 金

3月からこのかた毎月一度は海外に出ており、自分でもどうして仕事をクビにならないのか不思議ですがそれよか毎回空港に行くとなると毎回電車に乗るわけで、大荷物で疲労困憊している(特に帰り)ところに券売機並んで財布出して金を数えて切符買って、とかやっているのがいい加減いやになり、不断の通勤も買い物も全て自転車で済ませているせいでこれまで何となく持たないままだった「非接触型ICカード方式の鉄道・バス共通乗車カード」を今度の渡航までに作ろう、作ったるわと思ったもののSuicaもPASMOもデポジットに500円出すのがいや(しかし自分もこんなにセコくていいのだろうか)だなあ、と吟味したのちデポジット不要+オートチャージ機能付き+入会金年会費無料の東京メトロTo Me カードを作る事にして、最寄り駅が地下鉄でもないくせに届いたカードでいきなりJRに乗ってサイタマの実家に帰ったりして、最初は用心していちいち財布から出していたのがじゃあ次は入れたままで財布を開いて当ててみよう「ピ」、いける。じゃあ今度は財布を閉じたまま「ピ」、チャージもされておるねえテクノの進歩はすごいねえ、と世間の皆様が数年前に体験済みであろう至便を今更しみじみ実感しつつパスモだあ、と新宿駅と品川駅でピーピー言わしながら一人で悦に入っていると携帯が鳴り、「いま品川駅だけど、どこ?」とイマイズミコーイチからの電話。ホームで会うなり「あのね、パスモが超べんり」と胸を張る自分。ただしTo Me カードはオリジナルPASMOに比べるとデザインがかわいくない。


何もこんなもの載せなくてもいいのですが、みほん

今回も羽田から飛ぶ。前回のソウル行きで国際ターミナルには何もないのは判っているので若干遅めに到着してからチェックインをして、でも今日は金曜だからか人で一杯、セキュリティーチェックも並んでいる。後ろに並んでいる中国人らしいおっさんが2リットルペットの烏龍茶を開けて飲みだしたのでどうすんだ、ゲートを入る前に捨てさせられるだよ、と思ってチラチラ見てたら3分くらいで飲み干していてたまげる。セキュリティーを通り(検査員が子供みたいだった、と何故か高揚しているイマイズミコーイチ)免税店で煙草を買うともう本当にやる事がないが、今回はあまり時間も持て余さずに搭乗時間になってはい、久しぶりの大韓航空。予定飛行時間2時間半だけどしっかり機内食が出て(焼き肉定食だ食えない、と涙ぐむイマイズミコーイチに肉をもらう)、しかも予定を30分ほど早く到着してしまった。何だこの近さは。窓の外から見える景色はどんより曇って、つうか雨が降ってないか?東京の鋭い日差しの記憶のままだったのでやや面食らうが一ヶ月ぶりの韓国、金浦空港。前回と全く同じところで煙草を喫って、さて携帯を借りに行こう、とアウトレットショップが並ぶ2階で端末を受け取り(前回よりは新型な電話機、使いこなせるのか)、雨だねえ動きたくないねえ、ともっかい別の喫煙所で煙草を喫い、日本語で攻めて来るタクシーの営業を無視しながら待ち合わせをしているジョッシュに電話する。日本でやり取りを始めた頃は彼の家があるシンサ駅の8番出口、とか言っていたのが何でか間際になって「じゃ、空港からバスに乗ってイテウォンのハイアットまで来て」という話になりよく判らないながら向かう事にする。案内所でイテウォン行きのバスを確認して、凄く大雑把なバス路線図(主要な停車場しか書いていない)ではどこで降りるのかよく判らず、「ここかも」と思って降りた停留所は1つ手前だったことが直後に判り、きいいいいっと心の中で言いながらのろのろとリュックより折り畳み傘を(横殴りの雨なのでお気持ち程度)取り出し、リムジンバス停は車道の真ん中なので取りあえず歩道に渡る。


バス停は道の真ん中

さて案内所でもらった地図によればそもそもハイアットホテルは本来の最寄りバス停や地下鉄イテウォン駅からもけっこう離れており、この大荷物+雨ではとても歩いて行けそうではない。こらタクシーじゃね、と空車を捕まえてウォンは持ってます大丈夫ですとか言いながら「ハイアット、イテウォンの」と告げると車が滑り出す。雨に濡れた服が車の冷房で冷やされて微妙に心地悪い。雨だからなのか渋滞してしばし、それを抜けて車は起伏の多い辺りに入った。もうすぐなんじゃないのかなあ勘だけど、と思っていると急に景色が閑静になり、イテウォンハイアットに到着した。車止めに着くとそこにはジョッシュと、先月お世話になりましたSeLFFディレクターのドンボム(相変わらずヴィヴィッドなシャツを着ている)が手を振っている。やれやれ、着いた。しかし何故ここで待ち合わせなの?2人とやあやあ、と挨拶して煙草を一本喫わせてもらっている間にジョッシュは「じゃあ」とタクシーを呼んでいる。ますますここで待ち合わせだった理由が不明になるがなんか問いただすと気まずくなりそうな予感がするのでその辺はうやむやにして車に荷物を積んでもらう。ただの乗り換えなのにホテルマンが誘導してくれるのが申し訳ない。車内でジョッシュに「そういや君と韓国で会うのは初めてだねえ」と言う。彼とは香港LG映画祭での「初戀」の上映の時にパーティーで会い、東京に来た時に連絡くれて2回ほど二丁目ほかで遊んだり、なのだが韓国で会うのは初めて。彼は正確には韓国系アメリカ人になるのか、多分母国語は英語なので話がしやすい。本業は映画監督であって、この人が撮った2本の短編を自分は大好きだ。先月まで釜山で別の商業映画の撮影に関わっていて「卜凸」上映の時には会えなかったのだがやっと。今回「プチョンの映画祭は4泊しかホテル出せないって言ってるのでソウルでどっか安い宿知らない?」と聞いたところ「2日宿を探すより僕んちに泊まんなよ」と言ってくれてありがたく寄せさせていただく事にしたのだった。なので待ち合わせ場所が意味不明だったのなんてもうどうでもいいのだよ。いいんだ…。

タクシーが雨の中を川を渡ってシンサ(新沙)に到着する。「僕の部屋は最上階(5階)でしかもエレベーターはない」と言われたので覚悟を決めて階段を登る。4階までは1フロア4部屋くらいある小さめのマンションなのだが、ジョッシュ宅のある5階は彼の部屋だけ、屋上もあって広い。雨降ってるから出られないけど。部屋に荷物を置いてちょっと休んだのち「お茶でも飲みに行こうかね」と出かける。静かな住宅地から少し大きめの通りに出ると、新しくてモダンなカフェやら外国料理店(日本風含む)がたくさん並んでいて、新興開発地らしい。喫茶店を2軒指差されて「どっちがいい?」と聞かれたのでお任せにして、空いている店内に入る。「WASABI LATTE」などという恐ろしいメニューが目に入るが(自分の韓国の友人は割とワサビを好きだというが、受ける味なのか)おとなしくアイスココアにする。ピンクとブルー、という嘘みたいに鮮やかなクリームが盛られたカップケーキを頼んでくれてしばし休憩、なんか原宿の引っ込んだ辺りにいるみてえ。お茶はおごってもらってしまったのでありがとう次は僕らが、と言ったもののその「次」のお会計は最終的に翌々日まで持ち越されることになる。すいません。そろそろご飯にしようか、タクシーで行こう、とまた車に乗って隣駅のアックジョンまで、「日本で言うと東京の青山みたいなとこ」と何度も聞くのだがちょっと違うかも。入った店は各テーブルに排煙マシンが取り付けられた焼き肉屋で、あ〜でもイマイズミコーイチはこういう肉食えないや、えっごめん、どうしようと2人が心配しだすので大丈夫、肉じゃないものを食べますというと「じゃあ冷麺も頼もう」と注文してくれ、皿一杯に盛られた薄切り肉をじゅうじゅう焼く間に冷麺、味噌チゲにご飯などもりもり食って、肉がもう入りません。


とにかく焼くのだ、肉を

店を出るとまだ微妙に雨が降っていたりするがジョッシュは「近所に友達の店がある、ちょっと寄って行く」と歩き出す。2ブロックほど先にあったのは洋服屋で、「友達」はここのデザイナーらしい。お客は誰もいないので4人で好き放題に店内を縦横して、イマイズミコーイチは「絶対自分には似合わないけど服はかわいい」と値段をみるがどこにもタグがない(時価か?)ドンボムは相変わらずで眼の覚めるような色のものばっかりいじっておる。ジョッシュと話をしていた店主(来年東京でショーに参加する予定、らしい。日本語を少し話してた)に紹介してもらってご挨拶。何だかんだと話している3人を置いて自分は店の外へ出て、映画祭のゲスト担当に電話をする。プチョン国際での「家族コンプリート」の上映は2回。20日の夕方にやる上映は普通に映画館での単独上映なんだがあともう一回は今夜、というか日付的には17日の零時開始の3本立てオールナイト上映。映画祭は20日の上映+21日のトークショー出席を条件に4泊の宿泊と航空券を出してくれるので、今日の上映までを含めてしまうと足が出る。だもんで先行する2日間は自腹なのだがそれはいいとして、自腹で先に来ていてもあくまでそれは自主ドサなので映画祭のアテンドは一切ナシ。まあそこまで面倒みていたら破綻してしまうだろうというのは判るので放置でもいいのだが、さすがに会場行ったけど入れませんでした、とかいうのではただの海外ドジ体験にしかならないので「えっと、これから上映会場に行くけどそのまま入ればいいのかな?」とメールでやり取りしていたゲスト担当エリン嬢に聞いてみる。メールから察していた通り大変有能そうなエリンは「判りました、確認して折り返します」と短く答えて電話が切れた。さて。

店に戻って相変わらず干支の話とかしている(何故)店主とイマイズミコーイチほかのところに戻り、そろそろ行こうか、とジョッシュが言う。何となく一旦戻って準備をして…という展開を予想していた自分ら(多分出がけにジョッシュに言われていたとは思うのだがその辺りがすっぽり抜けている)はでもここは最寄り駅じゃないし「やっぱ一度帰りたい」というのもね、と観念して着いて行く事にする。イマイズミコーイチは「汚い服(まあいつものこと)で来ちゃった…」と若干しょんぼりしているが、今回は舞台挨拶もないし何よりこの湿気+雨ではなんかもうどんなお洒落もねえ…と言う気はする。タクシーで駅まで行って(と書いていて気付いたのだがこれだったらジョッシュの家まで戻って支度をしてから彼の最寄り駅で地下鉄に乗れば良かったんである。どうも脳まで湿気ていたらしい)、前回初体験したニューシステムの券売機で切符を買い、電車でプチョンへ向かう。結構混んでいるので4人では座れず、空いた席に三々五々座って行く、とやがて自分の携帯が鳴り(韓国の携帯はどこでも入る)エリンからで「今日観に来るのは何人ですか」「4人です」「もう会場ですか」「移動中です」「了解です折り返します」、果たしてわしらは入れるのでしょうか情報細切れ。途中から地下鉄ではなくなりホームにまで雨が吹き込むので降りる瞬間に傘を広げる人続出の乗り換え駅で猛烈な湿り気にめげたりなどしつつもなんとか会場の最寄り駅にたどり着く。そしてお約束で僕らは改札を出られない(なんでか料金が足りなかった)。あ〜。「ようこそプチョンへ」とジョッシュが笑いながら言うがその最中にも風はびゅんびゅん吹いてるわ雨は降ってるわ雷は鳴ってるわで返す笑いも引きつる。上映会場はどこだ、と思っているとジョッシュはタクシー乗り場に並んだのでまだ距離があるらしい。ピカピカ光る雷光の中、土砂降りを抜けて降りた辺りは薄暗く、うっかりすると足下に溜まった水に思いっきり突っ込んでしまう。とにかく現地に来れば何とかなるだろう、と考えていたため何一つ下調べをしていなかった自分らは、まさかこんなあれこれ交通機関を乗り継いでくるのだとは予想もしておらず、彼らの付き添い無しでは到底たどり着けませんでした。やっぱ友達は大事だね。


市をあげてカウントダウンしております

で会場、は「市庁(シティーホール)」つうことは市役所ですかここ。何でも映画祭で一番でかい会場がここらしいのですがこんな映画を深夜しやくそで上映してもいいのかしら、いいのよね決めたの僕らじゃないし。会場(役場)に入るとさすがに通常業務は閉まってますが映画祭、営業中です。案内所にボックスオフィスに、赤いTシャツを着た多分ボランティアスタッフの若い子がたくさんいるがどこでどう話をつけたらいいのやら、と思っているとタイミングよくエリンから電話。「ええと、チケットは既に売り切れ扱いになってしまっているので発券ができません。なので売らなかった席(全席指定)を4席用意します。あまり良い席でないのが申し訳ないのですが詳しくは会場のスタッフにつなぎますではまた」ううむ引き続き有能なんだが話が一発で終わらない、と思っているとまた電話が鳴って今度は日本語、なのだが肝心の内容がよく判らないのでジョッシュに替わってもらって話をしてもらう、とその間に今度は赤シャツの子が数人わらわらやってきて、その中の一人(女の子)が日本語で「ええと、何か喋ってください」といきなりパンチの効いた方法で会話を始めようとするので不意を突かれたイマイズミコーイチがみるみる不機嫌になって「なんかしゃべれと言われても」とぶんむくれて収拾がつかなくなり始め、いかんこのままではそのうちまんことか言い出す、と自分はその子達に「取りあえずチケットの事は大丈夫(じゃないけど、まだ)」とお引き取り願い、話し終わったらしいジョッシュが「僕らの席、開場したら誘導してくれるって」とやっと収束したようだ、よかった。とそこへまた携帯が鳴り、キーッ今度は誰や、と出てみると「会場着きましたーいまどこですかー」と懐かしい声が、今日観に来てくれることになっていたジュンミからでした。お疲れさまです市庁にいますよ、と言っているとやがてチェックの服を着た彼女がとことこ歩いてくるのが見えて、なんかようやく安心する。

ええと整理しますと、ドンボムはチケット持ってる。ジュンミは「買おうと思ったら財布忘れて」売り切れで、ジョッシュは成り行きで来てしまったらしく(最初は20日に観に行くつもり、と言っていた)僕らはもちろん持ってないので都合のいい事に映画祭に頼んだ4席でちょうど足りる。解決したらしいんで開映までまだ1時間あるし、どっかでお茶でも飲もうかここ来るだけで困憊したよ、と微妙に雨の上がった外へ、みんな地元民ではないので当てはないが、まあ何かあるでしょうと歩いていると「あ、あそこに喫茶店が」とジュンミとジョッシュがほぼ同時に指差してそこに入る事にした。ドアのある半個室のソファーに腰掛けてやでやで、とメニューを見る。「ドリンク頼むとケーキが付いて来るそうです」というサービス過多なんだか抱き合わせ販売なんだか判らないシステムらしいのでお茶と、じゃあこのスイートポテトケーキと紅茶、で深夜11時、人心地付いてやがて運ばれてきたお茶とケーキと…何だこりゃ莫迦でかいかき氷に小豆とフルーツとアイスがもりもり盛られたもんが来た、とたまげているとジョッシュが事も無げに「僕が頼んだ、みんなで食べよう」と深夜の11時。この5人の中ではジョッシュとジュンミが初対面か、10年間で7〜8回来ていると友人関係も錯綜してきます。5人でしばし下らない話などをしているとやがてイマイズミコーイチが「おしっこ」と扉の向こうに出て行って、あれあれ帰って来ないなあと思っているとドアの向こうが騒がしくなり「ピキャー」というような音がしてイマイズミコーイチと一緒にここの映画祭プログラマー、パク・ジンが入って来たどええ。この人と前に会ったのは若干似たよな状況で2008年のベルリンだったっけ、「トイレから出てきたら何でか知らないけど、いた」そうですがあんた仕事は。


日刊プチョン国際映画祭を読み込むドンボムくん

「一段落付いたので何か甘いもの食べたい、と思ってたまたま来たんですけど」とニコニコ笑いながらパクジンは席に腰を下ろし、「この度は私達の映画祭にご参加いただきまして誠にありがとうございますお二人をお迎えできますことは私共に取りましても大変光栄な事で」と心のこもったマシーンのように話しだすのでまあまあ僕らも嬉しいよ、とこの6人の中ではジョッシュとジュンミがそれぞれパクジンとは初対面か、ジンは2007年までSeLFFのディレクターだったので後任者のドンボムはさすがに「よく知ってる」間柄のはずだがジンは「ドンボムは最近僕と口をきいてくれない」とあくまで朗らかに言うので何だかよく判りませんがみんな仲良くね、と。しかしここで彼(僕らのセクションを仕切っているのはこの人のはず)に会えたので流石にどう転んでも土壇場でやっぱり会場に入れない、などというたわけた事にはならないはず、よかった。「えっとみなさんは今日の映画を全部観ますか、『家族コンプリート』は2本目ですがその次の映画がちょっとねえ…」と言うので何、と聞くと「とにかく残虐シーンが物凄いんです。以前も観終わったあとで吐いちゃった人続出、なので私はこれから戻って上映前に観客に警告しておかないと」つうことで今夜の3本はいずれも「Forbidden Zone」というセクションに含まれるのだが、どれもこれもまあ何と言うかXレイテッド、特に3本目にやる「A Serbian Film」というセルビア映画は大変で人体、滅多斬りらしい。そういった映像にことのほか耐性のない自分は「止めとく」と即答し、ジュンミも「むむむ」ジョッシュとドンボムは元から「家族コンプリート」観たら帰る、と言っていたのででは自分らの上映終わったら逃げましょう、という事になる。21日にそのセルビアンフィルムの監督さんともトークをしないといけないイマイズミコーイチは「自分は観ておいた方が良いと思うんだけどねえ…」と呟くが、たいへん申し訳ないのですが敵前逃亡でお願いします。

(日付が変わるのでここで一旦区切ります)


2010.0716 羽田発金浦行き
2010.0717 上映一回目
2010.0718 プチョンへ+短編集1本
2010.0719 インタビュー+長編3本
2010.0720 上映二回目+長編1本
2010.0721 長編1本+"Mega Talk"
2010.0722 長編1本+金浦発羽田行き