20151016 星期五

昨年の10月末。中国の映像作家、崔子恩さんが東京に来た時に上映イベントがあり、自分らは大変場違いな感じで東京大学駒場キャンパスに行ったりもしたのですが(正直なところ、かなり居心地が悪いね学会っぽいところって)、ともあれ崔さんに5年ぶりに再会して『すべすべの秘法』のプレビューも渡せたのでまあいいか、とそれはそのままになっていたのがその後、人を介して北京クィア映画祭がイマイズミコーイチと連絡を取りたいと言っているとの話が来、連絡先の名前は知らない人だったので旧知のファン・ポポに訊いたら「ああ、彼女が今年の映画祭ディレクター、僕もまだメンバーだけど」てな事だったので『すべすべの秘法』の北京上映が決まりました。全日程滞在してくれれば監督の航空券代と自分らの宿泊は映画祭持ち、と言う好条件なので取り立てて交渉する事もなく、ただ中国語字幕を付けるのでこれまた旧知のユニンくん(日本に留学中)にお願いしてでは航空券を、と探したら運悪くあれはシルバーウィークってんですか、よく知りませんがえらい景気の悪そうな名前の連休にぶつかってしまったため莫迦高い。どうしたもんか、と思っていたら映画祭ディレクターのジェニーからメールが来て、「緊急事態発生なのでひとまず航空券は取らないでください」だそうで何やら、と思っていたら諸事情により映画祭は1カ月延期となり、これまた予定していたベルリンポルノ映画祭と会期が若干重なってしまった。まあ仕方ない、それでも航空券代は出してくれると言うので問題はどんなルートにするかですが北京クィア映画祭の会期中にポルノ映画祭が開幕なので東京に戻ってる余裕はない、が周遊チケットでは条件が良いものが全く出てこないため、羽田ー北京(中国国際航空)と北京ーベルリン(アエロフロート)の往復を両方取って、これで帰りの荷物をベルリンから羽田までスルーパスしてくれるといいんだけど、と北京ーベルリン間のアエロに問い合わせたら「アライアンスが違うので、それはできません」てな残念なお返事が速攻で来て、仕方ないので帰国便の北京で一旦出国して自力で預け直さなくてはならず、となると乗り換えに2時間しかない便では不安なので…じゃあ6時間待ちか、半端だ。半端ですが帰りが羽田と言うのは捨てがたいのでこれでよかろ(伏線)。

さて毎度おなじみSIMカードの話をします(これは私の備忘録なので仕方がないのです)。前回北京に行ったのは2009年でまだ携帯も無しで乗り切っておりました、が人はみるみる堕落する。世の中が(済し崩し的にではあるが)スマートフォンを持っていると便利なように思わされつつあるこんにち、やっぱグーグルマップがあると安心だよね、と思ったら流石中国は一味も二味も違い、Googleは兎も角としてFacebook、Twitter、Instagram、LINEなどなど、あなたの人生をそこそこ豊かにしてくれる各種サーヴィスが軒並みグレートなファイアーウォール(「金盾」と言うらしい)で遮断されており、現地でSIMを買っても毎日毎日Yahoo! Japanくらいしか見るものがない、という罰ゲームのようなインターネットライフになる(それはそれでいいような気もしますね)ようなのでした。ですがまあ抜け道はある。中国のキャリアChina Unicomの香港支社(中国聯通香港)が出してる本土・香港でそれぞれ番号が持てるSIMカードを使うと香港(海外扱い)からのローミングになるため遮断されず、普段と同じような快適なインターネット環境になるって言うんです。本当かよ、と思いつつAmazonでスマートフォン用とiPad mini用と2種類買ったら準備はもう半分くらい出来たようなもんです。ドイツでは2年前にも使ったT-mobileの「Xtra Triple」でいいだろう、とあまり調べず(伏線)。


ダウンから羽毛が。

とは言いつつ前日までパッキングもしておらず、海外旅行は前回のフィリピンから10ヶ月も経っているため靴下入れ忘れたりとか何か、色々抜けが(これを書いていて気がつきましたが『すべすべの秘法』の原作本を持っていくのを忘れてた)。一応渡航前のもろもろを片付けておいたつもりではありましたが間際になってまだ色々と連絡したりとか何だかんだあり、ああこれは寝られなそう朝は早いし、とイマイズミコーイチに電話すると向こうは「スーツケースを開けたらフィリピンの時の一式が入っていて、どうしたらいいのか…」と更にすごい状態でした。さて詰めねば、北京もベルリンも東京よりは寒いはずなのでダウンジャケットとかセーターを引っ張り出し、それぞれの友人に渡す日本土産(ほぼ食品)でスーツケースの4分の1が埋まりました。今回は羽田なので電車も始発ではありませんがそれでも普段の通勤よりずっと早い自宅発、小雨が降っているが傘を持って行きたくないのでそのまま歩く。品川でイマイズミコーイチから電話が来るが結局同じ電車に乗るという事が判っただけで会えず、羽田空港国際ターミナル駅のホームで合流する。中国国際航空のカウンターは一番はじっこ、特に問題なくチェックインを済ませて、一服してから出かけます。6年ぶりの北京行き、Air Chinaに乗るのも初めてならその後のベルリンはテーゲルではなく初のシェーネフェルト空港着でしかも初のアエロフロート。整理しますと今回の飛行機は【羽田ー北京ーモスクワーベルリンーモスクワー北京ー羽田】って事でLGBTウェルカムな街はベルリンくらいなんじゃないかしら。

フライト自体は4時間くらいか、機内食が「チキンまたはブレックファースト」という謎の二択だったのを除いては(結局「ブレックファースト」では誰も判らないらしく見本を1パック開けて見せてた)特に何もなくてあっという間に北京です。前回は遅延して深夜になったのに加えて新型インフルエンザのチェックもありましたが今回は普通の渡航っぽいです。着陸からラゲージ引き取りまでの間に自分は端末2台にそれぞれSIMカードを入れ、マニュアル通りにアクティベート(何もしなくてもそのうち信号を摑んで開通はする)、まずiPad miniはAPNを設定するだけで7日間1GBプランでインターネットがつながった。俺は金盾を突破したぜ、と自分は得意満面だが隣にはイマイズミコーイチがいるだけなので誰も褒めてはくれない。で携帯の方は開通してからすかさず30日500MBプランを申し込むコードをダイヤルして完了、これで最終日の北京空港までこれだけは普通にネットに繋がるはず。あらかじめ含まれているチャージ残高マイナス月極利用料(毎月16日以降に開通すると半額なのでグッドタイミング)から更に定額料が引かれるともう幾らも残ってないので「残高が少なくなっています」というSMSがいきなり来るが、まあネットが使えりゃ電話する事もほぼ無いだろう、と追加チャージはしないでおく。迎えに来てきくれた送迎担当の子はてきぱきと「行きましょう」みたいな感じなのだがその前にATMでキャッシングする。500元(だいたい10000円くらい)でいいかな、100元札が5枚で使いづらそうだけど赤い毛沢東バンクノート。


金盾突破記念いっぱつめ、ターミナルに向かうバスの中から。

空港に着いてすぐに感じたのは空気がちょっと良くないなあ、という事で、前回はオリンピックの影響かかなりの青空だったのでしたが見晴らしのいい滑走路の向こうも空港から見える遠景もなんだか霞んでいる。今回は前もってホテルの場所を訊いておいたので(前回はものすごい農村地帯に連れて行かれたのですが今回は市街地らしい)特に心配は無いものの地図を開いてみても何処をどう進んでいるのか判りません。やがて車は大通りから奥に引っ込んだ路地に入り、お寺の境内みたいな駐車場に停まると「着きました。」ロビーに入ってチェックイン、ホテルというか伝統家屋風の宿ですね。どうもフロントのお姉さんはほぼ英語が通じない感じでありますがスタッフが全部やってくれるので大丈夫です。「あの、WiFiのパスワードは」「ホテルの代表番号です」自分らの部屋はロビーの入っているのとは別の建物らしいので付いて行くと、「まだ掃除が済んでいないのでちょっと待って下さい」と言われる。後で知りましたがいわゆる四合院式のホテルだそうでした。映画祭は明日からなので今日は特にやること無し、送迎担当の子は映画祭からのギフトを置いて帰ってしまったし、別便だけど今日到着のユニンには夕方に会えるらしいのでそれまでは昼寝でもしよう。部屋でも一応ネットは繋がりますが、やはり色々と「接続不可」なサイトがあるもよう。ただ自分の携帯もだけど部屋に入るといきなり電波が弱くなるので建材はものすごい遮蔽性のあるものを使っているのか。

今回初めて入れてみたWeChat(LINEみたいなものですが電話番号がないと登録できないので日本でインストールしておいてSIMをアクティベートしてから香港ナンバーで登録した)ではジェニーとポポがサジェストされたので到着の報告をして、しばらくうとうとしていたら部屋のこれまた大仰な造りの電話が鳴った。フロントからであれば確実に何を言っているか理解できませんが、仕方がないので出てみるとユニンで、「もうホテルに着いています。30分後にロビーで会いましょうか」というのでしたが寝起きのイマイズミコーイチが起動に時間がかかっているため自分がロビーに行ってユニンに会い、一緒に部屋に来てもらうことにした。『すべすべの秘法』の字幕は問題なかった?と訊くと「はい、大体は」との事でげに優秀くん。しかしここは北京のどの辺?と訊くと「かなり中心部ですよ、故宮とか近いです」てなことで今回は観光ができそうです。ひとまず夕飯を、と出掛けることにするがユニンもこの辺に詳しい訳ではないのでフロントで聞いている。「大きい通りに出て、右に行っても左に行ってもそれなりに食事処があるそうです。取り敢えず行ってみましょうか」と歩き出す。少し歩いてさらに大きい幹線道路を渡り、市場になっている建物を抜けて更に行くとまた店が立ち並んでいる。ユニンはいちいち解説してくれるが旨いかどうかは判断できないので勘で「この、鶏肉の店」に入ってみる事にした。4人掛けのテーブルが四つあるだけの小さな店で、当然英語メニューなんぞ無いのでユニンにお任せである(とは言え3種類くらいしかないけど)。「基本の煮込みに野菜を2種類まで追加できます。あとは辛さが選べるって」でユニンと自分は「普通」イマイズミコーイチは「ちょっと辛い」にしてみる。あと米飯。


途中の市場がカオス

めいめい一人分の鉄鍋に入ったモツ煮みたいなぐつぐつが煮立ちながらやってくる。イマイズミコーイチのだけ赤唐辛子が入っていて色が違う。と思ったら自分らのにも青唐辛子が入っていてインゲンかと思って喰ってしまいました辛い。味は豆味噌ベースなのかな、鶏の出汁も相まってほんのり甘くておいしい、白米に合う。あとから入ってきたお客の女の子は店のマダムと知り合いらしく、何やら楽しそうに話していたが急にくるっとこちらに向くと「コンニチハ!」と言うのでここで「你好」とでも返せば小粋ですが無論私は無粋なので元気良く「コンニチハァ!」と返すだけ。彼女は帰りがけにも「サヨナラ」とニコニコしながら店を出て行きました。中心地ではあるものの観光客は自力では注文できなそうな店なので海外客はあんまり来ないのかも知れない、マダムはこちらが興味深いのか何度か目が合うと笑顔を見せてくれるのでしたが、飯がとにかく旨いので小骨と青唐辛子に注意しながらあっという間に完食して上機嫌の自分は帰り際、「うまかったれす」と「日本語で」言って手を振って退出して、途中の台湾甘味屋でタピオカ入りミルクティーを買って(味はまあまあでしたがサイズをでかいのにしたのが失敗。あとタピオカがちゃんと茹っておらず芯が残っていたのでスイカの種のように吐き出すわたくし)ホテルに戻った。さっきの店で煮込みに追加した野菜が何だか判らず、ユニンも「日本人も知ってるはずの野菜ですが日本語でなんと言うのか忘れました。ここ来る途中の路上で売ってたので帰りに見ましょう」とか言っていたのですが帰り道では既に撤収してしまっていて不明のままでした。

部屋に戻って確認すると、映画祭からのギフトバッグに入っていたのは中国茶が2缶とフリーペーパーみたいな北京ガイド雑誌、それと故宮博物院グッズでシリコンシートみたいなのに般若心経がプリントしてあるという訳の判らないもので、ユニンに取説を読んでもらうと「茶器の下に敷くものですね」だそうでそれはいいのですがプログラムとか、映画祭関連のものが全くない。政府の妨害を掻い潜って開催される映画祭なのでそういうものもないのかな、とユニンに聞くと「いや、作ってますが渋滞で納品が遅れてます。今夜ここのロビーに届くことになっているのを僕が受け取る手筈で」と言う彼自身はこの映画祭のボランティアスタッフですらないらしいのだが妙に使われておる。冊子プログラムとは別刷りペラのタイムテーブルはもう届いていたので貰う。ブックレットは21時頃に届く予定、とのことで一旦部屋に引き上げ、でもWiFiがなかなかつながらない、とロビーで異様な存在感を示している猫を眺めながらインターネットを見て(やはり中国国内回線だとGoogle、Facebook、Twitter、Instagram、LINEは軒並みダメ、Yahoo! JapanとEvernoteはつながる、bingは勝手に中国仕様になってしまうので検索結果上位が中国語の記事ばかり、設定を「日本/日本語」にしないとダメみたい)いるとやがてがっこん、と音がして文字通り小山のような紙の束が台車に乗ってやってきた。配送業者らしい2人+ユニンの3人がかりでバリアフリーなんぞ知ったことではない建物のそこら中にある段差をうんうん言いながら上げたり下げたりしている。ご苦労様なことでございます(と、何となく手伝わず眺めるだけ)。


素敵ホテル(ロビー)の巻。

「来ました」と出来たてのパンフレットを早速開くと見開き2ページで『すべすべの秘法』が紹介されている(英語/中国語)が、漢字表記の人名があらかた間違っている。考えてみれば先方に送ったのは英語テキストだけで、キャストおよびスタッフの名前を漢字でどう書くか、ということは伝わっていないはず。となるとウェブ翻訳だろうか、というのも自分の名前はアルファベット表記も間違って「Wasa Hiroki」となっており、かつ中国語表記が「和佐弘妃」という性別不明な芸名風、まあ面白いからいいですけど。流石に中国語字幕翻訳を担当したユニンは抜かりなくて映画の中の登場人物名(オリジナルでは全てカタカナ表記)に当てる漢字はありますか、と事前に聞いてくれていたのでそんなことはないのが救い。以前台湾で『家族コンプリート』を上映した時の中国語字幕は役名にものすごい適当に漢字を振ってあったからな。フロントデスクの横に山積みされたパンフを尻目に部屋に戻り、ちょっと外出してお寺みたいな外観のマクドナルドでイマイズミコーイチはケーキを買い、自分はスーパー(お客が中でタバコを喫っている、という無法地帯)で青島ビールの500ml缶が150円くらいだったのを嬉々として買って部屋で呑みました(口に触れる部分はちゃんと洗いましたよ)。映画祭は明日から、今日到着したインターナショナルゲストはおそらく自分らくらいみたいです。

2015.1016 北京へ
2015.1017 映画祭オープニング
2015.1018 『すべすべの秘法』上映
2015.1019 ちょろっと観光したりなど
2015.1020 北京最終日

ベルリンポルノ映画祭編