2010.0623 水

六日目:上映楽日

きょうも朝からパリッとしたシャツに身を包み、やたらいい匂いを振りまいてフランシスが出勤していった。寝ぼけたままお見送りし、メールチェックし、もっかい二度寝。昼過ぎ、川口隆夫がまたしても「プールに行って来る。1回目のQ&Aの時間までには劇場に行くね。チャオ」と言って出かけていった。怪しい。ぼくはといえば夜の上映までは特に予定なし。ぼけらーっとしつつコーヒーなど入れたりして(ここのコーヒーマシーンがいままで見たことのないハイテクなもの。すごく欲しい)、がこのままぼけらーっとしててもしょうがないなと思い直しシャワーを浴びて近所に出かけてみることに。噂には聞いていたけど未だ行ったことのないキャットストリートなどの骨董街散策。これまた噂には聞いていたけれど、一昔前はあったらしい活気はすでになく閑散としていた。が、ここでもまた毛沢東グッズにひっかかってしまった。なぜこんなに毛沢東グッズに惹かれてしまうのか我ながらナゾであるが惹かれてしまうものはしょうがない。きょうひっかかった品物は毛沢東ティーセット。陶器のお盆にカップ5客とポットひとつ。もちろん中古品。かなり古そう。でも、ものすごくかわいい。自分の中で上限値を決めてみる。100HK$。先日溝口さんと行ったハリウッドロードで見たドラゴンティーセットにはかわいさでは負けるものの(あれは350HK$もした。ちょっと買えません)、毛沢東もなかなかよろしい。「いくら?」と聞いてみる。「188HK$です」高い。・・・でもいけそうな気もしてきた。「まけて」「じゃあ178」「100」「178」「高い」「168」「帰る」「ちょーっと待ったー158!」「100」と繰り返すこと数分。128HK$までは引いた。しかしここから先が進まない。うーん、どうしよう、と悩んだ末やっぱりあきらめることに。考えてみればうちにティーセットなんていっぱいあるんだから。置き場所も、ない。

とあっちこっちで似たような無駄な激闘を繰り返しているとポツポツと雨が降ってきた。ヤバイなぁと思っている間もなくいきなりスコールのような大雨が降ってきた。店の軒先を雨をよけながら進むも一向にやみそうにないので一軒のファミレスみたいなカフェに入る。考えることはみな同じらしく、雨宿りの客多し。おじいちゃんたちに囲まれながら相席。言葉は通じないものの「困りましたねぇ全く」と苦笑を交わしつつ、暖かいミルクティーなど飲んでみる。が、あまりのんびりもしていられない。雨が弱まったところでフランシスのアパートにダッシュして戻り(ズブ濡れだよ)シャワーを浴びた。そうこうしてると川口隆夫もなぜかご帰宅。成果はあまりなかった模様。そりゃそうだ、この天気だもの。でもなんの成果だ?「これからZuniのマティアスに会いに行かなきゃ」と洒落た服に着替え始める川口隆夫。なんか、呼び出されたらしい。「上映には立ち会えないけど21時までに行けば大丈夫だよね」と確認し、また出かけていった。タフである。ぼくも、そろそろ支度をしないと。大荷物(舞台挨拶用衣装)を抱えて小雨の降る中を劇場に向かうことにする。


初戀 + キスしてほしい

劇場にはいつものようにジョナサンがいる。おはよーと近づいていくと、顔を合わすなり「昨日のジョンの件ですけどわたしはやはり反対です」などと言い出す。昨日の帰りにちょこっとジョンのことをジョナサンに言ったのだけど、その時は「あなたの映画ですからあなたの好きなようにするのがいいと思います」とか妙に物わかりのいいことを言うなぁと疑っていたのだけどやっぱり。人前だったから本心は言えなかったわけだ。そして例によって機関銃の如くわーわーしゃべり出すジョナサン。そこにトシさんがお友達を何人か連れて観に来てくれた。わかったからあとでゆっくり話しましょとジョナサンに言い(人前では素直に従うジョナサン)、トシさんご一行とご挨拶などしていると、トシさんが「チケット売れてますね」と言う。見ると、チケツには全ての上映映画の空席情報が電光掲示板に画面表示されているのであった(全席指定席のため)。出国前、「家族コンプリート」は売れていますが「初戀」は何回もやっているからかちょっと出足が悪いです」と聞いていたのだが、空席状況を見るとなかなかどうして、7割くらいは埋まってるじゃないですか。「家族コンプリート」は残りあと10席くらい。ジョナサンに「売れてんじゃん」と言うとものすごい笑顔で「はい。当日券がかなり出ています」とのこと。あがる。


家族コンプリート

まずは1プログラム目の「キスしてほしい」と「初戀 」の2本立てからスタート。「キスしてほしい」では客が引くかな?とも思ったけれど、思いのほか食いつきがいい感じがする。続けての「初戀 」はやはりウケがいい。いい2本立てだ。と自画自賛。客数も昨日より入っているし最初から暖まってる感じ。「初戀 」上映終盤に川口隆夫も到着。質疑応答は10分と言われていたのだけれど、多分オーバーしたと思う。質問がたくさん出たから。やはり「初戀 」の質疑応答は盛り上がりますね、いいも悪いも。終映後は入れ替え。ぼくは次の「家族コンプリート」の上映を抜けさせてもらって、トシさんご一行(計7名)と担々麺を食べに。みんないい子たちでかわいい。でも、自分の語学力のなさのため会話にうまく入っていけないのが悔しい。もうちょっといろいろつっこんで話したいところだけど、そろそろ時間です。後ろ髪を引かれる思いで最後の上映へとひとり向かいました。トシさんありがとうございました。

人がすっかり少なくなった建物の中をひとり劇場に向かう。劇場は9つスクリーンのあるシネコンだが、さすがにもうこの時間は静まりかえっていてモギリの人もいない。とりあえず場内に入ってみる。お客様フルハウス。映画は、ちょうどリオが登場したところ。十分間に合う。事前にジョナサンからは「地下にトイレがあるのでそこで着替えたらいい」と言われていたのだけれど、廊下で誰か(従業員)と会うのもイヤだし(絶対怖がられると思う)、場内最後方部に適当なスペースを見つけたのでそこでこっそり着替えることにした。しかし、香港の劇場は冷房がキツイなぁ。冷蔵庫みたいである。そろそろと音を立てないように靴下をはき、手袋をし、持参のバッグの中からボディスーツを取りだした。そう、今宵の舞台挨拶はクマで出るのです。我ながらバカだと思うけど、みんなの喜ぶ顔が見たいじゃない!? こそこそと着替えあとは頭を被るだけ。映画も終盤に差し掛かっている。タイミングばっちり。ふと横を見るとジョナサンがこっちを見て笑いを押し殺している。エンドクレジットが始まったので頭を被る。Q&Aに参加しない人がぼちぼちと帰り始めるが、出口の横にいるぼく(クマ)を見つけ、ある人はギョッとし、またある人はきゃーきゃー大喜びしてあちこちさわりまくってくる。勝った、と思った。


Q&A

エンドクレジットも終わりジョナサンの司会によりQ&Aスタート。ジョナサンに呼び込まれる形で舞台最前列に。場内がざわめく。まずは広東語でご挨拶。ウケている。笑われている。いい感じだ。川口隆夫も加わりQ&Aスタート。さすがに話しづらいので頭は取った。質疑応答は活発だった。その中で「日本やその他の国での反応はどうでしたか?」という質問があり「実は未だ香港でしか上映していないので他の国での反応はわからないのですよ。逆に聞きたいのですが、香港のみなさんはどうご覧になりましたか?」と聞いてみると大拍手がおこった。嬉しい。15分と言われていたQ&Aはやっぱり時間を押して終了。はぁー終わったぜ、とある種の恍惚感に浸っているヒマもなく客がこっちにわらわらと押し寄せてくる。怖い。どうも、一緒に写真を撮りたいらしい。「ま、とにかく劇場の外に出ましょう」とジョナサンに先導されロビーに。その間も写真は撮られるわ、頭ははたかれるは、身体中さわられまくり。ロビーでは早速の写真撮影会とサイン会。30人以上と写真を撮ったんじゃないだろうか。クマ、大人気。が、モテてるのかはちょっと微妙。どうもいつもに比べるとモテ感が薄いような。結局、劇場の人に追い出されるまで撮影会は続き(もう24時近いしね)、あらかたお客さんもお帰りになったことですしおつかれさまでしたー、と駅に向かうことに。途中、香港国際映画祭から来てくれて、今回も3プログラム全て観に来てくれた男の子が「いつ日本に帰るのですか?」と聞いてくるので「あしただよ」と答えると「そうですか。それは、すごく、寂しい」と言う。そして「あなたの映画がとても好きです」と言ってくれる。お願い、おっちゃんを泣かさないで。


熊アンドお客さん

さてジョナサンはと言えば、いつものように嬉しそうに「(広東語で)さぁ、甘いものでも食べに行きましょう」と言う。いつものぼくなら「喜んで」と答えるところだが、着ぐるみで汗びっしょりだし、とにかく水が飲みたい。疲れた。川口隆夫に「ジョナサンがデザート食べに行こうって言ってるけど」と言うと、案の定「ビール飲みたい」と言う。ジョナサンに「川口隆夫さんがビールを飲みたいそうです」と言うと一瞬表情が固まり、鳩が豆鉄砲を食らったというにふさわしい顔になった後「えっ、イ、イマイズミさんは?」と弱々しく聞いてくるのでここは非情に徹し「ビールかな」と答えると急にわたわたしだした。「ちょ、ちょっと待ってください」などと慌てた様子で電話をかけ始める。多分、ヘンリーに相談してるのだろう。そう、ジョナサンはお酒が全く飲めないので、飲みに行くという発想がまるでない人なのだった。ややあって「中環に行きましょう」とジョナサンが言う。で、中環の何処に行くの?と聞いてみると「私にもわかりません」とジョナサン。大丈夫なのか?

駅に着くと、さっき別れたお客さんが何人かまだホームいた。別れはいつも寂しい。別の、やっぱり毎日来てくれたお客さんは「ぼくの一番好きなCDです。さっき渡しそびれてしまって」と言って1枚のCDをくれた。今度香港に来る時は彼らと飲茶でもしたいなぁとぼんやり思った。みんなとはここでお別れ。が、ひとりの白人がなぜか一緒に飲みに行くことになってしまった。川口隆夫と意気投合した模様。いつの間に? そして苦労の末着いた先は Time というゲイバー。ジョナサン、生まれて2回目のゲイバー。みんなでビールで乾杯する中、ひとりスムージーみたいなのを飲んでいたジョナサン。案の定「ジョンのことですが、いまは話せないので(ひとり関係ないのがいるからね)帰国してからメールで話し合いましょう」などとこそこそ言うのであった。それはイヤ。めんどくさいなぁ。さて、Time では香港国際映画祭のプログラマー、レイモンドと思いがけず再会しちゃったりして、世間は狭いねぇ、と。途中、ヘンリーも合流。クマの着ぐるみを見せたら嬉しそうに被ってた。変態です。あっという間に閉店時間の2時になりました。ここでお客様(白人の方)はタクシーで帰り、ぼくと川口隆夫、ジョナサン、ヘンリーの4人になったので「ジョンのことだけど」と一気に話しを持っていく。そして川口隆夫に通訳を頼みがーっと事情を話すと「そうですか。では、オープニングかクロージングでやってもらえるよう話してみましょう」などと(ぼくにはどうでもいいことなのだけれど)一応は納得してくれた模様。

歩きながら喋っているうちにフランシスのアパートに着いた。「じゃあ、次は台北で」と言ってジョナサン、ヘンリーとさよならを。そう、この香港滞在中、台北での上映が正式に決まったのでした。実は、川口隆夫もマティアスから仕事のオファーを貰ったらしい。ふたりともいいことがあってよかった。さて、行けたら上映に行くね、と言っていたフランシスは仕事がたいへんなことになってしまったらしく、きょう劇場には行けないと昼過ぎ川口隆夫に連絡があり、すでにもう寝ていた。起こさないように、と気を使っていたのだけれど、やっぱり起こしてしまい、その上熱いお茶まで入れてくれるのであった。マメだ。 ぼくも川口隆夫もさすがに疲れたので、バタンQ。いい1日だった。


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