2004.1216_thu


 携帯電話のアラームを10時にセットしておいた。昨夜はシャワーを浴びて横になった途端に眠ってしまったので、記憶はいきなり朝。イマイズミコーイチは 「ちょっと水買ってくる」と出かけていき、僕は部屋でスタッフから来るかも知れない電話を待つ。約束の時間を30分ほど遅れて、「来ないねえ」と言ってい ると電話が鳴る。ジョンではないが去年会ったスタッフの男の子だ。「ロビーに来ているから、来てくれるか」とのこと。外出準備をして下に(と言ってもたっ た一階分)降り、そこにいた2人のスタッフにあいさつ。電話してきたケニーは童顔の男の子、それと事前にメールでやりとりしていたキャシーという女の子。 どちらも見知った顔だ。 さて、出かける前に一つ用事を済まさないといけないのだった。去年この映画祭でイギリスの配給会社の人に会ったのだが、いろいろあって前作「ノーティーボーイズ」のDVDをイギリスで出す事になり、一年越しでようやく契約がまとまった。彼は今年もジャカルタに来ると言うので、ここで契約書とマスターテープを受け取ることになっている。同じホテルに泊まっているらしいので昨夜言付けを頼んでおいたが結局向こうから連絡はなくて、ケニーに呼び出してもらう。 ややあって降りてきた彼、T(仮名にしときます)がのしのしこちらに向かって歩いてきて「やあ」とか言ったのまではまあ良かったのだが、その後ろから現地 人らしい二十歳前後の男の子が嬉し恥ずかしといった風情でとことこ連いてきたのでのけぞる。何やってんだT。 Tと再会のご挨拶もそこそこに、茶封筒に入ったブツを受け取って中身を確認する。契約書とマスター、イマイズミコーイチの過去作品「憚り天使」も収録してくれるらしいので本編2本と、あと予告編も渡していたのでこれか、と残りの一本を見るとなんか違う。「raspberryreich」とか書いてあんぞ。ブルース・ラ・ブルースの新作じゃねえか。ひゃあ。危うく金目の物をもらってしまうところだったが(持ち帰って売れば良かったなあ)、泡食っているTに予告編と一緒に「raspberry reich」のDVDも送ってもらう約束をさせてテープは返し、ひとまず落着。どうもこれ、今回の映画祭のサプライズフィルムとして上映されるようなのだ。じゃあここで観よっかな。さて飯でも、と出かけようとするとさっきの男の子が帰るらしくTと抱擁なぞしておる。「また来るからね」「きっとだよ」とか言ってたぞ。ひゃあ。ケニーに「彼はスタッフ?」と聞いたら「イエス」だって。ひゃあ。何やってんだ。

05
米国大統領。となりのおさるがいい迷惑、と。

 ケニーとキャシー、僕ら2人とTとで徒歩で目的地に向かう。「タイ料理でいい?」と言われる。日本料理とかじゃなければいいのでオッケーし、「ex」と いう派手な原色のビルに入る。去年も見た覚えがあるのだけど、確か建設中だったような。中は真新しいショッピングモールというかでかいソニープラザみたい な雰囲気。そこにあるレストランに入る。僕は真っ黒なビーフスープに入った太いビーフン料理、イマイズミコーイチはカレー。このレストラン、僕らが座った 席の向こうはボウリング場。しかし平日の昼間なので一組くらいしかいない。他人のボウリングを見ながら食事、てのがいいのか悪いのか判らないまま飯を食っ てたが、結構スコアが気になる。あっ惜しい、あの人は上手い。その間キャシーケニーTは何やら話していたが、急にTに2人のツッコミが入り、途切れ途切れ に理解した範囲では「急に連絡が取れなくなって」「Tは何処だと」「映画祭のスキャンダルよひゃははは」などと言っていたようだ。事情は何となく判るけ ど、正確に知りたくもないんだな。勝手に想像していた方が面白い。食事終えて、建物内を案内してもらう。ケニーが「ジャカルタで一番いい映画館」とシネコンに案内してくれる。新しくて、今年1月にオープンしたばかりだそうだ。「アレクサンダー」とかやってました。料金は70000ルピア(約812円)だと言うがそれでもここは新しくていい映画館だから高いんだそうだ。でも映画の料金って、やっぱこのくらいじゃないと。スーパーリザーブシートみたいなのもあって、それの値段が通常の2倍と言うが、2倍で日本並みだもんね。

06
イスラム圏にてメリークリスマスでもって何故かレインボウ。

 館内でキャシーと別れ、僕らとケニー、Tでお茶を飲みに行く。連絡通路で繋がっている「プラザ・インドネシア」というショッピングセンターの喫茶店。中 心部の噴水を眺めながらとりとめのない話をして、会計。去年はタクシー代から何からすべて映画祭が出すと言って僕らがお金出しても頑として受け取ってくれ なかったのだが、この時初めてケニーが割り勘にしてくれた。いい傾向だ。店を出て、シンガポールへ今日出発するTを送り届けるため、一旦ホテルへ戻る。T を降ろしてお別れをし、僕らは自分たちの一発目の上映会場に向かう。今回の映画祭では「Queer Boys and Girls on the SHINKANSEN」の他にイマイズミコーイチの「憚り天使」、僕の「grey SILENCE」、それと僕らの友達の監督作「3秒の憂鬱」が「Lost in Japan」という(どういうニュアンスなんだか)プログラムで別に上映される。すべての上映作品数は130タイトルくらい、という日本では考えられないくらい盛りだくさんなプログラムだが、おそらく無料ということと(入場料を計算に入れなくていい)、始まって3回目なのでまだまだ上映するものがたくさんある、という事なのだと思うがそれにしても。タクシーに乗る。車で道を走っていると、中央分離帯で行商の人が通り過ぎるのが日常的な光景だ。信号や渋滞で止まっている車の側まで来て、新聞や煙草なんかを売りにくるのは去年も目にした。ホントに誰か買うのかなあ、と思って見ていたのだが、今年改めて観察してみると、新聞とかは結構売れている。それに売っている品物も様々だ。あ、ピーナツ持ってきた。なんか野球場みたいだね、とか言って笑っていると、隣に座っていたイマイズミコーイチがわっ、とか言って僕の腕を引っ張る。なんじゃい、と見るとそこには小さな、メガネザル(なんだろうか、あれは夜行性だったか)の子供がおっさんに抱かれている。サルも売ってんのか。驚きよりそのチビモンキーのあまりの可愛らしさに言葉も無くしているとおっさん、チビモンキーを僕らのタクシーの窓縁に掴まらせる。どよめく僕ら。モンキー、つぶらな瞳で僕を見つめる。うきー。やめて、お願い。「ぼくをかって」「かってくれるの」「ぼくをうちにつれてかえってよ」。うききー、飼いてえ。買うか?思わず窓を開けてしまいそうになるが、動き出した車は非情に僕らとモンキーを引き離し、たちまちモンキー(と、おっさん)はマイルドセブンくらいの大きさになってやがて無数の自動車の間に見えなくなった。うきききー。この件は同乗していたケニーを含め、現地の人間に聞いてみたが やっぱサル売りにくるというのは滅多にない事らしくて、「その売猿は非合法です」との判断が下された。それにしてもだなあ。もう「アイフル」のCMを見ても笑えません。動物好き、というのが動物保護にはさっぱり役立たない、という背理を身をもって実感いたしました。しかしいくらで売るつもりだったのか。
 モンキー話が長くなってしまった。着いた会場は、去年も行った「オクタゴン」というカメラ屋兼ギャラリー兼ワークショップ会場のビル。一階にデジカメな どのショップがあって、二階がギャラリー、そこにスクリーンを下ろして上映がされる。ギャラリーではそこのワークショップで撮られた写真が展示してあった が、すごくいい写真が多い。映画祭とは関係のない人たちの作品だそうだが。  僕らの前の回の上映でも、監督が来ていて、残ったお客さんと話をしていた。スタッフに紹介されて挨拶。ドイツのMichael Brynntrup氏といい、ドキュメンタリー映画を作っているらしい。もう帰るという彼に「シンカンセン」見に来てね、と言って分かれる。

07
「オクタゴン」内その1


 1時間ほどして上映開始。平日の昼間だけあってお客さんは少ない。そんなに広くない会場に10人くらいかな。音はともかく、画面がやや明るすぎ、字幕が ほとんど読めない箇所もあった。旧作を久しぶりに見ていろいろ感じることもあったが、お客さんの反応はちょっと読めない感じ。上映が終わってスタッフ(船 越英一郎似)の司会でちょっと質疑応答など。さすがに最初から質問は出なくて、船越英一郎もとい、名をヘルーというスタッフの「この作品を作った動機 は?」という振りから始める。日本語通訳無し(結局今回は、以後の上映でもずっとそうだった)なので英語で彼に話し、インドネシア語に訳してもらってなの で何を話していいのか不安だ。その後少し質問も出たけど、作品についてというよりは日本のゲイの事情や、作品を作る上での一般的な課題とかについて聞かれ た。結局内容が次回の「シンカンセン」と似て来ちゃったので、詳しくは後程まとめて。ううむ。最初の上映はちょっと尻すぼみで終わってしまった。次に先の ミヒャエル(ドイツ語だと多分)さんの長編があるらしいので観ることにする。
 観る。おもしろい。この人はおかしい。内容は、自分に対するインタビューが来たという設定、なのかホントに来たのを逆取材してるのか判らないがともかく 喋る喋る。そしてこれまでの自作短編がいくつも挟まってさながら俺メガミックス映画。自分の付き合ってきた男のリストアップなんてのもあって「私を見なさ い」オーラがガンガン伝わってくる。途中英語字幕が読み切れなくて飽きてしまったが、このくらい自分フルコースを貫けるのも才能だろう、と思う。子供の頃 からの写真をパラパラとめくって現在の顔に到達するシーンがあったのだが、あ〜ここでクスリを、とか勝手に決め付けてしまって笑う。いや、やってるかどう かは知らないけど、ある時期に顔が激変するのですよ。それも美容形成とかではなく。

08
「オクタゴン」内その2

 上映後、ヘルーが飯に連れて行ってくれる。「麺が食いたい」と言うと、タクシーを使ってちょっと離れた食堂に行く。ここらは彼の家の近くだそうで、普段 行ってる飯屋、という感じなのだろうか。鶏とマッシュルームを炒め煮にした具が、インスタントラーメンみたいな麺の上にかかっていて、鶉の卵入りのスープ が付いている。「何か他に食べたいか」と聞かれたのですごく苦労して「野菜炒め」と言う。青菜をエビと炒めたものが出てくる。素材自体は中華料理と変わら ないけど、調理法が全然違うので味も違う。甘め。飲み物のメニューを見ると「soda susu」つうのがある。直訳すると「炭酸牛乳」だが、こっちでは割とポピュラーなブレンドで、ジュースと練乳を混ぜるらしい。何も考えずにそれにする。瓶で出てきたソーダは本当にただの炭酸水、グラスに氷と練乳が半分くらい入っていて、そこへ炭酸を注ぐ。混ぜて飲む。旨い。飯には合わないような気もするが。自分でも作ってみようかとはあんまり思わせないのがミソ。 そうだメールチェックが出来るかも、と映画祭がくれた資料を見ると、ホテルの近くにネットカフェがあるらしい。「ここに寄りたいけど、いい?」と言うと案内してくれた。入ったネットカフェは、なんか整頓されてない中古パソコン屋(の倉庫)みたいな場所で、でもマシンは日本語は使えるらしく起動してもらう。普通にメールが見られた。大して急を要するものは無かったが、なんか面白い。イマイズミコーイチは自分宛に来た大量のスパムメールを削除するのに追われている。しかしモニタの画面が赤味を帯びていて、妙なかんじ。そろそろ帰る、というへルーにお礼を言って別れ、いったん部屋に戻った僕らはまた外へ出て、ちょっと先のスターバックスでコーヒーとマフィンなどを買って帰った。味はフツー。