2004.1217_fri

 今日は1時から「Lost in Japan」の2回目の上映がある。会場は別の所で、昨日ヘルーと迎えの時間を約束しておいた。昨日と同じ所だって自分たちだけでは行けやしないのだが、タクシー乗ってもインドネシア語出来ないときついし(料金は非常に安いのだけど)、電車もバスもかなり上級者向け。勢いスタッフの後ろをひな鳥のように付いていくしかない。僕らはやや早めに起きて、約束の時間になる前にスーパーへ買い物しに行く。ホテルの近所にデパートがあり、そこの地下にある。米コーナーですごく変なパッケージのを見つける。なんでタイ米でオランダ娘か?ホテルに戻ってぼ~っとしているとフロントから電話が掛かってきて、「あなたの友達がロビーに来ている」と言う。今日は誰が来たのじゃろ。昨日までに会ったスタッフは、大抵すでに去年会っていて顔を知っている人たちばかりなのだ。ジョンはもちろんだが、他のメンバーの継続率の高さにちょっと感動する。ボランティアスタッフだとどうしても組織が不安定なものだから、毎年顔ぶれが違ってしまいがちなのだけど、今年のジャカルタは去年の経験を蓄えたスタッフを維持しているようだ。果たして迎えに来てくれた男の子の顔には見覚えがあった。が、去年会った兄弟のどっちかなのは確かなんだがこれは兄だったか弟だったか。イマイズミコーイチは「兄だろう」と言う。そんな気もする。後で探ることにして彼の車に向かう。車を出すのを待つ間、駐車場でつぶれているゴキブリに蟻がたかっているのとかを写真に撮る。

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本当に何故。

お屋敷が立ち並ぶ地区に入り、着いたのは去年ちょっと寄ったことのあるフランス文化センター。白い建物だ。敷地の奥にこぢんまりとしたシアターがあって、そこで上映する。隣にはギャラリースペースがあって、フランス人の写真家がいろんな国のゲイを撮った写真が展示してある。多分兄、が「お腹が空いているのなら、ここの食べ物を取ってきていい」と言うのでなんか学食っぽいスペースでプラスチックのパック入りご飯をもらう。誰もお金を払ってないけどいいのかな。米に炒り卵、テンペ(大豆発酵食品。固めた蒸し大豆にテンペ菌を培養させたもの)の炒め煮など、一切肉魚は入っていないご飯。食べながら多分兄に「去年会ったとき名刺をあげたっけ?」と聞いてみる。あげたのなら兄だ。「もらったはず」と言うのでじゃあこれは兄貴の方である。失礼、でも顔つきがちょっと変わったよね、と思いつつ彼、名はニーノと話をする。今はジャカルタには住んでなくて、映画祭のために期間中だけジャカルタに来ているのだそうだ。えらい。今日は金曜日。12時から1時まではイスラム教の礼拝の時間なので、開始時刻をちょっと遅らせると言われる。「Lost in Japan」の上映に来てくれたのは、だいたい10人弱のお客さん。こっちは映像は普通だったけど音がかなり悪い。PALをNTSC変換しているからかな。ここも例によってお客さんの反応は微妙。最後の作品が終わってエンドクレジットが流れている最中にお客さんは全員帰ってしまう。はにゃあ。そうこうしているとニーノがすすすと隣にやってきて「ソーリー、ノークエスチョン」と済まなそうに言った。ま、仕方ない。でも僕の作品の冒頭部分切って途中から始めただろうこら。ニーノは「憚り天使は好きだ」と言ってくれた。今日はこの上映後、別の会場で「Queer Boys and Girls on the SHINKANSEN」の上映があるので移動しなくてはならないのだがまだもう少し時間がある。中庭のテーブルでぼんやりお茶などを飲む。イマイズミコーイチがお腹空いたと言ってパンをもらってきた。顔の形になっている。これアンパンマンじゃん。中にはホントに餡が入っていた。やがて僕らを送ってくれる車が来たというのでフランス文化センターを後にする。ニーノは「僕はここの責任者なので動けない。ごめんね」とか言っていたのに何故だか一緒に乗ってくる。運転手は女の子。初めて会う子だ。運転中の彼女とニーノは始終何か話しては笑い転げているが、その様子はなんかオバはん。ビデオ持ってくれば良かった。「やっだ~」ってな感じでしたが若いのに大丈夫か。

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右が劇場、左がギャラリー。
 
「シンカンセン」の上映があるのは昨日と同じ「オクタゴン」。昨日麺屋に連れて行ってくれたヘルーがいる。ここでニーノが帰る。ありがとう。君の会場では次の上映がもう始まっているはずだがいいのか。いいんだよね。さて笑顔で迎えてくれたへルーが友達を紹介してくれる。「日本語を勉強している」と言うのでてっきり通訳かと思いきや、日本語も英語も片言以下しか通じないので違うらしい。日本の作品なので興味を持って来てくれたのかもしれない。彼の名はジョン、ディレクターと同じ名前なのでジョン(小)と呼ぶことにする。しきりに「僕とあなたは顔が似ている」と言うのだが、残念ながら似てはいない。共通点は眉毛が濃い事だけ。観客数は「Lost in Japan」より多くて、スタッフ含め20人くらい。今回はちょっと笑いも起きて安心する。反応としては東京の映画祭での初映の時に近い感じかなあ。Q&Aにも15人以上残ってくれて、へルーの紹介に続き、結構いろんな事を聞かれた。

 ・作品で何を伝えたかったのか(これは見てくれた人がそれぞれ「伝わった」と感じたものでいいかと)
 ・「SHINKANSEN」とは何か(日本の特急電車の名称です)
 ・「SHINKANSEN」はゲイにとっての特別な意味があるのか(特には…)
 ・制作費はいくらかかったか(全部ボランティアなのでトータルでは判りません、超低予算なのは確実)
 ・役者はプロか(プロには見えない、と言う事だろうか、やはり)
 ・長編を作ったりプロデュースする予定はあるか(面白い企画があれば。でも大変)
あと日本のゲイの事情について聞かれたけど、日本のゲイ全体を語ることはもちろん出来ないので、なるべく個人的な範囲で。
 ・日本のゲイは社会に受け入れられているのか(ケースバイケースですな、捕まりはしないけど)
 ・地方にもゲイコミュニティはあるのか(あります)
 ・東京のゲイエリアはどこか(一番大きいのはシンジュクニチョウメ、と言います)

何にしても今回でやっと上映らしくなった。個別に聞いてみた感じではストーリーやメッセージのあるものが印象に残ったみたい。字幕読んじゃうとそうかもね。 へルーが「飯食う?」と言うので今度は「米」と言ってみる。ジョン(小)と4人でタクシーに乗って飯屋に行くと、そこは僕らが泊まっているホテルのすぐ近くだった。相変わらず地理がさっぱり判らない。ビルの3階にある、ホテルの宴会場みたいな広いレストラン。インドネシア語はアルファベットなので、韓国語とかよりはメニューに手がかりはあるが、正味の所はやはりへルーに頼らないと頼めない。汁無しソバと炒めソバ、炒めご飯とかがメインであって、それに何が加味されるかでメニューが違っているようだ。僕はまた鶏ソバ、イマイズミコーイチは具掛けご飯(なんか八宝菜みたいなのがかかってました)を食う。へルーがサイドメニューでなにやら揚げ物を頼んでくれる。メニューを指さして「これ」と言うが何だか判らない。見た目は揚げかき餅のようではあるが、食って見ると中心部に鶏挽肉が入っている。揚げ雲呑でした。甘めのチリソースのようなものを付けて食べる。かなり胃に来るので、旨かったが控えめにいただいておいた。このあと、さっきと別の会場でブルース・ラ・ブルースの新作上映がある。Tがロンドンから持ってきてあやうく僕らに渡しそうになったテープだ。これも何かの縁なので見ることにする。タクシーで着いた会場「セマラ6」は去年も上映をやり、今回も明日「シンカンセン」をやるところだ。でも去年よりスクリーンとか機材がグレードアップしている。この映画のタイトルは「ラズベリー・ライヒ」。ライヒはウィルヘルム・ライヒの事、という予備知識はあったのだがなにぶんウィルヘルム・ライヒについてまるで知らないのでそれがちょっとハンデ。大量のテキストが(台詞としても)出て来て、しかもイギリス版だから当然字幕は無し、言語レベルの理解は付いていかない。ただやりたいことはおぼろげながら判るので、あとは話が転がるのに身を任せる。しかしおもしれえなあ。性交と革命、がメインのモチーフだがここではニアリーイコールなので、もう最後はどっちがどっち、とも言えなくなってくる。つうか革命の思想が過剰に言葉として奔流している中で、登場人物が始終チンコをぶんぶん振り回している事により、セックスの間抜けなおかしみが「革命」に伝染するのだ。さすがに制作が最近なだけあって、アルカイーダを連想させるテロリストの手法、これまで繰り返されてきたゲリラのイメージもきっちり見せてくれる。そしてそれら全部を覆うのが、何とも言えない間抜けな感じ。ほんとうに真面目な人はどこか間が抜けているものだ、というのを再認識しました。監督はきっと真面目なだけの人ではないだろうけれど(そうでないとこんなものは作れないだろう)。下品であることだけに固執して異様に気持ち悪くなってしまうモノはよくあるが、ここにはそう言った制御不能感は無い。なんかモザイク越しに性器を見るのが(この作品はもちろん無修正)すごく貧乏くさい事に思えてきてしまった。しかしこの映画祭、エンドクレジットが流れるやいなや大抵の人は席を立ってしまうし、スタッフは会場を明るくしちゃうしで、みんなせっかちさん。

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どっちがどっちか一瞬判らない

今日の上映はこれで終わりなのだが、これから別会場で「クィアカラオケパーティー」つうものがある。詳細不明。この間東京に来ていたディレクターのジョンに聞かされて、「君たちもカラオケビデオを作って来なさい」と言われて一本作って持ってきてはみたが、果たしてどういうイベントなのやら。車でかなり走って、着いたのはレストランというかバーのような所、その2階。壁の一方にプロジェクターで映写されるようになっており、司会の人が立っている。移っているのはDVDのチャプター画面。よく聞いたら、ゲイ・レズビアン受けする曲の「カラオケビデオ」を勝手に作り、それに合わせて歌うという。どこまでも非公式なもののようだが、そんな都合良く全部の曲にレスヴォーカルのカラオケトラックがあるものだろうか。考えているうちに司会の女の人が馬鹿でかい声で司会を始めた。曲はどうやら10曲以上あるみたいだ。自薦他薦を問わず2名くらいの人が前へ出てきて歌う。一応歌詞が曲進行につれて色を変えていくカラオケの方式に則っている。あんまり知ってる曲が無いな。しかし何故「イパネマの娘」とかあるんだろ。中身はそれぞれにおかしいが、一番面白かったのは「Your Song」のやつ。これはオリジナルのヴォーカルが入っていて歌詞も無し。太目の男の子が思い出の写真をみたり過去に浸っているうちに(シャワーシーンとかあり)、意を決したようにドラァグする、というおかしくて切ない(これは曲のせいもあるか)ビデオ。その他インドネシアのポップソングとかもいい曲があったですよ。さて僕らが作って持ってきたのはVHSだった。事前(出発当日)にメールで「DVDで無いと無理かも」というメールを受け取っていたので、ちょっとどうしようか、という感じだったのだが結局現場で聞いたら「すいません、ここでは機材が無くて上映出来ないです」と言われてしまった。とへへ。仕方ないので、明日「シンカンセン」をやる会場でおまけでくっつけてもらうことにする。ホントはもちろん、こういう雰囲気の場所でやるのが一番良かったのだけど、仕方ない。
 一時間半位して曲をやりきってしまい、同じ曲を2回3回とやっているうちにだんだんただの宴会みたいになってくる。これはスタッフの中間打ち上げなのではないかという考えが頭をかすめる中、なにがどうなったのか急にお客が帰り始め、クィアカラオケパーティーは終了した。時間はそろそろ深夜12時を回る。僕らを送ってくれるヘルーの都合もあるので、ほどほどのところで切り上げ、明日の時間を約束して帰りのタクシーに乗った。ホテル近くのスターバックスで降ろしてもらい、コーヒーなどを買って部屋に戻った。

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クィアカラオケ曲次第