2009.0620 星期六

晴れ。11時に目覚ましをかけていたのが10時半くらいに大砲のような音が響き渡り眼を覚ます。しかし眠いのでベッドからは起きあがらず、うつらうつらしている隣のベッドではイマイズミコーイチが起きたり誰か来たりしているような気配、後で写真を見たら2人とも寝ているショットがあったので天辺くんか。しかし毎度まいど私はすごい寝相。今日は市内へ出て紫禁城だよん、とか言っていたらケン(昨夜はどうなったのやら)も今日は昼に北京のHIV団体の人と会うので一緒に行こう、ということになりじゃあ朝ご飯はやっぱ「Mina's Restaurant」かなあ、とぐだぐだ相談してさて出ようか、あれイマイズミコーイチは、と2階の部屋に行ってみると入り口付近で座り込んでいる。どしたの、と軽く揺すってみるが、「なんかね、きょう、だめみたい」と全てひらがなでようよう発語するので「じゃあ止めよう、今日はここにいよう」と言うと「でも2人は行っていいよ、だいじょうぶだから」との返事。下に降りて事情を説明して、まあここなら危ないことも(あまり)ないだろうから、と気がかりではあるが予定通り出ることにする。あるだけの水と食料を持って上に行き、じゃあ行くけど、取りあえず床に寝てないでベッドに戻ったら蚊取線香の灰が付くよ、と言うと「ここ、つめたくてきもちがいい」と動かないので仕方がない、床で死体のようになっているイマイズミコーイチを残して僕らは部屋を後にした。ここが普通のホテルだったら従業員が来て騒ぎになるところだが、幸いというか不幸にしてと言うかひょっとすると終日誰も来ないので、窓から落ちたりしなければ大丈夫だろう。


バス停

天辺くん、ケン、自分の3人で「Mina's Restaurant」でご飯を食べてバス停へ、無論時刻表などはない。ここは終点/始発から数えて2つ目なので絶対座れる、ということなのだがいつ来るのやら、と思っていたら割とすぐ来て最後尾に乗り込む。自分は未だ人民元を持っていないので朝食からこのかた天辺くんに借りっぱなしである。「こないだ(僕らの到着前)に行ったときは渋滞ですごい時間がかかりました。平均で1時間20分くらいらしいです」と言うのでそうか、じゃあ寝れるねと窓際の席で景色をぼんやり眺めたり、あれでもまだ一時間も経ってないけど終点近くねえか、と地図で確認していたら50分くらいで着いてしまった。土曜なので道が空いてたみたい。夕方に合流する約束をしてケンとはここで別れ、地下鉄「国貿」駅から一号線で「建国門」で乗り換え二号線「前門」で下車。ここの切符は乗るときはタッチセンサーで出るときは機械で回収、という方式だがこれはいいシステムだと思う。

さて北京の地下鉄に乗る人は改札の前で手荷物をスキャンされる(空港と同じヤツです)。前門(正陽門)は天安門より大分手前にある門で、いわば天安門広場への基点という感じだからなのか、出るときにも手荷物目視チェックがある。のをぼんやりして通り過ぎようとしたら「こら」と呼び止められ(たのだと思うが中国語なのでよく判らない)、ぼんやりしたまま別にマズいものは持ってないけど共産主義というのはめんどくさいね(言いがかり)、と戻って検査される。

暑い。というか日差しを遮るものがない。天安門のようなものが遥か向こうに見えているが陽炎に揺れている。あー、といきなり挫折しそうですが天辺くんが「この辺に中国銀行があるみたいなので両替しちゃいましょうか」と言う。毛主席紀念堂の前を過ぎ、人民大会堂とかなんか商工会議所みたいな建物が並んでいるあたりに古い洋館の中国銀行を見つけた。土曜だけどやってるのかねえ、と回転ドアを押すと動くので入ろうとしたが中途半端な位置にいた自分はドアに挟まれていたいいたいいたい。中にいた警備員が苦笑しながら迎えてくれた。中は暗くて営業しているのかよく判らなかったが、どうも奥で両替はしてくれるようだった。あと3日の滞在だけど宋庄にいるとおそろしく金を使わないらしい事が判ったので、そんなに替えなくてもいいけれど、あでもイマイズミコーイチの分も加味しておこうか、と多めに両替してレートは1人民元=14.XX円、だいたい15倍で計算すればいいか。受付には「担当者のサービスを3段階で評価してください」マシンがあったので「たいへんよい」を押しましたが反応してんのかどうか微妙。


てんあんもんひろば

天辺くんにこれまでの借金(と言っても数百円)を返し、さっきの前門には戻らずそのまま人民大会堂の前を通って天安門広場に出る。あ〜暑い、と水を買う。日差しはそのまま石敷きの地面から照りかえってくる。さすが世界各地からの、という感じの観光客の顔ぶれがそこら中で修学旅行写真を撮っている中を天安門になるたけ近いところで写真を撮りあって、でも門の手前に差し掛かった時の方が毛沢東の肖像に近づけるのでは、と思いましたがそれは禁止されているようでした。しかし通路の脇に立っている男の子たちはバイトかなあ、帽子かぶってるとはいえ日光直撃で、一時間くらいで交代しないと倒れるよきっと、と彼らの後ろに置いてある水のペットボトルを見ながら天安門をくぐり、このトンネル部分だけが涼しい。この中まではそのまま入れるがその先、午門の手前のチケットセンターで入場券を買わないといけない。外国人60元(ちなみに中国人は10元)。

さて紫禁城。多分小さいときにテレビで見た、その映像は殆んど憶えていないがナレーションだけがバカみたいに頭に入っておりそれは何かと言うと主要な建物の並び順で、「タイワモンを抜けるとタイワデン、タイワデンの先にチュウワデン、その向こうがホウワデン、ホウワデンの向こうにケンセイモン、ケンセイモンを抜けるとケンセイキュウ、ケンセイキュウを抜けるとコウタイデン、その他いろいろあって(うろ覚え)最後がジンムモン」これじゃ山手線の全駅を暗記して得意満面の小学生、漢字表記も知らない頃から呪文のように「タイワデンの先にチュウワデン…」などとぶつぶつ言ってる子供(+周囲の無理解)だったのでしたが、まさかホントに見に来るとはね、とりあえずでかいけど。でもその広さがなかなか写真に収まらないので諦めて、要所要所でポーズを決める天辺くんを彼のカメラで撮ったりなどして、実は閉館まであまり時間が無いので取りあえず神武門までの時間内走破を第一目標にしてどんどん進む。途中他のツアーのガイドを小耳に挟みつつへえ、とか言いながら「珍宝館」とかいうのに惹かれつつも寄らず、ずんずん進みすぎて九龍壁とか見逃しましたが構わずに、途中で天辺くんが故宮オリジナルかばんを買ったりする以外は前進あるのみ、何故こんなに急ぐのか、閉館時刻より大分早く神武門まで達してしまったので一休み、赤い壁がずうーっと延びている。


かべ

神武門を出て、お堀(などというものがあった)沿いに歩いて、「小銭ください」攻勢がやたら来るのを除けばまあ水は余りきれいではないけれど皇居のそれと同程度、と西陽を受けてたらたら進み、王府井(ワンフーチン)という繁華街を目指す。地図で見ると一回曲がってひたすらまっすぐ、なのだが途中それにも飽きて適当な路地(胡同)に入る。こっちの方が涼しいし、大通りでよりも写真に撮りたいものがいっぱいある、と適当にシャッターを切る。途中門の「向こう」に満漢全席とか書かれている店を見つけてしまうが、実のところあんまり食べたいものでもない。また大通りに出て、初めての町を歩くといつも目的地が思ったより遠いので若干不安になるが地図を何度か確認しなおしながら途中の店に引っかかる。中国服をアレンジしたみたいなシャツのお店だったのだが柄はともかくサイズがでかいのとシルエットがゆったりしているのとで自分向きではないな、と店主を振り切って(無論この辺のやりとりはすべて天辺くんがやってくれているわけであって自分は「暑いねえ」とか言ってるだけ)、もう一軒は日本語で「愛のコンビニ 日暮里ギフト」とか何とか書いてある看板のコスプレ系大人のおもちゃ屋、近隣諸国におけるジャパニーズプロダクツのイメージってハイテク機器(自動車含む)とエログッズ(ハイテクなのもあるか)に集約されるのではないか、と常々推測しているのだが北京で珍しく見かけた日本語看板の店がこれじゃあね、と推測が確信に一段階近づいて店内を一周するが、びっくりするようなものはありませんでした。

てくてく歩いてようやくこのへんが王府井ですよ、と天辺くんが言う。そっか、なんか歩きすぎて疲れた、座って冷たいものが欲しい、としばらく協議ののち、デパート内でアイスクリーム(高い)を食べて一息、外に出ると「あ、酸奶飲みたいです、ちょっと待っててくれますか」と天辺くんはその辺にあるスタンドで陶器に入った何かを一気飲みしてから、「あ、イワサさん地図、買わなくていいんですかあそこに大きな本屋がありますよ」と確かに自分は初めて行った国でそこの国内全図を買うことにしているのが何でそんなこと知っているのか、確かに本屋はあるので入ってみると洋書中心のお店なので地図も英語併記(理想は現地語のみのもの)、でもこれでいいかな、ととにかく大きそうなのを買ってから、いわゆる土産物街に突っ込む。入り口は食べ物屋台が多いので(サソリの串焼きとか)すごい臭いが立ち込める中をあ、スイカだ、と一切れ1元(15円)払って超高速で囓ってうまい。飲食店が果ててすごく判りやすい雑貨のお店が並んでいる辺りに差し掛かり、とふうん、と見ながらでもほら、何かを手に取るとお店の人に捕まっちゃうからね、と努めて均等なペースで歩いていたつもりだったのだが私は北京を甘く見ていました。売り子の女の子(おばはん含む)は自分のそんな「透明な無関心(風)」などというものは全く斟酌しないのでいきなり腕を掴む痛い痛い痛い。そして一言も中国語が判っていない私に向かって怒涛のセールストーク、何かパンダぬいぐるみのキーホルダーのようなものを「どうだ」と強力にお勧めしてくださるが全然要らないのでこういうときは鸚鵡返しで、と相手の言ったことを全て聞いたままリピート、バリ島のタトゥー押し売りはこれで撃退したし、となるべく正確に相手の言葉を再生しようと集中していると(結構おもしろい)売り子嬢はやがて頭にきたらしくパンダを自分に投げつけ、わあわあ言い出したのであ〜タトゥー押し売りとは違ってこの人は動けないからね、と自分を納得させつつ一応「勝った」ことにする。


王府井に向かう途中の脇道、こういうところに来ると俄然写真を撮り出します

そろそろ約束の時間かなあ、ケンは香港人だから遅れてくると思うけど、と言いつつ土産物屋は一通り見たし(何も買わず)、何故かインドネシアフェアー(懐かしいもの満載)をやってる辺り素戻って駅の改札付近に入る。「切符売り場で」と言っていたらしいが切符売り場は2ヶ所ある。仕方が無いので二手に分かれて待っているとやはり15分ほど遅れてケンが2人連れでやってきた。おつかれさま。もう一人の未知の男性は北京のHIV団体の人だったかコーディネーターだったか(聞きそびれた)で途中で別れてどこかへ行ってしまい、3人でまた王府井界隈をうろうろする。ご飯にでもしようか、と言うとケンは「北京の北京ダックは香港より味が落ちる(ほんとかよ)ので、別なのにしよう」と言うが3人ともお店など知らないのでしばらくさ迷い、やがて何を基準に決めたのか、とあるお店に入っていく。2階席に案内され、メニューを見ると…高い。一品何千円、のもの多数であれあれあれ、と丹念に2桁人民元のメニューを拾い出し、燕京ビールを(色が薄くて度数低め)飲んでからご飯開始、ウェイトレスさんの反応はやたら機敏だが逆に言うとちょっとグラスが空くとビール注ぎに来てしまうのでやや落ち着かない。頼んだものが続々と来てハトの焼いたやつですとか豆腐とか茄子料理とか酢豚とか、ひたすら食い、かつ飲んでお会計、の前にフルーツ出てきたけどこんなの頼んだかなあ、と請求書を見るとあれれ、ウェイトレスさん「お勧め」の前菜が妙に高い。これはやられたか?でもま、おいしかったからいいや。

王府井の同じ辺りを3周くらいしただろうか、日は落ちてきたもののまだ早い。何に早いのかというとクラブに行くのには、ですね。でも地元人ゼロの3名なので「じゃ、あすこのカフェでお茶でも」という感じにはいかず、「行っちゃう、か」とタクシーに乗り込んだ。行ったことあるというケンの指示で割とスムーズに着いて、彼が「ほら」と指差す方向を見ると「Destination  目的地」と書いてあってここですね。暗いので印象が違うかもですが道路に面した入り口から駐車場スペースの右手に建物があって、クラブと言うよりは古めかしい洋館ホテルといった感じ、外にはこの先何ヶ月かの主なパーティーが書かれたスケジュール表があって、ふうん今日はでかいのではないようだ、とエントランスに向かう。荷物チェックがあって(IDチェックはされなかったような)60元(+1DK)、入場料は紫禁城と同じ。荷物を預ける事になっているようで3人分まとめてクローク(スケート場の貸靴コーナーみたい)に渡し、廊下の右には手前から椅子が無くてテーブルのみの小さいフロア、バーカウンター、その更に奥にはダンスフロア、左手には二階に行く階段が延びておりトイレは突き当たり、と別に物件の説明をしなくてもいいようなもんですがかなり広い。そしてやっぱりガラッガラ。あははははノーワン、と乾いた笑いをして、ではお店拝見です、とやたらうろうろする。


自転車のつくだに

二階に行くと更に部屋が多く、大抵がソファのあるラウンジで、とても居心地がいい。あ〜マドンナさんツアーTシャツがディスプレイされております。しかしここもノーワン。一階に降りて、ダンスフロアはいい音響だけど自分には何度聞いても同じ曲がかかっているようにしか聞こえないので隣のバーカウンターでディーダなんぞを舐めていると聞き慣れたイントロ、Usharの"LOVE IN THIS CLUB"だ、と自分はほぼ無人のフロアに早足で行って、ほとんど誰もいない中をそこだけ踊ってみました。一時間くらい経ったろうか、気が付くとダンスフロア以外は結構人が増えていて、圧倒的に若い男性が多いけど中にはこれは会社の接待か?という感じのおっさん2人が二階のソファで歓談していたり、中年夫婦(男女の)が来ていたりとここは「ゲイクラブ」には違いありませんがかわいいちゃん探しはそっちのけ(普段もあまりしませんが)で私はそういうお客さんにばかり気を取られていました。かなりの人になっているが笑えるくらいダンスフロアはほぼ無人、ケンと天辺くんは二階のソファ席でなんだか渾然となっております。トイレに入ってみると小便のとこは仕切り無し、個室には「一人で使ってね」といった意味だと思われるお店からのお願いが中国語で張り出してありました。りょっかい。

二階で煙草を喫い、再度ダンスフロアに戻ると打って変わって満杯、何がどうなったのか判りません(相変わらず曲は同じにしか聞こえない)が混んでて大変な事になっております。見ていて面白いけど座れるスペ−スが無くなってしまったので今は何時かなあ11時半か、宿所に帰る時間は決めていなかったけれどここで朝まではさすがにきついのと、ほぼ半日放置してあるイマイズミコーイチがどうなっているかさすがに心配なので帰ろうと思う、2人は残りたければ自分だけ先に出るよ、と言ったのだけど「大丈夫、一緒に帰ろう」と言ってくれて店の外へ、とケンが「何か落としたよ」と僕に革紐を渡すので一瞬ズボンに付いていた飾りが落ちたのかと思って受け取ってよく見たら自分のではなくて革製のブレスレットでした。銀色の「♂」ヘッドがくっついているのが何とも好みではないのですがまあいいや貰っとこう、とその「♂」を速攻で外してわざとらしく「ああっ落とした」と言いながら無くしてから右手に付けました。これ留め具が穴に凸を嵌めるだけなのでそりゃ落ちるわな、と自分もいつ無くすか判りませんがこれも北京の思い出、しかも他人の。中国では無くしませんでしたが案の定帰国して割とすぐに無くしました(ひでえな)。


もくてきち

路上の看板でバカ写真(自分含まず)を撮影して、なかなか捕まらないタクシー(地図と住所を示しても「知らない」と言う。北京市道路地図は持ってないのか)を待ちながら何台目かの運転手さんで「自分は同じエリアに住んでいるからいいよ」と言われて乗り込む。バスで50分だったから、ノンストップで深夜だしもっと早く着くかな、と思いきや運転手のおっさんは「さっきの地図、見せてください」と何度か言って道を確認している。どうも僕らの滞在している辺りには行ったことがないらしい。途中で止まり、携帯電話を取り出して番号案内みたいなところに照会しているらしいが結局はかばかしい返事が返ってこないらしく、ううむ、と唸っている。とおっさんはふと自分が持っていたメモにあったポポの電話番号を一瞥し、「この人なら知ってるか?」というようなことを言い出し、こんな夜中にかけるのは申し訳ないとは思いつつ他に当てがないので「たぶん」と曖昧に返事するとおっさん、電話番号を一字づつ大声で読み上げながら携帯を操作し、運良く出た(ポポくんごめん)ので道を聞いているようでした。「オッケー」ということなのか終話してタクシーは走り出し、自分は窓から顔を半分出したままヘッドホンでくるりの「アマデウス」を聞いていました。

「しかし暗いね、シベリアみたいだながははははは」と言いながら(当てずっぽうですが後で聞いたら大体そんなことのようでした)おっさんはいい人で、真っ暗な中を無事に送り届けてくれ、自分たちは閉まっている門扉開けるべく叩いたり「すませーん」と呼んでみるが、詰め所にいる人は物音で起き出したもののこちらに気づいておらず、ランニング一枚でテレビなぞに見入っているのでどうしよか、と思っていたらあ、呼び鈴があるのかここ、と再度押すとやっと開錠してくれて、深夜1時過ぎに帰宅。部屋の二階に駆け上がって灯りのない部屋を覗き込むと手前のベッドに倒れている人ひとり(イマイズミコーイチ)。ゆさゆさ揺すると「んあ?」と気の抜けた音を出すので「帰ってきた」と報告すると「いま何時〜?」などと言いながらのろのろ起き出す。「すごい寝た、朝よりは気分がいい」と言うので天辺くんが故宮で買ったパンの余りなどを食わせて本日は寝ましょうか、明日は上映だし。


2009.0618 北京へ
2009.0619 宋庄一日目
2009.0620 遠足:北京市街へ
2009.0621 上映、映画祭クロージング
2009.0622 移動:北京市街へ
2009.0623 帰日