2009.0621 星期日

11時頃に起床。一昨日立てた計画では今日は万里の長城ツアー、だったのだが僕らが夜遊びしてしまったのとイマイズミコーイチが本調子ではなさそうなのであっさり止めてこの辺でぶらぶらしまひょう、とバカの一つ覚えみたいに「Mina's Restaurant」にご飯を食べに行く。昨日の両替で一気に金持ちになった自分は景気よく注文したかどうかは忘れましたが(写真が残っていない)きっとトマトと卵の炒めたやつを頼んだはず。ここは閲覧用のアート雑誌が充実していていいねえ、と分厚い各誌をめくり、かつ食い。さて映画祭なので映画を見ようと(パスがあるもんね)宋庄美術館の会場に向かう。これから見られるプログラムは短編集、ポポの「新作」もやるし、あれでも最後のが2時間半の作品だ、これはちょっとパスかな、と思いつつ既に始まっている上映会場に潜り込んだ。

プログラムとしてはドキュメンタリーが多いというかんじ、ほぼ中国国内制作の映画。ポポのもそうだけど同性婚を主題にしたものが多い。「戀夕陽/Come to Daddy」という年配のゲイに取材したドキュメンタリーが面白い。ポポの作品は僕らが昨日行った天安門広場近くの「前門」で行われた同性婚イベント、おそらくパフォーマンスだけど女女一組、男男一組のカップルが盛装して式を挙げる。そこに集まった野次馬の一般市民様へ突撃インタビュー、「同性同士が結婚することをどう思いますか?」「いいんじゃない、その人の自由だし」「じゃあ、もしあなたの子供が同性と結婚したいと言い出したらどうしますか?」「まさか、そんなことはあり得ない」という一連の会話も相当パンチが効いていましたが一番面白かったのは背が低くて人垣の向こうで何をやってるのか見えない子供が「手品?手品?」と言いながらぴょんぴょん跳ねているショットでした。まあ手品と言えば手品のようなもの、そんなには間違ってない。

最後の超大作の前に休憩と相成ったようなので抜け出し、ちょっと美術館でやっている展示を見ていたら「Mina's Restaurant」で見た雑誌に載っていた写真作品が展示されていて、この人の作品はすごく好きだなあ、と名前をメモする。今朝一旦宿舎に戻ってから市街地に行ってみようか、こないだは閉まっていた美術館にも行きたいですと天辺くんが言うのでじゃあバスに乗ってみましょう。バス停に行くまででも暑くてバテそうです。「市街地」とは言っても大した距離ではないのであっという間に着く。まあスーパーがあるだけとも言う「市街地」にはさすがにアート村らしくインフォメーションセンターがあり、雑誌のバックナンバーが棚一面に置いてあるのでさっきの作品が載っていた号はあるかなあ、と天辺くんに聞いて貰うが「すいません、ないです」とのことで諦める。


ベンチに寝っ転がって撮ったので、これが正位置

次は隣の「超市(スーパーマーケット)」でお買い物、一昨日の所より広い。最初は特に何が欲しいという訳では無かったのだけど、見ているウチに超クールな封筒を見つけ、あ〜これ帰国したら出す予定の『初戀』DVDおまけに付けたらいいんじゃないかな、と数を数えてみる。残念ながら十分は無かったのだけどあるだけを、親切な店員のお姉さんに(親切なのはありがたいですが中国語でどんどん説明されても判りません)手伝って貰って全てお買い上げ、あとは緑茶が飲みたかったのでペットボトルの…これ加糖だけど、まあいいや。店の前にあるテーブルで昨日ケンにもらったお菓子やらをバリバリ食ってるイマイズミコーイチが「散々宣伝してるから、買ってみた」という赤い缶飲料をペプシ、と開けて一口「まずい」とこちらに寄越す。…確かに民族的な陰謀かと思えるほどのお味、取りあえずこれは(名前は「王老力」という)美味しいことを主眼に開発したものではないのは確か。隣には釣り堀みたいに暗いインターネットカフェというかゲーセンがありました。

ああもう歩きたくないボラれてもいいから、と三輪車に乗ってこないだのドラム缶美術館(正式名称は上上国際美術館)へ向かう。この乗り物だと写真をばしばし撮れてべんり、とか思っているウチに着いて、まあそんな法外な値段ではなく(通訳さまのおかげであろう)、また来たよドラム缶、と前回は閉まっていた右手のメインっぽい館の階段を登る。入り口は二階にあり、受付でお金を払って階下を見渡すと、どうやら彫刻の展覧会のもよう。天辺くんが見たいと言っていたロシア素描展はどこでしょうね。まあいいか、とかなり広い部屋をぐるぐる回る。オーソドックスな塑像も多かったけど、中には夜中これだけライトアップされていたら小便ちびりそうなキツいのもありまして面白いですねえ、と写真撮影していいのかどうか、一枚だけメカニックな牛の彫刻を撮る。あ、ロシア素描展の部屋があったけどここだけだ。ボリュームとしては彫刻がメインの模様。トイレ、と自分は矢印のあった方に歩いていくとあからさまに関係者以外立ち入り禁止エリアみたいなところを過ぎたあたりにトイレはあり、「経理室」みたいな部屋もありましたが構造的にこれでいいのかこの建物。

入り口付近にはおそらくオープニングセレモニーをやったらしい壇が組まれていて、さて帰ろうか、と自分は出口に向かったが、天辺くんはその席にとととと、と登って何やら拾い上げ、どうやら登壇者が付ける用の「貴賓」みたいな事が書いてあるゲストパスの徴証らしいもので、「これ付けてここで写真撮りたいです」と言いだし、イマイズミコーイチが撮影などしておる。しかし昨日の紫禁城も然り、どうしてこの人はこう至る所でこの手の面白写真を撮りたがるのか、その欲求の源がいまいち呑み込めませんが、まあ民族差であろう(何でもこう言えば通ると思っている)、とぼんやり見過ごし、逆光のせいで洞穴の出口みたいになっている階上を目指す。さっきの雑誌に未練がある自分は売店ないかな、とうろつくが「ゲスト控え室」みたいなのしかありませんでした。


うし(牛じゃないかも)

またしても三輪車で宿舎へ、ささっと体を洗って(しかしここの水は硫化水素のような臭いがします。生水を飲めと言われても無理)から会場:現象工作室へ。プログラムによると18時からクロージングセレモニーと書いてあるがどこで何を、と屋外の席で合流したケンと肩もみ合戦などをしているとみんな屋上へ登りだし、後ろを付いていったらそこには各種飲料と軽食に果物が盛られていたのでわ〜い、と言いながら食べる。このパイナップルビールってのは期待していたよりは美味しくないね、と勝手なことを言いながら取材の人、スタッフ、「Mina's Restaurant」のミナさんなどと写真を撮る。結局顔は知っているけど何の人だか不明な方々多し。屋上は見晴らしがよくて気持ちがいい。さてそろそろ室内で、最終2本の上映が始まる。ここで帰らなくてはならないケンとバイバイして、僕らは一階の会場に入った。

暗くなったシアターのスクリーンにはブロークバックマウンテン(ではないが、みたいな)映像が流れてだすと舞台袖にろうそくの灯りが一つともり、そこへ中島啓江みたいな(女の人だと思ってましたが男性だった)歌手が歌いながら登場、おおセレモニーっぽいぞ(拍手)。歌の後で崔さん、ヤンヤンほかのスタッフが挨拶をしてから崔子恩監督作品「誌同志/Queer China」が始まった。中国で同性愛がどのように扱われてきたか、を映画やこの映画祭の歴史を主軸に描いたドキュメンタリー、おそろしく漲っている。例えば上映後の質疑応答で「どうしてあなたはこの映画を撮ろうと思ったのですか?」といった類の質問が憚られる、と言えばいいんだろうか。「でもやるんだよ、今」という声が無言で底部に響いてるような映画でした。


屋上から。パノラマで撮ってみました

「誌同志」上映が終わって次が「初戀」なんですがこの時間はさすがに「終電間際」、近所に住んでいるか車があるか、あるいは映画を見たあとは野宿するかしないといけない(ホテルとかあるんだろうか)感じなので休憩時間の間に人が帰る。ううむ仕方ない。取り合えず映写のチェックだ、とイマイズミコーイチと共に後ろのテクニカルルームに行くと小柄な男の子がいたので「映写テストさせてもらってもいい?」と話しかけるが表情からして英語がほぼ通じていないようだ。お互い一瞬「通訳呼ぼうか」という顔を見合わせたが、おそらく勘のいい子なんだろう、「入って」というジェスチャーをして自分を映写室に入れてくれ、かなり高いところにある小窓から「見て」と合図する。「4:3?それとも16:9?」と聞くので「ふぉーばいすりー」と背が届かないので窓枠にぶら下がりながら答えると絵が出たので客席にいるイマイズミコーイチに「どんな〜?」と大声で聞く。こっちから見た感じだと大丈夫そうなのであるが、まあ細かい注文があっても伝えられないので。イマイズミコーイチも「ま、いんじゃない」ということでオッケー、テクニカル小僧にありがとうを言って開場、初戀北京編。

おかげさまでトラブルもなく上映はすすみ、なかなか反応もよく、なおかつ珍しくエンドクレジットまでやってくれたので機嫌をよくして質疑応答、ポポが司会で僕らを紹介してくれる。まあ今回は天辺くん(+通訳さん)もいるし、と気楽なもんである。ポポが「さてこの二人はカップルで」などと僕らを紹介しておしまいになったため不意を突かれてむせるチームハバカリ、後が続かないからお願い止めて。気を取り直しての質問感想はかなり活発にできました。

・ドレスがすごくよくできてました。
・「ケイゴ」がオーヴァーアクションなのはどうしてですか。
・日本のゲイはどんな状況に置かれているのですか。
・どうしてああいったラストにしたのですか。
・商業的には成功しましたか。
・DVD化されてないんですか。
・日本には自主映像作家はいますか。また映画界であなたはどういったポジションにいるのですか。
・将来的にも自主制作で作るつもりですか。

後半はなんだか商業の話になってましたが、イマイズミコーイチが「いや、自分はホントに無名だし商業的とかそういうの以前の話であはははは」と答えるとポポが「監督はあんなふうに謙遜してますがググるとすごい出てきます」というフォローのようなものをしてくれて、「ま、お金無いのは事実ですが何とか」とうやむやにして恒例の、お客さんと写真撮ったりサインくらはい、などをしつつ中国語の出来る天辺くん大人気でたいへんよろしいクロージング上映でした。テクニカルルームに寄ってありがとね、と撤収を手伝い、なんだか無茶な機材の運び方をしていたので自分がカメラを持って外に出、ふと見ると自分がお土産に持ってきたとらやの羊羹が全て食べ尽くされておりああ食いはぐった、と図々しいことを思いつつ外箱だけもらってからスタッフと写真を撮ったりしつつこの後はどうするの、と聞くと「こないだカラオケやってたとこで打ち上げします。来るでしょ?」との事なのでは〜い、とお返事して歩き出すがふと「Mina's Restaurant」のミナさんにもう会えないんだ、と気づいてお別れを言いに行くことにした。天辺くんとははぐれてしまったのでイマイズミコーイチと2人、何度行ったかの「Mina's Restaurant」に入ると屋外席にミナさんがいた。顔を見るなり「ごめんなさいね、あなた方の映画を観たかったのだけれどお店が忙しくて」と言われてしまいました。そっか残念だったけどまたの機会に、と言いながら僕らは席に付いた。

「上映成功をお祝いして一杯おごるわね、ビールでいい?」とミナさんは厨房に消え、やがて瓶ビールとグラスを手に戻ってくると注いで、「乾杯」。「あのですね、実は僕ら明日北京市街に移るので多分もう会えないんです。だからさようならを言いに来たのれす」と告げるとミナさんは「そう、でもまた会えるといいわね、私は日本に友達もいるしこの店は10年契約で借りてるからまた来ればいいわ」と言うのでその友達と言うのは誰、となにか胸騒ぎのようなものがして聞いてみると僕らの友達ですた(やっぱし)。3人で大笑いして、ミナさんは更に「私もドキュメンタリー映画を作ったことがあって、それで日本に行った。ちなみ私の夫も映像作家」と追い打ちをかけるようにどんどん言うのであ〜やはり必然は必然、メシが旨いだけじゃなくて、とちょっと胸が焦げて、自分は一気にビールを飲み干す。「あら、そんなに喉が渇いていたの?じゃもう一杯いかが」と言われたが「実は誰にも言わずに来ちゃったんです。あんまり遅いと打ち上げ会場でスタッフが心配する(されない方が気が楽だがそれはそれで寂しいものがある)かもしれないからもう行きますね」と最後に旦那様に紹介して頂き(一見ただの酔っぱらい)、再見。


乾杯してました

夜道を当てずっぽうで歩いて、宋庄美術館が見えてきた。今日はいつぞやとは違って手前の屋外スペースに長テーブル2つ分を占領している。既に宴会は始まっており、遅れてきた僕らは上座のような所に座らされてしまうが見知った顔がいるのでここでいいや。僕らを待ち受けていたかのように初日迎えに来てくれた日本語の話せる女の子が映画について質問してくる。が、「画面の半分と半分が同じなのは、何でですか」って質問内容がよく判らない。英語も交えて散々話すが埒があかないので隣テーブル奥で歓談中の天辺くんをイマイズミコーイチが引っ張ってきて通訳して貰うと、「シンメトリーの構図が多かったのですが意図的なものですか」ということでした。そうか半分と半分…。「意識していなかったけど、シンメトリーは好きだから多くなっちゃったかも」と監督回答、やれやれようやく解決した。天辺くん(後で聞いたらえんえんエロ話をしていたらしい、とちょっと羨ましげなイマイズミコーイチ)ごめん。

映画祭で観た中国の作品について話をしたかったのだが崔さんは忙しそう&英語があまり通じないのでプログラマーのヤンヤン(隣に座っている男の子もヤンヤンという名前だが)に質問してみる。「同性婚をテーマにした作品が多かったように思ったのだけど、中国では一番の関心事なのかな」と尋ねると彼女はちょっと困った顔をして、「まず私個人は結婚制度というものを信じていないの、"I believe in love"だけど、中国の同性愛者にとって結婚の問題が重要だと言うことは理解している。」と答えた。一昨日の会食で自分があまりにも中国の事情に無知、ということをおそらく判っているとは思うのだがそれでも「失礼な質問だったらごめんなさい」と先に謝ってから更に素朴すぎる質問をしてみた。「中国はほら、一人っ子政策とか人口抑制に躍起になっているけど、例えば権利運動の戦略として子供を作る可能性の非常に低い同性愛者の存在は政府の方針に合致しているとか、そういう認識にはならないのかな」ヤンヤンは苦笑しつつ「それは、もう何年も前から色んな人が何度も提案してるけど変わんないわね」だそうでした。向かいの席で聞いていたポポが(相変わらずもりもり食っている)「政府の方針より、親からの結婚&子供を作れのプレッシャーの方が何倍も強いんだよ、僕はたまたま兄弟がいるので(一人っ子政策はどうした、実家が金持ち?)大丈夫だったけど、そういう文化的な背景による抵抗があってうまくいかない」と続けた。あっそうだ今日観た君の新作はとても良かったよ、と言うとポポはちょっとはにかんで「ありがとう」と言った。


これがポポの映画、クロージング会場でちょっと流れたもの

どうやらぼちぼちお開きらしい。スタッフの一団が車でどこかへ(どこへ)帰っていき、天辺くんもそろそろ戻りたい、と言う。スタートの遅かった僕らはもうちょっと残りたいな、とカレー味の焼き鳥などに食らいつきつつお見送り、人もまばらになった会場で崔さん、ポポ、ヤンヤンと写真を撮ったりしてからじゃあ戻るか、とみなさんにさようならをして、あっそうだ明日の移動はどうしたらいいんだろ、とポポに聞くと「朝に宿舎まで迎えに行く。車でホテルまで送っていくよ。11時にしようか」と時間を約束してから2人でじゃあね、と手を振り、さっきからX意を催していた僕らはまだ残っている人のいる宴席が見えなくなったのを確認してから近くの溜め池のへりで立ちXXを(一部自主規制)、すっきり。宿舎に戻りシャワーを浴びて、隣の棟にあるスタッフ集団部屋にちょろっと顔を出してから自分たちの部屋で荷造り、蚊取り線香に火を付けてから就寝した。


2009.0618 北京へ
2009.0619 宋庄一日目
2009.0620 遠足:北京市街へ
2009.0621 上映、映画祭クロージング
2009.0622 移動:北京市街へ
2009.0623 帰日