2007.1122, thu

 「正午チェックアウト」と言われていたので11時に起きてみたが、12時にならないウチに掃除のおねいさんがやってきてしまい、しかも英語が全く通じないのでお互いどうしたらいいのか判らない。でも「キーを」と言っているようなので鍵を渡し、イマイズミコーイチがシャワー浴びたりしているうちにJが来た。映画祭が用意してくれているホテルに移るためだが、ここの支払いはおいくら?と聞くとJ、「僕らが出すから心配しないで」と額を教えてくれないのですんませんありがとうございます、とお礼を言って、近いので徒歩で次のホテルに向かう。丁度お昼時なので道は人でごったがえしている。着いたのは道に面した真新しいビル、Jが扉を開けようとしたらロックされており入れないが、あからさまに旅行者な出で立ちの自分らを認めたホテルの人が開けてくれた。ホテルというものは誰でも入れる施設だと思っていたが、ここはセキュリティーが厳重らしい。

 中は、何と言うんだろう生活感が無いというのかセットっぽいというか、とても異次元空間であって非日常なインテリアのロビーである。チャイナ服をアレンジしたみたいな制服のフロントの人がチェックインをしてくれている間に自分はあちこちをきょろきょろ見渡してみたが、いかにも「ハレの空間」でした。部屋(今晩は1人1室)に案内されるとこれまたモデルルームとかみたいで異次元空間、マンスリーマンション並みに色んなもの(電子レンジとかアイロンとかIH調理器とか)があるが、おそらく使わないで出ることになるんだろうなあ。自分は6階、イマイズミコーイチは14階。部屋の探検は後回しにしてJと昼食を食べることにする。キーには通常の金属製の鍵が付いているのだが、キーホルダーになっている白いプレートは建物に入るための電子キーになっているとのことで、常に持ち歩いていてください、と言われる。こええな。


東急世田谷線より思い切りのいい広告の路面電車(二階建て)

 「何食べたいですか」と言われたので「雲呑麺、エビの」と即答するとJ、「では」と近所の麺屋に入る。蝦雲呑麺と言えば九龍側の佐敦(ジョーダン)付近の店(うまい)しか知らないのだが、出てきたヤツはそこのより大振りな器に入っていて、雲呑の味付けは独特に香辛料が利いている。茹でっぱなしにした芥藍(カイラン)の油&オイスターソース掛けを副菜にいただく。食後、事務所に戻るというJに「どこかレートのいい両替所を知ってる?」と聞いたら「H(相棒)の方がお金には詳しいから聞いてみる」と携帯を取り出す。結果、「手数料を取られるから大口なら銀行、少額ならそのへんの両替所でレートいいところを選べばよし」とのこと。いくつか両替所を廻ったが大して違いは無し。ありがとうあとは自分たちで適当に探してみる、とこれから空港にヒロくんを迎えに行くJと別れてからとある銀行に入り、案内のお姉さんに「外貨両替やってますかレートはいくらですか」と聞くと手数料引かれても両替所より効率よく換えられる事が判ったので2人分まとめて両替、大体1HK$=14円というところ。両替を終えて大量の現金を持ったままなのだが、乾燥のせいなのか寝不足かよく判らないが自分の顔がガサガサになって粉を吹いており、仕方ないので何か付けよう、と薬局に入る。「SaSa」というコスメ中心みたいなところだったが安いんでいいや、とローション購入。

 帰り道にエッグタルトを買ったりしてイマイズミコーイチの部屋に戻り、またしても室内に灰皿があるのでフロントに聞くと「灰皿がある部屋では喫煙可です」ということなので2人してお茶を入れたりタルト食ったり何故か昨日の面接でもらったDVD(応募中の映画祭の授賞式の模様をパッケージ化したものなのだが、そこのプログラマーがたまたま来日していて僕らの映画のプレビューをその面接会場で見てくれ、「是非自分たちの映画祭に来て欲しい」と言ってコレを置いていったそうなのだが行けるかどうかを決めるのは僕らじゃ無いからなあ、行きたいけどさ)を観たり日本から持ってきたチラシを整理したりなど。そろそろJがヒロくんを連れて戻ってくる時間が迫ったので自分の部屋に戻り、ここには灰皿がないので禁煙というわけですね。自分は早速さっき買ったローションをつけてみたが、普段全然使わないので加減が判らず大量につけたら顔がぬるぬるになってしまう。慌ててティッシュで拭いたらあ、けっこういいじゃん。と言うわけでその後も愛用したのだった。結局最後まで肌荒れは直らず。


こんな部屋

 階下に降りると、例の外から開けられないドアの向こうに携帯で話している女性が見え、直観的に彼女が多分今回のアテンドをしている日本人Cさんだろうと見当を付ける。向こうも判ったようで中に入ってくると迷わずご挨拶、彼女は香港を拠点にアジアをカバーするセクシュアルマイノリティ向けのポータルサイトで働いているそうで、とても気さくに話してくれるので初対面の方にはとても人見知りな自分らはだいぶ助かりました。Cさんと話しているとJが一人でのこのこやってくる。あれヒロくんは?と聞くと「部屋で支度をしてます」と言う。やがてちっこいバッグを持ったヒロくんがエレベータの辺りからちょこまかと出てきて、「着きました~」と言いながら僕らのいるテーブルに到達でお疲れさま、よう来た。彼はデポジットを知らないらしく「チェックインする時に『クレジットカードの番号を』って言われたんだけど暗証番号とか今わかんないし『ない』って誤魔化しちゃった」などと危険なことを言うので「聞かれたのはカード番号、暗証番号はもし聞かれても言っちゃいけません」とカード詐欺防止講習みたいになる。これでやっと全員揃ったのでまずはお茶を淹れてしばし雑談&ミーティング。今日は夜に上映アンドオープニングパーティーに出ないといけないのだが、別会場でもう一つのオープニング作品(どちらかと言うとそっちがメイン作品)の上映会場でオープニングセレモニーつうもんに出ないといけない。何で別作品の上映前にで別作品を観に来たお客さんに挨拶か、とやや理不尽な感じがしないではないが、これも飛行機代とホテル代の対価の義務であるようなのでま、いいか。

 ホテルを出、Cさんは僕らの上映会場に一足先に向かうというのでここで一旦別れて、まずはバスに乗ってホンカム(紅+石偏に[勘]で1字)駅まで行き、そこから電車(地下鉄ではない)に乗って九龍塘(カオルントン)駅、からすぐの劇場に向かった。会場は商業施設の中にある「AMC 又一城 festival Walk」というシネコンで、建物内にはスケートリンクまであるでかい施設、そこの奥に進むとスターバックスに隣接した映画館の入り口に至るエスカレータが動いており、ここで香港L&G映画祭のディレクターVに2年ぶりの再会。イマイズミコーイチが日本からのお土産を渡して軽くご挨拶、あとで「何か、以前より福島瑞穂感が減ったねえ」などと褒めているのか貶しているのか判らない感想を漏らした。まだ若干時間があるのでスターバックスに入ってコーヒーなどをすする。いまいち香港ドルからの換算感覚が身に付いていないのではあるが、多分高い。トイレから戻った自分はJに「で、オープニングセレモニーでは何をすればいいわけで?」と聞くとJも「判りません。何も聞かされてないのですが多分いるだけでいいのでは」との返事、むむう。


スケートリンクあり舛

 そろそろ会場へ、とお呼びが掛かったのでエスカレータを上り、キャラメルポップコーンの匂いが充満するロビーに行くとそこでここでの上映作品『Bangkok Love Story』のゲストの皆様が映画祭の立て看板の前で取材撮影をされている。ふえーなんかギョーカイぽいわ、と思って見ていたら僕らも呼ばれてしまい皆さんと記念写真、ちなみに僕らは単品では撮られませんでした。客入れが済んでまずは客席に待機していてください、と言われたので用意された後ろの方の席で待っているとやがてディレクターVがスクリーンの前で挨拶をし、司会のすんげえおねえさん(男性)がまず『Bangkok Love Story』のゲストの皆様を呼び、次いで僕らも呼ばれたんで行ってみましたが袖でマイクを渡されたのでやっぱ何か喋らないといけないのかなあ、と思っていたらおねえさん(男性)が僕らの紹介もそこそこに「ではではみなさんありがとうございました~」とか言ったらしく「オープニングセレモニー」はこれにておしまい所要時間5分、さっきマイクをくれた女性にちょっと困った顔をして戻したら、彼女も苦笑していた。

 このまま映画を観ている時間は無いのでそのまま出る。途中巨大なクリスマスツリーの前で記念撮影などしつつ会場を後にし、別の映画館での『初戀』の上映は同時刻開始なのでいずれにせよ開始には間に合わない。おかげさまでフルハウスだし、観なくていいかなあと言うことで地下鉄で劇場のある油麻地(ヤウマティ)まで向かってから近所の粥麺屋に入って中華粥、自分は皮蛋+豚肉入りを頼んでみました。かなり腹一杯です。会場はブロードウェイ・シネマテークという以前も上映されたところ、シネコンではあるけれどデパートの中とかではなくてあくまで映画館が主体。日本から持ってきたポスター(東京での劇場公開用)を先発のCさんに託していたのだが、Jが香港で作成したチラシ置き場の近くに貼られていた。

 終映10分前くらいで会場に入り着席、エンドクレジットが始まった、と思ったら案の定客電が付いて音が下げられ、司会くんが喋り出してしまった。色んな国でもう何度も経験しましたんで文句は言いません(無駄だから)が、将来自分はちょっと偉くなって最後まで上映しろ、と我が儘を言えるくらいになりたいな、とはちらっと思いました。呼び込まれてスクリーン前へ、今日は上映後のQ&Aなのでした。

[出た質問]
・この物語はどうやって作ったのか
・日本のゲイの状況はどうなっているのか
・日本のゲイ映画の状況はどうなっているのか
・アジアのゲイ映画について思うところはあるか
・(ヒロくんに)演じる上で難しかったことはあるか
・(自分に)どうやって音楽を付けていったのか

など。特にものすごくユニークな質問は出ませんでしたが、実は香港の映画祭でQ&Aをするのは初めてだったので新鮮ではありました。しかし空調が利きすぎていて寒く、そのせいでなんとなく雰囲気も寒げ、だったように感じてしまいました。最後に「サントラCDとポストカードセット持ってきたので買いたい人は声を掛けてね」と言ってみました。ほとんど誰も来やしませんでしたけど。終了後主演ヒロくんは恒例の写真攻めにあっており、次の回があるのですいません出てもらえますか、と劇場スタッフに言われるまで気軽に撮影に応じてました。


舞台挨拶&キューアンドエー

 さて次はオープニングパーティーなんですが、ちょっと劇場周辺でコンビニを覗いたり、残ってくれた人とお話をしたあとでタクシーに分乗し、海を渡って香港島側の中環(セントラル)付近、繁華街である蘭桂坊(ランカイフォン)エリアで下車、「FINDS」というレストラン&バーみたいなところへ移動する。てっきりクラブパーティーみたいなものを想像して疲れそうだなあ、と若干怯んでいたのだが、行ってみたら基本テーブルとソファ、だったのでまずは落ち着くが、なんだか色んな人が来ては紹介されるので憶えきれない。ヒロくんは大人気でここでも写真攻め。やがて『Bangkok Love Story』ご一行様が来たのでひとしきり騒がしくなったあと、オープニングセレモニーで何とも豪快な司会をしていたおねえさん(男性)がここでも司会らしく大抽選会が始まる。 パーティー券(政治家みたい)は単体か『Bangkok Love Story』又は『初戀』のチケットとセット販売されているのだが、それぞれに打たれた番号を抽選して各種プレゼント(ワインとか映画のポスターとか)が当たる。映画グッズと言っても『Bangkok Love Story』のものだけなので(自分ら何も用意してきてません)、畢竟ボックスに入った番号札を引くのはバンコクチームだったのだが、やがて僕らにもお鉢が廻ってきて引かされる。幸い僕とイマイズミコーイチが選んだ(各2回ほど)番号の人は該当者がいておめでとーございます、だったのだがヒロくんが引いた札は何でか誰も名乗り出ず(2回とも)、「なんで~?感じ悪くない?」と言ってましたが何でか、なんて理由は自分にも判りません。


大抽選会中、ですがよく判りませんね

 さて抽選会も終わり、もういいだろうと思うのだが帰る前に「Badi」編集者としてヒロくんは映画祭ディレクターVにインタビューをしたい、と言っていたのでVを掴まえて屋外席に連れ出す。僕らも聞きたかったので自分通訳、という危険な取材が始まった。メモを取っていないのでうろ覚えですが、それぞれの質問をまとめるとこんな感じ。

「この映画祭が始まったのは18年前、アジアで最初です。途中に中断を挟みましたが15回に渡って開催されてきました。しかし回数より、今年で18年目という事が一つの節目だと考えています。去年のテーマは『トランス』でしたが今年のテーマは『18+』です。18歳は香港では成人の年齢です(お酒が飲めるようになるとか言ってたけど)。この映画祭も一人前の大人になりたい、そう願ってこのテーマにしました。『初戀』をテーマ・オープニング作品として選んだのは、まさにこの作品がそうした年代のゲイを描いている事によります(もちろん、宣伝段階で観客にアピールする魅力に乏しいものをオープニング作品に選ぶのは危険ですから、そうした点も考慮した上でのことです)。この映画祭はアジアのLGBTイベントとしては際立った存在であり、今後は経済的な点においてもきちんとした運営にすることが未来への目標です。」

 取材を終えてVにお礼を言った。しごくまともなコメントだし、僕らの航空券のバタバタもま、スタッフ不足が理由というのも判ったので(Vからは後で「煩わせてしまって、すみません」と謝られた)この先も付き合っていけるかな、と思えたので聞けて良かった。どことは言いませんが今年の前半に、自分たちに将来改善すべき点があるなどとは露ほどにも思っていない映画祭とのやりとりを非常に徒労な感じで経験した自分らにすれば、これが「フツー」だろう、と。さてこの時点で新事実が判る。JとH(共に男性)はカップルだったのでした。以前Jに会ったことがある人に「彼はストレートだ(と思うよ)」と言われててっきりそう思いこんでいたのだが、考えてみればBadiを持ってきて欲しいだのなんだのの段階で気が付くべきでした。本人も大笑いしているので「韓国でイソン・ヒイル(映画監督)がJは違うって言ってたので…」と言い訳をするとJは「香港ではオープンにするのが難しいので、自分は誰にでもセクシュアリティを明らかにしている訳ではないのです。昨日あなた方が私とHを『(友達として)長いつき合いみたいだね』と言ったので、あ、ちゃんと理解していないかもと思ったのですがやっぱりそうでしたか」と言った。ははは。何かいろいろ氷解して、と言うより全作品を預けるからにはやはりそれなりの理由があるのですわな、と思ったことでした。


劇場近くのセブンイレブンで。こんなチョコ見たことありませんが

 Cさんがそろそろ帰る、と言うのでお別れをして、僕らも切りのいいところでホテルに戻ろうか、と招集をかける。会場は深夜営業に切り替わるらしく、テーブルには食器が並べられだした。JとH+僕ら3人でタクシーに乗り(Jは『Hはデブだから助手席、僕ら4人が後ろ』などとひどいことを言う)ホテルの近くまで行く。パーティー会場ではあまりまともに食事は出来なかったので食べよう、と近所の上海麺屋に入る。昼間の雲呑麺とはちがってここのは白くて柔らかい麺、自分は坦々+豚肉何とかというのを頼んだら坦々麺にトンカツが乗っていました。旨かったけど、どうも深夜の2時に食うもんではありません。


2007.1121 香港へ
2007.1122 第一回上映、オープニングパーティー、取材1件
2007.1123 被取材4件、第二回上映(追加上映)、取材1件
2007.1124 取材1件
2007.1125 被取材1件
2007.1126 帰日