2007.1123, fri

 昨夜僕らにあてがわれた部屋は一人一室、自分6階イマイズミコーイチ14階で、ヒロくんは更に上がって19階(どこまであるんだ)と見事にバラバラ、でもって今夜は三人で二室を使う必要があるのだが結局一夜で部屋を出なくてはならないのがイマイズミコーイチと判り、彼だけは朝のウチに部屋をチェックアウトしなくてはならない。かつ、自分の部屋(禁煙)よりヒロくんの部屋の方が広くて喫煙可なので今日戻ったら交換してもらうことにする。昨夜Jは「事務所で取材を受ける事になっているので10時に待ち合わせましょう」と言っていたのだが指定の場所はそごう前、そごうで待ち合わせ、って横浜みたいで全然海外に来た気がしない。しかしそれ以外に確実な場所もないのは確かなので3人でロビーに集合、イマイズミコーイチのチェックアウトを済ませて外に出る。しかし無茶苦茶いい天気である。歩いている人の服装も半袖だったり冬服だったりでバラバラ。

 そごう前でHが待っていた。JとHのインディー映画配給 NGO事務所はこの近くなので歩く。途中パン屋があってHは「コーヒーとかも売ってるし、軽く食べたければパンでも買っていけば?」と言うので入ろうとすると通訳Cさんがスターバックスの紙コップを持って(昨日も持ってた。常飲らしい)通りかかったので合流する。一昨日建物前までは案内してもらったので知っていたが、ビルの入り口には鉄格子が嵌っていて、その扉を開けてエレベータに乗る。10階(だったと思うんだけど)まで上がると更にドアがあり、左手の二重扉(やっぱり外側は鉄格子、ブルーだった)を開けるとそこが彼らの事務所なのだった。一言で言うならば「捨てられない人のパンダ屋敷」でしたこの事務所。以前東京で会った時にHが「Jはパンダが好きなので、事務所にはパンダがいっぱいある」と言っていたけれど現実は僕らの予想を遙かに凌駕する量のパンダのぬいぐるみ、スヌーピー、クマ、ドラえもんのフィギィア、ケロロ軍曹にQooちゃん、その他何だか判らない人形、机の上に書類の山脈で奥のスペースは溢れかえっており、キッチンスペースには洗ったペットボトル(主に500ml)の空き容器が置けるところにはすべて詰められていて、その他ファーストフードでくれるケチャップのパック、駄菓子(日本製多し)に古新聞古雑誌にご家庭内でご不要になりましたものがうず高く堆積しており、トイレを挟んだ隣のスペース(押入半間くらい)にも判別不能の有象無象が詰まっていてもはや何のための空間なのか判らない。片付けられないと言うよりは捨てられないのだろう、不潔感は全くないがどう考えても自分には処分した方がいいものが6割に思えましたが、パンダエリアと棚を隔てた机の一番窓側に、雑誌やら書類をかき分けてやっと置けるくらいのスペースにはまり込んだノートパソコンから目を離したJが僕らに気付いて「ハイ」とか言いながらニコニコ近づいてきたので自分は何か言うべき気もしなくなって、つうか君が幸せならばそれでいい、と多分10歳くらい年上のJに「ハイ、グッモーニン」。


書類サイドオヴJ&H事務所

 Jは12月に僕らが過去に製作した全ての作品上映会を香港で企画してくれ、今回の上映はその前宣伝という意味合いもあるのだが、出来るだけ取材を受けてお客さんを呼ぼう、という算段なので僕らもそれに異存はない。「でも出来るだけオフタイムを作った方がいいですから、取材はまとめてしまいましょう」ということで今日はここで4件の取材を受ける。モノが多いわりに中央はスペースが空いており、そこに椅子と木箱が置かれていて、Cさんの通訳で一件目の取材からスタート。受けたのは順不同(憶えてない)に新聞「文匯報」、地下鉄の雑誌だという「metropop」、12月の上映サポートでもある雑誌「milk」、もう一紙新聞「South China Daily Post」で4件。聞かれたこともごっちゃになっているのですが主に僕らの活動内容などについて聞かれた。それぞれがカメラマンを用意しているので最初はインタビューが終わるたびにいちいちここのビルの屋上に上がって(これがまたすんばらしい屋上)撮影をしたのだが、最後のインタビューでは階段の上り下りに疲弊し始めた自分らに気付いたJが言ってくれたのか記者氏は「撮影は室内で構わないです」と言ってくれたので無事終了、なんだかんだ言って4時間くらい取材を受け続けていた勘定になる。全て終わってヒロくん(レゴ好き)は事務所にあったレゴの自転車に乗ってはしゃいでいる。ふ~っ。

 インタビュー中は断続的に朝買ったパンを食べただけなので腹減った飯だ飲茶だチェケラッチョ、とか騒いでみたら本当に行きましょう、ということになりJとH、Cさん+ヤップン(日本)から来たバカ3人で近所の巨大なショッピングビルに入る。イマイズミコーイチは「(伝統的に)ワゴンで来るのかな」と期待していたようなのだが残念ながらここは近代化されているらしくレストラン式にオーダー、なのでJとHに注文を全てを任せて来たものをひたすら食う。ヒロくんは香港初めてだけど好き嫌いがほとんどないようなのでとてもラク、大抵の料理を「おいしい」と言って食べるので、ちょっと安心。蝦焼売、餃子、叉焼饅頭、蝦入腸粉、豚肉の腸粉、炒飯、クレープ、タロ芋に具を入れて揚げたもの、揚げないで蒸したもの、揚げ餅に蜜をかけたもの、その他いろいろ食べて旨いっす。特筆すべきはここのお茶がとても美味しかったこと。そのせいで飲み過ぎ、その後トイレに何度も駆け込んでしまいましたが窓際の席は眺めが良く(超高層)気分も良く午茶終了。


飲茶中である

 さてこれまで何度も香港LG映画祭には来ているがここの映画祭は韓国やインドネシアと違ってどこ行くのにもスタッフと一緒、というノリではなく、そのため今までは上映会場以外での交流が無くて、必然的に現地の友達、と呼べるような人は居なかったのだけれど今回はJにH、通訳Cさんと事前にいろいろやりとりをすることが出来たので、香港滞在中に映画関係以外の人にも会いたいです、と伝えておいたら3人は僕らの来港に合わせていくつか約束を取り付けてくれた。ヒロくんも「現地で何か取材が出来たら」と仕事熱心なので、かつ僕らが会ってみたい人ということでお願いして置いたのだが、特にCさんは"Fridae"で働いているので人脈も広いらしく、今日これからの面会も彼女がセッティングしてくれた。一旦ホテルに戻ってヒロくんの部屋で持参の「Badi」をみんなでながめてああでもないこうでもないとひとしきり騒いだ後、バスに乗り込む。2階建ての席からは海が見え、それだけで満足する。バスは柴灣(チャイワン)駅の近くまで来て、そこからタクシーに分乗して山の中へ、僕らが乗ったタクシーの運転手さんはなんだか激渋な声の人でいちいち言うこと(広東語)が面白く、後部座席に座った自分とイマイズミコーイチは笑いをかみ殺すのに苦労した。


目的地に着いた辺り、パノラマで撮ってみました

 着いたのは「AIDS CONCERN」という香港のHIV/AIDS予防啓発及び感染者サポートの団体事務所、何というのか海を臨む山全体が医療施設になっていて、その中に事務所を構えている。「AIDS CONCERN」自体は対象をセクシュアリティに限定しないで活動しているが、今回は僕らが会うので特にMSM男性向けの活動をLさん(ゲイ男性)に伺わせてもらうことにした。エレベータで上がって部屋に入ると、市役所とか地方庁舎に似た感じの作りになっていて、奥の応接室のような所に通された。もうすぐ世界エイズデー、というこのクソ忙しい(だろう)時期に時間を取っていただいてありがとうございます、とまずはご挨拶とお礼をして。ヒロくんレポーター、Cさん通訳で自分は勝手にメモを取り(特にどこかに発表する訳ではないのだけれど日本で同じように活動する友人達に情報を持って帰りたかったので)イマイズミコーイチはたまに質問、という取材開始。終わってみれば日記用メモ(どこで何食ったとか)一日分に相当する分量の記述になってしまったが、Lさんのお話をまとめておきます。

 [AIDS CONCERN 設立の経緯と現状]
 香港では1985年に最初のエイズ患者が見つかりました。当時はHIV/AIDSに関する情報を提供する組織が何も無かったので、最初は患者をサポートする団体として香港で初めて1990年に非政府団体として「AIDS CONCERN」は設立されました。当初ホットラインも個人の家だったりしたのですが、HIV/AIDSに対する社会の偏見が大きかったのでどうしても彼らやその家族をサポートする必要があったのです。最近のデータによると香港では3,400人の感染者が確認されていますが、これはあくまで判明した人の数であって、実際にはこれより多くの人が感染していると予測されます。「AIDS CONCERN」ではこの感染者数を抑えるための活動に(感染者へのサポートと並行して)現在力を入れています。

 [感染者数の増加を抑えるために行っていること]
 感染のリスクが大きいと思われる人たち、例えばゲイを含むMSM、性産業従事者、また高校をドロップアウトして現在何もしていないような人、などある程度その属性に応じて予防啓発をしています。今回はMSMについてを主に話しますが、先に言った3,400人の感染者のうち、約3分の1が男性間の性交渉による感染です。そしてこの2~3年の間でその割合が増加傾向にあります。4半期毎に見ても増えていて、このペースで感染が拡大すると2020年にはゲイ男性の10人に3人がポジティヴ(HIV陽性)になってしまう計算です。以前香港のゲイ男性に調査したところでは、HIV検査を受けたのは20%でした。これは欧米に比べると低い割合です。まずは検査を受けてもらうこと、「AIDS CONCERN」では2000年から無料の検査を始めましたが、ゲイサウナ(ハッテン場)で検査を受けられるようにしました。最初は一年に100人程度でしたが、最近では700~800人が受けるようになっています。

 [検査について]
 ゲイサウナでの検査を始めた当初、セックスを目的に来る人(お客)の拒否反応があって定着しないのではないかと心配していました。でも現在では店側も協力してくれるようになりましたし、店の構造上プライバシーを確保するのが難しくて出来ないところもあるのですが、18~9カ所あるゲイサウナのうち7カ所で行っています。もちろんこの事務所でも検査を受けることが出来ます。以前は尿検査をして二週間後に別の場所で結果告知、という方式だったのですが、採血によるスピード検査が行われるようになってからは15~20分程度で結果が判るので、その間に帰してしまったりすることなく、待ち時間には来た人にコンサルティングをしています。もちろん検査を受けに来る人の多くは何かしらの不安や心配事があるので、そうしたケアも重要です。また、直截HIV/AIDSに関わらなくてもゲイとして持っている悩み事などを聞いたりもします。もちろん検査は匿名で受けられます。感染の可能性の度合い(もっと言えばセックスの頻度)に寄ってどれくらいの期間毎に受けたらいいのかの日数は人によって違うのですが、なるべく受けてもらうためにスタンプカードを作っています。このカードはバーやクラブなどで配布しているのですがスタンプが5つたまる(=検査を5回受ける)と、スポンサー企業や店などでディスカウントが受けられるという仕組みです。

 [情報公開、キャンペーンの方法]
 インターネットが普及してから、状況は良くも悪くも大きく変わりました。良い影響としては、これまで孤立しがちだったセクシュアルマイノリティが出会いやすくなったこと、そして悪い影響とは、それを裏返す形でセックスを経験する年代が若くなり、それによって感染の機会が広がっていることです。なのでインターネットのメリットを利用した情報発信(註:例えばこんなサイトがある)をしていかなくてはならないと思っています。Cさんの働く"Fridae"もそうした事をビジネスにしている企業ですが、ネット上で影響力を持つサイトに協力してもらって無料で広告スペースを提供してもらったり、MSMチャットやゲイからのアクセスの多いサイトに「AIDS CONCERN」が団体としてアカウントを開き、話をしたりしています。私達のウェブサイトなんて誰も見に来ないので(笑)、こちらから出掛けていきます。「AIDS CONCERN」と言う名前に対しては、その歴史と実績が認知されているので、信頼して話しかけてきてくれる人が多いです。この「信頼」がとても大事だと思っています。誰でも行けるオープンスペースは、「AIDS CONCERN」の運営ではないのですが旺角(モンコック)にあります。

 その後Lさんは彼らが作っている配布物をいろいろ見せてくれ(例のスタンプカード、検査やHIV/AIDS、セーフセックスに関するリーフレット、検査を呼びかけるポスター、ポストカード、メッセージカード、バッヂ、コンドームなど)、僕らも日本から持ってきた資料を渡して交換した。残念ながらこちらから渡したものには英語版はなかったのだけれど、Lさんはもちろん漢字は判るので「内容は何となく見当つくよ、とてもいいデザインだね」と喜んでくれたようだった。これが只の資料交換にならないことを願っているが、多分それはインタビューの最後に彼が言ったことが耳に残っているからだと思う。彼はこう言ったのだった。

 「私達は特にアジアの、例えばシンガポール、台湾、日本、香港などの国と地域が連携して活動していく必要があると思います。現在そうした動きはまだ出来ていないのですが、何故そう思うかというと、一般的にゲイ男性は海外旅行をする機会が多く(可処分所得がどう、という話ね)、そのため仮にある国や地域で感染を抑える事が出来たとしても、居住者の予防意識が充分でない国や地域が近くにあった場合、自国での成果が水泡に帰す可能性があるからです。」

 インタビューを終えてヒロくんがLさんの写真を撮り、自分が事務所の様子も撮っていい?と聞くといいですよ、と言ってくれたので受付のリーフレット辺りを撮り、振りかえると積み上げてあった段ボールにマジックペンで「OKAMOTO」とか書いてある。あ、と思ってカメラを向けたらLさんはすかさず「オカモトだよ、知ってるね?」と声を掛けてきた。オフコース。僕らは直截活動しているわけではないけれど、紹介くらいなら出来るから日本の団体とコンタクトを取りたかったら連絡してね、とLさんに言って退去した。忙しい中でありがとう、また。


ご自由にお取り下さい、であろう

 外に出ると陽はすっかり落ちており、山の中の、と言うより山全体が病院になっているエリアを抜け、途中やたら亀がいる池に笑いながらもバス停に着く。この後昨日と同じ劇場で『初戀』の上映(追加、当初の予定では一回だけだった)があるので上映前の挨拶を頼まれていたのだった。ここから高速バスに乗るのが一番早い、という事だったのだが乗ってみたらば丁度みなさん帰宅の時刻で混んでるわ混んでるわ、しかもバスは渋滞にはまってしまって全然動かない。間に合わないかも知れません、とCさんやJは誰かとしきりに連絡を取り合っているが僕らはそれよりこの混雑の中を立っているのが辛いです、あ~イマイズミコーイチは二階に上がる階段に座っちゃった、大丈夫?やがてバスは動き出した、と思ったらさっきまでどよ~んとしていた車内が急に活気づき、みんなお喋りを始めて判りやすいねえどうも。高速なのでほとんど停車しないこの車も途中一度だけバス停に止まり、出口付近にいた自分とCさんは一旦降車して降りる人が全て出るまで待つことにしたが、いつまで経ってもどんどんどんどん人が出てくるので一体何人乗ってたんだ、と途中で馬鹿笑いをしたくなってきた。やっと人が出きって、空いた車内で座ることが出来たが大して走らないウチに目的地に到着、時間ギリギリ、でも間に合っちゃうもんだねえ。

 劇場に着くと映画祭スタッフのAが待っていて、急いでシアターに向かう。急遽決まった追加上映にも関わらずほぼ満席の劇場、うれしい。呼び込まれて、昨日と同じくJに習った広東語でごく簡単にご挨拶。イマイズミコーイチ、ヒロくんに続いて自分、「ダイガーホ、ンゴハイ イワサヒロキ(みなさんこんにちは、イワサヒロキです)」だけ広東語で、あとは英語で来てくれて音楽作りましたとかありがとう楽しんでくれると嬉しいです、と言ってあとは司会のAが12月の特集上映のこと、Cさんが僕ら手売りの物販について案内してくれて挨拶終了。Cさんは次の映画を観るので一旦別れると言ってどこかへ行き、イマイズミコーイチはこのまま残って映画を観ていくと言うが、僕とヒロくん、J&Hは4人で近くを散策してから終映頃に戻ってくるね、と約束して外に出た。さてどこ行こうか、と相談するがさっきのバスでかなりくらったので座ってお茶でもしたいです、そういえば昨日誰かが劇場近くに金曜だけ会員制ゲイカフェになるコーヒーショップがあるって言ってたけど、J知ってる?と聞いたら「何となく聞いたことはあるけれど行ったことはない」と言うので入れるか判らないけど行ってみよう、と言う事になって本当にすぐ近くのビル2階にあるドアを(開けないと外からは何の店だかわからない)押してみた。


喫茶店を探してうろうろしてみる

 噂では会員制、かつ奥の戸棚だかテーブルの下だかから「Badi」がこっそり出てくる店、と言うことなのだったがお客さんは男女のカップルが一組だけ、会員でない僕らもすんなり入れたしあれ?と思っていたらJがお店のおっさん(納得、という感じの)に何やら聞いており、席に戻ったJは「夜9時以降が会員限定だそうです。成人しか入れないようにするために時間を限っているみたいです」とのことで入れて良かったような悪かったような。結局今はただの喫茶店なのでお茶を頼む。JとHはなんだか判らない揚げ物を頼んで、片方ははんぺんみたいな、もう一つは豚肉にパン粉を付けて揚げたものでしたが何だか酒のつまみみたい、自分は中国茶のようなものを頼んでみました。Hにさっきの自分がやった広東語の挨拶を褒められる。その後4人の話題は何故か日本のゲイビデオメーカーで(主にJとHが)どこが好きかという話になり、それぞれ好みが違うようでしたがこらこら自分のノートに「淫行シリーズ スーツ 制服」とか書くんじゃない、J。

 そろそろ終映時刻かつ9時を回ったので気付けばちらほら「会員」ぽい人が来店してきているが僕らは出なくてはいけない。店の外に出てみたら入る時には無かった「PRIVATE PARTY」の表示がされていた。劇場に戻るとまだ終わっていないようで、ロビーで待っていたらやがて見終えたらしいお客さんが来て、僕の方に近寄り「CDとポストカード、ありますか?」と訊いてきた。もちろんでございます劇場内ではまずいんで外へ、とヤクの売人みたいに柱の影で商品を出す。昨日とは打って変わって次々とお客さんが来る。両方買うと合わせて95HKDなのだが、100ドル紙幣で5ドルお釣り、があんまり無くて困りヒロくんにも5ドル硬貨をもらい、気の利くHが小額紙幣をくずしてくれたりしているウチにイマイズミコーイチが出てきて用意していた5ドルを渡してくれた。外はあっという間にヒロくん撮影&サイン会になってしまい、その影で僕らは悪徳マネージャーのように売りさばく。最初に声を掛けてくれた男性が「写真を」と言ってきたのでヒロを呼ぼうとすると「あ、そうじゃなくて」僕らと一枚、という事のようでした。昨日の様子からしてどうせそんなに売れないだろうから、とポストカードを全部持ってこなかったのが災いして葉書セットは売り切れてしまい、やがて店仕舞い。あまりの人だかりに巡回中の警備員が来てしまいましたがJが説明してくれて事なきを得る。


サイン会絶賛開催中、おつかれさまです

 やっと人垣が空いてはあやでやで、と一服しているとJが来て、「みんな映画を気に入ったみたいです。良かった」と言ってくれる。そっか、じゃあ12月も人が来るといいねえ、と僕らも嬉しい。イマイズミコーイチは「上映中ちょっと寝ちゃった…」としょんぼりしている。観客の反応は良かったらしい。疲れたし、ホテルに帰ろうかとも話したのだけれど、歩いているウチにそうだこの辺りには廟街(テンプルストリート)という女人街(旺角にある露店街)みたいなのがあるじゃないの、と気付いてそこを歩いてみることにする。ちなみに「男人街」と言ってもJには通じず、どうやらテンプルストリートが日本ではそう呼び慣わされているらしかった。まず手始めにやたら大人のオモチャを売っている辺りを抜け、やがてメインエリアに出る。道の両脇は店舗を構えた店が営業しているのだが、それらに挟まれた道をつぶす形でそれぞれまた両脇からテントの露店が店を出しており、客はその間をすり抜けるように(3人並べばいっぱい)両脇の店を覗いていく。僕らは見慣れた光景なのですたすた進んでしまうがヒロくんは物珍しいようで気が付くとどこかの店に引っ掛かっている。JとHは、と見ると誰よりも嬉しそうにはしゃいで常に最後尾にいますがこの人達は本当に香港の人なのか…。イマイズミコーイチもここで人民服テイストのショルダーバッグを見つけてどうしよう、と悩んでいる。多分この先もあるから、取りあえずいいやと言って次のカバン屋、今度はそこにはもうちょっと違う形のがあったので値段交渉をJ&Hの助けを借りてして、イマイズミコーイチさん鞄購入、うれしそう。やがて交差点で一旦切れる辺りまで来た。道の一番ヘリにあるフィギィアのお店でヒロくんとJがなにやら吟味している。店の一番目立つところにはバカでかいドラえもん人形が招き猫のように置いてあるので「それ買ったら」とおざなりにヒロくんに言ってみるが彼はクリリンが欲しいようでJ&Hに値段交渉をしてもらっている。自分はやや離れた所にいて眺めていたが、Jが件のドラえもん人形を見せてもらっているのを遠目にして腰が砕ける。事務所にあんなにあるのにまだ買う気か。


言ってみれば毎日縁日

 何だか長引きそうなので閉店して暗くなった向かいの店の前に座り、ふとその向かいの薬屋でチャウチャウ系の犬が飼われているのに気付く。かぁいいなあ、とバシバシ写真を撮る。やがてお買い物は済んだらしく、ヒロくんは黒いビニールに商品を入れてもらってご満悦である。歩き出したら「あの、これXXドル(忘れた)だったんですけど妥当な値段なのかJに訊いて欲しい」と言うのでその旨を伝えるとJ、「いい買い物だと思いますよ」とやけによどみなく答えるので「そっか、ちなみにあのドラえもん人形を買わなかったのはなんで?」と重ねて訊ねると「あれはラインの塗りが甘い。作りが雑なのにXXドル(忘れた)というのはぼったくり」とまたやけにきっぱり言う。単に丸っこいものが好きなだけの人かと思ってましたがフィギィアオタか。そろそろ店も尽きたので何か食べましょう何がいいですか、と言うのでポーチャイハン(["保"の下に"火"]仔飯、土鍋で炊いた炊き込みご飯)食べたい、ポーチャイハンポーチャイハンと連呼してみたがあまり通じていないようなのでどうしようかなあ、と思っていたら偶然道沿いに土鍋を並べている店があって、これこれ、と言ったらようやく判ったようで「じゃ、この店で食べましょう」ということになりました。店の外の、道路に面した席についてビールを飲みながらHが、「ポーチャイハン」だと発音が正しくない上に、香港人には「少年の釜茹で」と誤解されるからね、と冗談めかして言われた。さっきの自分の発音は微妙に違ったようで、Hに何度も訊いた所では「ポゥジャイファ」と言うべきらしかった。むつかしい。

 でその土鍋釜飯であるが好きな具を選んでその場で炊いてもらう。自分はアヒル骨付き、イマイズミコーイチはカエル、ヒロくんは牛肉卵付き、Hは豚肉でJは鶏、外に面して置かれたガスコンロにはいくつもの土鍋が置かれているが出来上がるまではしばらく待たなくてはいけない。僕らが知らない間に酢豚を注文してくれていたのでビールと共にいただく、うめえ、そして実にラフな感じで肉が切ってあるので注意しないと骨が…。で、自分のから土鍋が来た。火から降ろしたばかりなのだが蓋をしたまましばらく蒸らしたのち、醤油をかけ回して食べる。お店の人が何もしてくれないので都合良くヒロくんが持っていたタオルを借りて蓋を開け、醤油をかけると底の方でジューッ、と焦げる音がするので期待は高まる。もう食っていいだろう、とレンゲを入れると思いの外ご飯は軟らかく炊けていて、鍋に接した部分はおこげになっている。そのうちみんなのも来だしたのでいただきます、いや、旨いっす。隣のイマイズミコーイチ注文によるカエルも食ったこと無かったのでもらってみましたが好きな味でした。ヒロくんは「絶対無理」ということでパス、美味しいけど。ごちそうさま、ここは僕らが払うよ、と言って自分が店に入って会計したんですが、Hがあわてて店に入り、何やら話をしていたがやがて出てきて「ボられました、『あっごめん間違えちゃった』とか言ってましたけど、わざとですけどね」だそうでああ、日本人って通常は気付かずにこのまま満足して立ち去っていくのですね…。Hが取り返してくれた数百円相当の香港ドルは、なんだかずしっと重かったです。


うまし。ボられかけたけど

 さて気を取り直して、かなり満腹であるがデザートね、とJ&Hはニコニコして近くの甘いもの屋に入る。イマイズミコーイチは迷わず牛乳プリン(温)、ヒロくん豆のぜんざい(冷)、自分は豆腐花(冷)、Hはなんだかごっついフルーツ盛り、Jはマンゴープリンというオーダー、加えて生クリーム+フルーツのクレープまんじゅうのようなもの(ここの名物らしい、苺とバナナ)、かなりの量なのでヒロくんはぜんざいを半分でギブアップし、残りは自分がかっさらった。マメうめー。

 ええとここから何で帰ったか憶えてないのですがタクシーかバスか地下鉄ですね多分。タクシーだったらまたJの「Hはデブなので(以下略)」発言があったはずですかわいそう。ホテルに戻って部屋を交換しヒロくんは6階へ、僕らは19階へ、明日はチェックアウトだから電話し合って起きましょう、と話して就寝、何だかんだ言って深夜2時くらいになってしまいました。そういえば自分はこのホテルでは歯ブラシを見つけられず、丸2日くらい磨けていなくて口の中がそろそろ気持ち悪くなっていたのだが今日の外出中「そういや歯ブラシ、ないよね」と他の2人に言ったら「あるよー」「でもちょっと判りづらいとこにあったよね」との事だったので、気を利かせてイマイズミコーイチが洗面台に出してくれておいたらしい歯ブラシを早速開け、久々の歯磨き。


おまけ:パンダサイドオヴJ&H事務所


2007.1121 香港へ
2007.1122 第一回上映、オープニングパーティー、取材1件
2007.1123 被取材4件、第二回上映(追加上映)、取材1件
2007.1124 取材1件
2007.1125 被取材1件
2007.1126 帰日