2014.0920 hari Sabtu

 朝食は9時半までのようなのだけど起きられないので諦め、ただし喫煙室への部屋替えの可否は11時にフロントに聞いてみてね、ということだったので確認すると「大丈夫ですよ、プール側とストリート側とどちらか好きなほうを」選べるようなので迷わずプールヴューにして7階から5階へ移動する。さて朝飯というか昼飯は下のカフェでしてみようか、半屋外で涼しくはないんだけど。ご飯はうまく、かつ量がかわいらしいのですぐに食べ終わってだらだらと過ごして3時間くらいがほとんど何もせずに過ぎる。自分は部屋で読みかけの『コーラン』を数ページ(よりによってここで読まなくてもいいんじゃないかと思いますがしかもソドムが滅ぼされるくだりなんぞを)。

 さて今日は『すべすべの秘法』の一回目上映なのですが、その前に映画祭関連の展覧会初日だというのでまずそれに行く。ファリドが迎えに来るといっていた時間が近づくと携帯にメッセージが入り「僕はもうホテルまで来たけどまだ車が来ないのでちょっと待って」とのこと。まあ降りてみようか、と合流して「もうすぐ来ると思う」と眺めた空は黒い雲が見えているので「雨が降るかな?」「たぶん」とか話していたら本当にぽつぽつ落ちてきたのでバス停の屋根下に移動する。やがてワゴン車が到着したので乗ろうとしたら既に他のスタッフが乗っていてかつ映画祭関係の荷物が積んであり、僕らが乗るスペースが無いので後部座席に荷物を載せ替え始めた、と思ったら後方から走ってきたバイクが車のすぐ後ろで転倒して、幸い追突はしなかったもののミラーが車の下に弾きこまれたように見え、というかドライバーは大丈夫か。周りの人に助け起こされていたけど外傷はないみたい。気がつけば周囲には大勢のバイクが集まってきていてどうも雨宿りをここでするつもりらしい。まあ衝突したわけではないのでそのまま出発したら割とすぐに驟雨が降りだした。道路の排水が良くないせいかすぐに洪水のようになる。排水溝の穴、足りないんじゃないかなあ。


hujan(雨)

 車はどこをどう走ったのかでかいデパートみたいのの入り口前に止まった。降りようとするとファリドが「あ、僕らはここじゃない」と制止する。どうも上映会場(複数ある)のうちの一つで、乗っていたスタッフと荷物を送り届けるためだったようだ。またね、と手を振って走り出す。雨はほぼ止んでいる(今は基本的に乾期なので今日みたいに降る事はあまり無い、とのこと)。しかしもうどの辺を走っているのか判らない。携帯で地図検索をしてみるがそもそも土地勘が無いので現在地を示されても何が何だかである。「ジャカルタはあまりに渋滞がひどいので、地下鉄を作る事が決まり日本企業がいま工事中」とファリドが教えてくれる。最初に来たときには地盤が軟弱なので地下鉄計画は頓挫したと聞いていたが技術が進歩したんだろうか。道の一番真ん中寄りに「トランスジャカルタ」というバス路線専用の道があって一般車は入れないようになっているのだけど、水浸しになった道路でバスが一般車用の道と専用道をスイッチする度に(理由不明)ものすごい傾いているのでおっかない。

 とにかくかなり走ったような気がする雨上がりの夕暮れの路上に停車して、ここすか?ギャラリーかと思っていたらレストランみたいなとこで、外にはテーブルと椅子が出ているので一服する。中を覗き込むと左手にバー、手前に受付とその奥のテーブルにフードが盛られており、さらに奥の方には展示物らしきものが見えるが手前に布を束ねたもので立ち入り不可にしてあって、まだ始まってないようなので外で一服しましょう。中に入るとプートリがいて色んな人を紹介してくれる。「この人がキュレーターで誰もインドネシア名を知らないんだけど名前は『サトウカザマ』」という訳の判らない紹介をされたお兄さんは「いや、前に付き合っていた日本人につけられたニックネームで…」と言うが漢字でどう書くか知らない、と言うので書いて見せる。「友達は『サトウは甘い、の意味』と言ってたんだけど…」と若干困惑したように言ってましたがそれは人名じゃないです。

 キュレーター氏直々の案内で布の結界の中に入る。"STRAIGHT ACTING"と題されたこの展覧会は文字通りへテロセクシュアルの作家がクィアについて扱った作品を集めたもの、と言われればなるほどと思うものや言われてもえっと、という感じのものまで色々でしたが自分はサーフボードに彫刻した作品が好きでした。その後この会場(ギャラリー、カフェ、ショップ、シアターなどが入っている。数日前にはジョンもここに来たそうだ)の設立者の皆さんとお話をしたりしている内にどうやら開幕らしく、佐藤風間が挨拶などをしている。テーブルにもりもり盛られたタロイモのフライがうまい。設立者氏(女性)が「ウチの特製ドリンクを試してみる?」と言うので基本NGのない自分が挑戦します、と言うとやがて泡立った青汁みたいなもんが出てきた。うむむこれは、と思いつつ飲んでみるとそんなに青臭くはなくて甘い。なんすかコレ、と訊くと「パクチョイ(チンゲン菜)をベースにハーブと…」という健康ドリンクのようでした。持ってきてくれた彼女は親切で、インドネシア語のスピーチをずっと耳元で訳してくれていました。


展覧会、開幕

 外に出て、彼女のパートナーで同じくここの共同設立者であるおっさん(でかい)も交えて話をする。ここはジャカルタ中心部からかなり南、で住んでる日本人も多いエリアだから日本料理屋とかスーパーとかある、らしい。「今度、彼と日本のフジノミヤに行くのよ」と彼女が言うのでへ、何で富士宮市?と訊くと「うちの家族の宗教が日蓮正宗だから」というお答えで、聞いてる隣の彼氏は何も考えてないのか、ただ異様に嬉しそうにしているだけですがインドネシア人の口から「ニチレン・ショーシュー」という発語がなされると時空がちょっと歪みます。そしてまた別の人にシアターを見せてもらったりなどしているうちに6時を過ぎた。そろそろ出ないと間に合わないか、とファリドにそれとなく聞いてみるが「プートリも行くはずなのでそれを待ってる」とか何となく済し崩し的に時間は過ぎていき、これまであまり無かった事ですが上映開始には立ち会わず映画も観ない、という事になって引き続き映画の宣伝をしつつ終映に間に合うよう出かける事にする。結局プートリは来ない事が判り、あの段取りは何だったんだろう。

 本当に渋滞がすごい。前もまあ渋滞はあったけどここまでじゃなかった。心なしか空気も悪くなってるような気もするし、マスクをして歩いている人をこんなに見たのも初めてだと思う。北京みたいにならないといいけど、とちょっと心配になる。会場には8時過ぎに着けば間に合うはずで、流石にそれは大丈夫でちゃんと到着したが本当にちょっとした移動が大変面倒なことになっている。本日の会場はこれまで何度か上映した事のあるフランス文化センターという所ですが通販の会社ではありません。大変瀟洒な建物でカフェとかあります。お腹は減ってないのでお茶だけもらって今日のMC嬢とご挨拶。プログラマーのサミーが「君らの友達が来てるみたい、『監督は?』って訊かれたので終わる前に来る、と言っておいた」と言うのでああやっぱ開場前に来た方が良かったか、でも途中で帰りはしないだろうと思って全然どかない猫の隣の席でお茶をすする。そろそろ終わりかな、と思っていると呼び込まれてエンディングタイトル中でした。あれなんかスクリーンから映像がちょっと横がはみ出してるわ、と思うものの今更どうにもならないので皆様こんばんは、ではQ&Aやりまーす。


どかぬ

 小さい会場なのでマイクなし。お客さんは満席の7割くらいいるかな、見知った顔がちらほら居るので嬉しい。MC嬢がよどみなく進行してくれるので心強い。曲がりなりにも15年くらいこういうことをやっているのでパニックはしない(でも良く考えたら自分は最初からあんまり緊張した記憶が無いな、超小心者なのにこういう状況では何故か繊細な線が元から切れている、と言うか)けど特に英語だと質問をふんふんふん、とか訊いて判ったような気になって「で(質問は)何でしたっけ」になりがちなので務めて愚直に一語一句を聴くようにする。「撮影で苦労した点は」「次回作の予定は」といったFAQはまあいいとして面白かったのは「日本人はみんなあんな風に湯舟に入るのですか?」とか「舟が良く出てきますが何か意図がありますか」といった質問で、これは答えるのが楽しかった。あと本当によくありがちな「日本の同性愛者の状況は」みたいのが無かったのがちょっと印象的。ああそうだ欧米人っぽい人が「日本のアニメの影響はどのくらいあるのか」というのが中々難儀しました(「僕らアニメ、ってほとんど観ないんで」と正直に答えましたが、事実なんだから仕方が無い)。友人リー氏の連れらしいオーストラリア人女性が「セックス場面でコンドームを使ってるんだか居ないんだか明確にしていなかったのが気になったのだけど、それはどういう考えによるものですか?」と鋭い事を訊いて来たので慎重に答える。いやあ何か久しぶりに充実したQ&Aだぞ、と小さい脳がフル回転しつつ、客席に座っている友人の顔は今どんなかな、とよそ見を何度か。

 Q&A了。最後に恒例になりつつあるお客さんと写真(映りたくない人は外れてね、と一応言った)、というSNSアディクテッドな事をやってから解散して、会場の外でお客さんと話をする。リー氏が「友達連れて来てね、と言ってたんで連れてきたよ」とさっきのオーストラリアさんを紹介してくれた。彼は音楽も褒めてくれたのでうれしい。ああヘンドリが居る、と手を振るとこっちへ来た。彼とはジョン・バダルの紹介で去年、東京で会ったのでした。インドネシア人なんだけど当時はシンガポールで大学生やってたのかな、東大かどっかで学会に参加する為に来たのだけど本人は「ポルノを研究してる」ので日本のポルノについて知りたい、とイマイズミコーイチに話を訊きに来たんでしたが「研究のためとは言え獣姦モノまで観ることになって大変」とか言っていて学問の道は険しい、と思ったものでしたが(日本の学会は流石にポルノについてじゃなかったらしい)ジャカルタで会えて嬉しいよ。お、ティモシーもおる。友達らしい4人組と一緒みたい、元気?彼は2010年に来たときの映画祭スタッフで、今は辞めてるらしいのだけど事前に連絡したら(大事)ちゃんと来てくれた。何だかモジモジしながら「ええと、映画の話じゃないんだけど日本の漫画の『ショタ』って何?」とか意表を突く事を訊いてくるので全く詳しくない自分はうんうん唸りながら解説する。ベルリンポルノ映画祭の後もカンボジア、香港と上映はあったのだけどお客さんとの話がこういう風に自然にできる瞬間が持てると言う意味でインドネシアはやっぱり特別。


このビールはお初。

 名残惜しい、という文字通りの名残惜しさでそろそろ撤収の時間。アテンドのファリドが辛抱強く待っていてくれているのが判るので帰り際「ごめんね、僕らはお客さんと話すのが楽しくて」と言うとファリドは頷いて「観客がみんな君らと話したがっているのが判るから出来るだけ時間を持てるようにするのが僕の役目だよ、だからそんな事は気にしないで」と言ってくれるのでああ、こういう発想で動いてくれるスタッフが居る映画祭なんだよなあ、とちょっとだけ「優先すべき事は必ずしもそれではないです」になってしまうオーガナイザーの事を思い出し、まあちょっとだけですが。ファリドの運転でホテルに送り届けてもらい「明日はまた別のゲストが到着するのでスタッフとランチをする。もし行きたければ僕がやってる『朝のジャカルタ名所ツアー(徒歩で)』に参加もできるけど、どうする?」と別れ際にいきなり難題を振ってくるので30秒くらい(長過ぎますね)イマイズミコーイチとテレパシー交信をしたのち「ええと、たぶん僕ら起きらんない(あと名所は過去に大体行った)のでランチから参加、でいいかな?」と言うと彼は笑って「オーケー、じゃあ昼前に迎えにくる」と手を振っておやすみなさい、セブンイレブンではなくてホテルと同じビルのミニマートでビールを買ってから喫煙可の部屋で(この解放感)ひっそりと祝杯をあげる。


2014.0919 到着、ジャカルタ1日目
2014.0920 ジャカルタ2日目、『すべすべの秘法』上映
2014.0921 ジャカルタ3日目
2014.0922 ジャカルタ→ジョグジャカルタ1日目
2014.0923 ジョグジャカルタ2日目
2014.0924 ジョグジャカルタ3日目→ジャカルタ
2014.0925 ジャカルタ4日目、『すべすべの秘法』上映
2014.0926 ジャカルタ5日目、帰国