2014.0925 hari Kamis

 早めに起きて下のカフェで朝ご飯。メニューが全く同じだけど、明日は提供時間より早く出ないといけないのでここで食べるのも今日が最後だからまあいい。さて今日は午前中からサリナデパートに行く事にしていたのでした。サリナデパートとは何か。それは香港の裕華國貨みたいなもんですが(判りませんね)インドネシア最古のデパートだそうで最近建ったモールとは全然違う雰囲気の「デパート」です。初めてジャカルタに来た時から何度か来ていたのですが昨夜、イマイズミコーイチがプートリに「サルンを買える店ってジャカルタにあるかな?」と訊いたところ「サリナなら既製のサルンがあるはずだから、オーダーしなくても手に入る筈よ」との事なのでファリドに「行きたい」と言うと話を聞いていたフィリピン人ゲストのジグが「僕も行きたい」と言い出したのででは3人で行きましょう、という事になってました。ファリドが来たのでフロントで待つことしばし、やがてジグも降りて来たのでおはよう、では行きましょう。車は相変わらず進まないが(そして暑い)どのくらい走ったのか、後で確認してみたら2キロくらいなもんでした。古っ、という感じはしない外観ですが中に入るともういわゆるモールとは全然違うのが判る。売っている物もインドネシア仕様なので土産物探しには最適です。エスカレーターを上がってファブリック売り場に突入し、ファリドにサルンはどこか、と訊いてもらう。案内されたのはただの布コーナーでしたがどうもこれがサルンのサイズ、と言う事らしい。要は巻けばいいんだね、後は好きな柄を選べばいいんですが時間がかかりそうなのでジグとファリドとは別行動にしてもらって英語のあんまり通じない店員のお姉さんと身振り手振りで話を進める。自分は買うつもりは無かったのが実家に送る土産を買っていなかった事に気が付いて割とポップな感じの柄の緑色のを一枚買う事にする。(後日談:送った直後に母親からメールが届き、それには「暖簾にしました」という写真が付いていた。別にどう使ったら、とか書かなかったんだけど)。


ホテルの前には何かの実が。

 イマイズミコーイチは例によってうんうん唸っているがやがて決めたようで3枚ほど会計する。これまた悠長な感じのお会計方法で買いたいものを言うと店員さんが裏に持っていって何やら伝票をくれ、それと商品をレジに持っていってお金を払う(この一手間をかける意味がよく判らない)。まあ全然混雑していないのでいいのですけれど。ふとイマイズミコーイチのお会計を見ると何だか物凄い額なのでどうしたの、と訊くと「いや僕ってお目が高くて…」かなり高価なのを買ってしまったらしい。とにかく巻けばいいらしいですよ、腰に。ジグとファリドは工芸品コーナーで何か選んでいる。イマイズミコーイチは以前買ったヤモリの木彫りを増やしたい、と探してみるのだが同じようなのが無くて諦め、ジグは何やら買っているのでそれを待ってお買い物お仕舞い…じゃなかった煙草を、と地下のスーパー入り口にあった煙草売り場でおどろおどろしい写真付きの(インドネシアもついにそういうパッケージ仕様に)日本未発売のガラム「234」を何個か買って、お待たせしました行きましょう。

 ジグはマッサージに行きたい、と言っているらしくそこに彼を送ってから帰る事にする。ファリドが一緒に受付をしに行っている間にさっきの234を早速開けて一服する。両切りの、何か樹脂で固まったみたいなゴツゴツした紙巻きを吹かしていると、ジャカルタの熱気に相まってなんだか全てがどうでも良くなってくる。駐車場の脇には赤い、トケイソウのような花が咲いているねえ。やがてファリドが戻って来たので自分らが14時半からの映画を観るホテル隣のキネフォーラムまで送ってもらう。お昼ご飯どうしますか、というので軽く食べようかと敷地内の食堂に入ると映画祭ディレクターのハリーがいた。「おかえり、ジョグジャは楽しかった?」と訊くので楽しかったよー、ああそうだこんな人と会った、とイラママと撮った写真を見せて「知ってる?」と訊くと「もちろん。インドネシアのレジェンドだ」というので日本で言うと誰に会えたような感じなんでしょうなあ。ハリーとファリド、それともう一人(スタッフなのか、忘れた)若い男の子がいたのでみんなでご飯を食べる。自分は鶏の汁かけ麺を頼んで(ハリーが「肉団子入りにしなよ」と薦めてくるのでそれにする)、あとお茶ください。結構パッと来た汁ソバはもろインスタントでもなくかといって生でもなく…と言う独特な食感でおいしい。オカマが5人いれば、という感じのくだらない会話に終始したのちハリーと自分らは劇場へ、ファリドはジグを迎えに、残る?くんはどっかへ行ってしまいランチおしまい…じゃなかった忘れていた、と車に残して来た買い物ズを回収してからファリドに「また後で。」


固まってません

 今回はあんまり映画を観られていない。なのでちょっとでも興味があったら観る方針でこれからやるプログラム"Amazing Shorts #1"はノルウェーのゲイ短編集、という関心的にかなり微妙なものではありますが構うもんか、とお客さん5人くらいだけど(構うもんか)。5本ありましたが内訳としては移民問題1本、いじめ問題が2本、ノンケに手を出してしまいました1本、ミュージカル1本(これはベルリンで観た)でございました。まあ正直これを観てノルウェーに俄然興味が湧く、という感じは無いのですが全体的にトーンが暗い。ずみゅん、とした感じのまま出てくると外のスペースではファリドとハリーが何か喰っており、見ると若いグァバとかにソースを付ける見た事も無いスナックでしたのでちょっといただく。今日19時開始の『すべすべの秘法』には今度こそ最初から立ち会う、と言う事でファリドと話はつき、イマイズミコーイチが何だか疲れて来たっぽいので撤収する事にして歩いてホテルに戻ってから部屋に引き揚げてしばし休む、というか買い物+映画1プログラム観るのしかしてませんが何でこんなにバテてんのか。泳ぎたいなあ、と階下のプールを眺めてからシャワーを浴びてちょっと寝て、あっという間に約束の時間なので持っていくもの(物販とか)をリュックに詰め込む。

 車中でファリドは「今日の会場はいわゆる人権センターと言うかそういうところなんで普段は凄く地味+お客さんもあんまり来ないんだけど、『すべすべの秘法』の回はかなり予約が入ってるよ」と言う。どっちかつうと「会場が地味」の部分に引っかかるわたくし達ではありましたがお客さん5人とかよりはよかろ(3人だってやるけどさ)、とどうしようもない渋滞のジャカルタ・ナイトをたらたら爆走して会場着。確かに地味なお役所風、表には華々しい照明もフラッグもなし、自力で来ようとしたら絶対数回通り過ぎると思いますがここがファイナル会場か、と一服して何だかよく判らない銅像の前で記念撮影をする。中に入ると待ってる人がちらほら、まあでも「満席」にはならなそうだ、と当りを付けて、ああそうだ物販(原作本の残り3冊)をしたいのだけどいいかな?とファリドに訊くと「じゃあ今回の上映の担当者に話します」ということで出て来たのが若い男の子で(伏線)ええっと彼はオープニングの時に会ったわな、こちらが日本人だと判ると急に「ミヤビ!!」と叫んだので何じゃらほい、と思ったらどうも海外で有名なAV女優さんのお名前のようですが知らんわ、という事でミヤビくんと命名。ミヤビは「本?売るの?ワオ」などと言いながら「でも3冊しか無いんだ、前回は幾らで売ったの?…じゃあ今回は価格を2倍にしよう」と言い出しこら待て、前回の値段も日本の価格より高くしている(値上げした分を映画祭に寄付する事にしているので)から、そのままでいいよ、と言うのだが「いやいやそれはそれ、これはこれ。もう残り少ないから値段を上げた方がいい」と譲らない。脇でファリドが「こいつは中国系だから商売の事となるともう勝てないよ」と諦めたような苦笑をしながら言う。ではジャパンですら全く商才を発揮できていない商売下手な自分らが敵うわけが無く、厭な予感しかしないがディールを(そもそも何故こいつと交渉しなくてはならないのか)成立させる。とどめのようにミヤビ、「1冊は僕が買うね、それは元の値段でプリーズ」だと(旅行客でなければ叩いているところですが)。


会場外観

 客入れが始まる。今回は事前に友人知人に「来てね」メッセージをしていたのでしたが今日の上映に知り合いは誰も来ていないようだ。残念だけどまあみんな忙しいしね、とそれでも8割方は埋まった客席、しかしいかにも会議室にパイプ椅子を並べました(+プロジェクター&スクリーン)という感じのこの会場には無論座席の高低差などあるわけもなく、後ろの人は字幕が読めるのかなあ、と自分らは最後部に陣取る。ファリドもまだ観てない、と言うので席に着く。前方ではミヤビがMCをしており、上映後にQ&Aやります、というのと自分らの紹介を軽くしてから上映が始まった。真っ暗にはならず、外の灯りと音がちょっと漏れてくるが気になるほどではない。おなじみの予告編が流れ、あれ何か左のスピーカーから音が聴こえないけど、と間近まで寄ってみると確かに音は出ているがちょっとバランスが右に振れすぎているみたい。(一応)片チャンではないので仕方ないか、と思っていたら本編の冒頭モノローグ部分が飛んだ。うっへえ、と思いつつこれ以上のトラブルがありませんように、と気にしながらの上映は心臓に悪い。幸いその後は何とか止まらず進み、お客さんの反応もそこそこあるので安心して観られるようになった。ちなみにトイレでひろさんがリョータくんの股間を覗き込むシーンが一番受けていました。エンドクレジットを微妙な感じでぶった切って上映「終了」、ミヤビが僕らを呼び込むので自分はファリドにカメラを渡し「Q&Aの写真、何枚か撮ってくれる?」とお願いする。

 さてQ&Aでありますが、ミヤビが飛ばす飛ばす。つうか順当かつ手慣れた司会者であればまず自分が呼び水として一つくらい質問してから「では皆さんからもご質問があれば」てな流れになるのでありますがこの小憎はまず自分につつ、と近寄って私の腕を撫でやがり「さて日本人の、このようなスムーズな肌(どこが)になる為にはいったい何をすればいいのか、これから教えてくれますよ〜」と無理矢理な事を言うので司会者じゃなかったら蹴り上げているところですがせめてもの抵抗として「インドネシアの皆さんの肌も綺麗ですから(知らんけど)、日本人からアドヴァイスすべき事は無いように思われます。」と引きつった笑顔のまま「次、行って」とミヤビを見るが彼はお構いなしで原作本物販の話(限定2名様です!!!)を始め、ああもうどうしたもんやら、と困惑しているとやっとこさ質疑応答が始まった(会場をあっためてくれるのはいいんですが、やり過ぎ)。しかし次々と出て来る質問は中々歯ごたえあるものが多くて嬉しい。前回の質問で船が、というのがあったので第五福竜丸の話をちゃんとしようか、とイマイズミコーイチは言っていたのだがそういう答えに持っていける質問は無かった。質問がユニーク、というよりは(むしろ良くある「俳優はどうやって見つけるのですか」「予算はどこから」「次回作は」的なのだけど)本当に関心があるんだなあ、というのが伝わってくる。インドネシアで最初の頃に散々訊かれた「日本のゲイの現状は」みたいなのは前回に引き続きありませんでした。音楽の質問も久々に出ておお、とか思ったのでしたが自分がどうやって音を付けるのか、という質問に上手く答えられなかったのは主に私の英語力によります。あと「原作に対してどのような映画にしようと思いましたか」とか「セックスシーンを撮る時、何に一番気を遣いましたか」など。ミヤビは英語で出た質問でも再度言い直してくれるので整理しやすい(が、決まって余計な事を言うので長引く)。


質疑応答中

 最後にミヤビ、「女性からの質問がありませんがそこのあなた、どうですか」と指名された気の毒な人が「えっ(無いけど)」みたいな顔しつつ頑張って「影響を受けた作家、またはこの作品を作る上で念頭に置いた作品はありますか」と質問を発すると「これといって、無いんです」としょんぼりした感じでQ&Aは終わり(無理強いはいかんな)、とミヤビが近寄って来て「一番印象的な質問をした人に原作本をプレゼントしたらどうか」とどうしてこの小憎は打ち合わせに無い事を提案してくるのか、と思いつつまあいいか、とHIVについて質問してくれた子を指名してめでたく終わり…ああお客さんと写真ね、といつの間にか来ていたプートリに「みんなと写真を撮りたい」と言うと間髪入れず「全員でセルフィーよ!!!」と叫んでくれて会場は何となく「ならば撮るべし」みたいな雰囲気になったので(「セルフィー」という単語が素直に耳に馴染んだのは初めてのこと)携帯とカメラを取っ替え引っ替えバシャバシャ撮って、みなさんありがとうございました。会場の外でもお客さんと記念撮影などして、なかなかいい上映だったよ会場は地味だったけど。外でプートリに「どう?」と訊かれたので「雰囲気はとても良かった。上映の品質は(正直言って)一回目のIFIの方が良かったけど、それは仕方ないかな」と答える。プートリは「そうね、上映環境についてはごめんなさい、でもお客さんがとても喜んでいるから、映画祭としては良かった」と言ってくれる。プートリはこの映画どう?と直球に訊いてみると「とても好きよ、自分の好みからすると『家族コンプリート』よりも」との事なのでじゃあ暇な時にレヴューを書いてね、とお願いする。「オッケー、映画祭が終わったら書くわ。さて、今夜は打ち上げに行きましょう」と車に分乗する。

 結局自分の上映に行ったらしいジグも来ていて、「これ」と僕らが観られなかった自作のDVD-Rを渡してくれる。ありがとう、帰国したら観ます。車はファリド運転+ジグとハバカリの4人でこれまたどっかの地下駐車場に入り、途中「otoko.」という名前の紳士服屋らしいものに爆笑しながら日本式居酒屋みたいなものの入り口が見えて来たのでもしかしてここ?と怯んでいるとそうではなく、階段を上がって半屋外の(しかしどういう構造になっているのだこのビルは)どでかいバーのような所に到着した。一番奥の席(テーブルも椅子も風雨にさらされてボロボロであるが、お店自体はファッショナブルなのでこれも味、という感じ)「ご飯食べてなかったら頼んだら」と言うのでイマイズミコーイチはナシゴレン、自分はラザニアを注文する。次々と酒が出てくるので酔っぱらいつつ、スタッフと最後の雑談をする。11年も付き合いがあると誰がいつから映画祭にいるのか、がよく判らなくなって来るが、自分らが初めて来た時に既にスタッフだったのはプートリだけみたい。ディレクターのハリーもそれより後。「ハリーはジョン・バダルにすっごい憧れてて、それで映画祭に入ったのよ」とプートリが教えてくれる。やっぱりそういう強烈な磁力がある人が創設者には相応しいのだなあ、と東京国際レズビアン&ゲイ映画祭ディレクターをやっていた友人の事を思い出した。ハリーに「ボランティアスタッフは何人くらい?やっぱり学生とかが多い?」と訊くと「そうだね、だから就職すると辞めちゃうのが大半で、ノウハウが引き継がれないのが悩み。人数の今年は25人くらいかな」だそうでした。ハリーが立ち上がり「踊んなよ、キミが踊れるのは知ってる」と数年前のバリでの打ち上げ(ひどい飲み会)の事を持ち出すのであい、と返事してその辺で踊る。イマイズミコーイチは何かちょっと辛そうで、座ったままぼんやりiPhoneを眺めているのが眼に入るのであんまり長居も出来ないな、と思ってファリドに「12時くらいに出たいな」と言うと「オッケー」との事なのでみんなと写真を撮りつつ退去の準備を始める。


オトコ

 ああそうだ会場でミヤビから本の売上をもらってなかった、が奴がいない。プートリに訊くと「確かサミーが預かって来てるわ」と言うので受け取るとあれ、結局「元の値段2冊分」の額じゃねえか。これはどういうことだ、としばし酔った頭で考えたが、おそらく3冊のうち1冊はQ&Aプレゼントで、1冊は2倍の値段でアンラッキーな誰かに売り、最後の1冊はミヤビががめたのであろう。こうでないと華僑は生き残れないのであろう、と歴史を肌で実感しつつ(スタッフにぼられるゲスト、まあ映画祭からは散々奢ってもらったけど)とどめのようにサミーが「ミヤビが自分の分のにサインして欲しい、って預かって来た」と差し出されたので余程おまんこマークとか描いてやろうかと思いましたが、他人様の作品なので何とか堪えて普通にオートグラフりました乾杯。草の根レヴェルでこの調子じゃあジャパンは絶対、中国(人)には勝てない和平。さてそれでも9冊が日本で売るより大分高値で売り切れたので、値上げした分に自分のお金をちょっと足して切りのいい額にしてからハリーに「ドネーション」と渡し、さて帰ろうか。初めましてだった人、久しぶりだった人、会えなかった人など色々だけどみんなまとめてありがとう。願わくば、またこの映画祭に来られますように。ジグも一緒に帰る、と言うので行きと同じ車に向かい、ホテルへ。

2014.0919 到着、ジャカルタ1日目
2014.0920 ジャカルタ2日目、『すべすべの秘法』上映
2014.0921 ジャカルタ3日目
2014.0922 ジャカルタ→ジョグジャカルタ1日目
2014.0923 ジョグジャカルタ2日目
2014.0924 ジョグジャカルタ3日目→ジャカルタ
2014.0925 ジャカルタ4日目、『すべすべの秘法』上映
2014.0926 ジャカルタ5日目、帰国