20151022 Donnerstag

起きてみると家には誰もおらず、ライナー氏は既に出掛けたようだが犬はどうしたんだろう。イマイズミコーイチは昨日聞いた通りに台所でコーヒーを淹れている。朝ごはん、という感じでもないし店も知らないし時間もそんなに無いのでひとまず出かける。駅の入り口は道路を挟んで両側に、方面別にそれぞれ(2箇所の)入り口があるためどっちから乗るのか一瞬迷うが、行きは手前の方から乗ればいいことが判る。さて7日券を買わねば。券売機は英語には切り替わるのですが7日間チケットがなかなか出てこない。やっと見つけてお金を、と30ユーロ(20+10紙幣)があれば一番いいのだけど50紙幣しか無い…まあいいやと入れたらお釣りの20.5ユーロが全部小銭で出てきた(後で聞いたらお札では出ないらしい)。急激に重くなった財布をポケットに仕舞って電車に乗り込む。乗り換えたYorckstraße駅でイマイズミコーイチがパンを買っている。自分はいいや、とそのまま劇場に向かい、隣のトルコ系スーパー(加工食品はほぼトルコ産)でチョコレートバーを買って食う、うまい。ラウンジに行くとカタリーナとウーヴェはいたが、12時前なのでまだレセプションは開いていない。しばらくするとクラウスと奥さん(男性)がやって来てレセプションがオープン、ゲストパス(首からかける)をもらう。これがあると翌日までのチケットがもらい放題であるので早速今日の分をカウンターで発券してもらう。短編コンペは売り切れなのでそれは何とかしてもらうとして、もうすぐ始まる回から連続で4コマ観ることにする。


7日券、日本円で4,000円くらい

"Gay Porn" Shorts
まずはゲイ短編集。プログラムをよく見ると短編コンペにも入っているのが1本あるけど、どういう振り分けになっているのか。その1本『ZOLUSHKA』はシンデレラをゲイクラブを舞台に翻案したものなのですが、面白いところもあるんだけどシンデレラ役の子が魔法使いのおばあさん(当然女装)に変身させられた「後」の格好が、変身前より魅力的になってなくて(今は2015年だよ、というヘンな服)そこがどうなっとんじゃ、ではありました。王子様役はColby Keller、ってこれは北京のシャオガンが騒いでいた人ではないか。僕らがベルリンポルノ映画祭に行く、と言ったら何で知ってたのか知りませんが「コルビーというアメリカのポルノスターが居るはずだから必ず写真を撮って僕に送ってほしい。したらそれを舐める」というのではあ、よく判りませんがシャオガンがスマートフォン舐めてるところを想像すると笑えるのでりょうかい(どんな人だか知らないけど)、と安請け合いしていたのでした。彼は同じくアメリカのゲイビデオメーカー「Cocky Boys」のキャンペーンビデオになるのかこれは(だもんで他の短編作品とは系統が違う)、もう1本出てたのでしたがこれはピュ~ぴるというか円奴さんの世界的ポルノというか、な映像作品でした。一番好きだったのは窓の向かいの部屋を覗き見たら見知らぬ男の子が、てな設定の『YOUR WEIGHT ON THE NAPE OF MY NECK』、かなり画質が荒いのが「盗撮風」なのか、でももうちょっと高解像度だといいのに(マジの盗撮だとは誰も思わないだろうし)と。上映が終わって、例のコルビーはゲスト挨拶でビール瓶片手に出てきましたが酔っ払っているのか支離滅裂な事を喋っていたので「一緒に写真」は後にしようと思いました。

ラウンジに戻るとカタリーナがまだ座っている。「元気?」と訊くと「疲弊した」と言っており("tired"じゃなくて"exhausted")、まあ全然元気そうじゃないのに「めちゃめちゃ元気よ!」とか言われたらそっちの方が心配ですが、彼女が責任編集のカレンダー見本を出しているのでお客さんが来たら説明及びセールストークをしなくてはならない。この時もそんな接客を終えてこちらを振り返り、「私はデザイナーであって売り子じゃないの、同じことを何遍も言うのはもううんざり」と顔をしかめているのでまあそれは今さら言っても仕方がないよ、と取り敢えず何の解決にもならないのですが肩などお揉みしてみました。さて次の映画。


カタリーナとウーヴェとカレンダー(とイマイズミコーイチ)
最初の一枚はカタリーナに「だめ、ブスに撮れてる。やり直し」させられて再テイク


"Fun Porn" Shorts
司会で出てきたマヌエラが「え〜さて、このプログラムはプログラム班の中では『ユルゲン・プログラム』と言われています」などとのっけから安定の前説を繰り出すので笑う。この中には短編コンペと被っている作品は無し。「Fun Porn」を「お笑いポルノ」と訳していいものかどうか微妙ですが、基本はどこかに可笑しみのあるもの、ということでいいでしょうか。となると難しいな、特に言葉の壁があるので例えば『FUCK ME IN THE ASS‘CAUSE I LOVE JESUS』は結婚するまで処女でなくてはいけないのでアナルセックス、というミュージカル短編ですがこれも歌詞が隅々まで判って面白いかどうか判断できるものでしょうし、『I AM A TOURIST: I WOULD LIKE TO SEE HIM NAKED』はそれこそピンズラー式の旅行者向けドイツ語学習ビデオのパロディなので日本語が母語の人間にとっては「勉強になります」ということにしかならず。マヌエラが「個人的に一番好き」と言っていた『SUCKMYCONFETIZZLE』は更に面白いのかどうかの手がかりもなくて「性」も「笑い」も全然ユニヴァーサルじゃねえ(無論、例外はある)、という事を再認識したのでした。まあ「セックスと笑い」の感覚が世界共通である必要は全然ないんだけど、あとユルいのと雑なのは別です、と言いたくなるヤツもあって。

各プログラム間の時間はたいてい1時間もないため、外で喫煙するかラウンジにいるか(ついスタッフ席に入り込んでしまうわたくし達)しかないのでこれは朝飯どころか昼飯も抜きになりそうです。さて次は早くも来てしまったイマイズミコーイチの審査員仕事ですが開場30分前になっても誰も来ない、とやや遅れてイリスでない方の審査員、ザーラが来た。彼女はオーストラリアのパフォーマーだそうだが髪から衣装から非常にカラフルな人である。ご挨拶をして「イリスには会った?」と訊くと「それがまだ会えてないの」だそうで皆忙しい。本当はここで3人集合して、いつ受賞作を決めるミーティングをするか約束するはずだったのだがイリスが来ないのでまず2人で相談する。「私は連日ワークショップがあるので午前〜昼早めが望ましい。明後日(土曜日)の午前中なんてどうかしら」ということなので特に予定もない自分らはじゃあそれで仮決めしてイリスにはメールで訊いてみましょう、と言うことになる。もうすぐ開場だけど昨日パウラが言っていた僕らのチケットが来ない、というかパウラが来ない。イマイズミコーイチは明らかにナーヴァスになっているがここで余計なことを言うと藪蛇なのでさてパウラを探してこようかね、と思ったら劇場の方から初めて会うけどスタッフらしい女の子が「イマイズミ?チケットはある?」と訊いてくれたので「ナイ」と答えると彼女は一瞬「この表六玉」みたいな顔をしたのち「ここで待ってて、すぐ戻る」と言ったかと思うとチケットを2枚持って本当にすぐ戻ってきた(優秀)。あざ〜っす、と言って受け取り劇場に入る。


短編審査員(バックの写真は『ZOLUSHKA』)

"Short Film Competition"
劇場の入口にイリスはいた(てかモギリをしている)のであぁ…と思いつつ「ザーラに会った?」と訊くと「まだよ」てな事なのでもう会場に来ているからそのうち、と言ったか言わないかのうちにザーラがやって来たので紹介して、でもミーティングの時間決めなどは今できないのでまた後で、と別れる。完売プログラムだけあってほぼ満席である。今回は映画を観つつメモを取りつつイマイズミコーイチが判らなそうな英語のセリフを耳打ちしつつ(完全には無理だけど)で忙しい。取り敢えずノートを広げて作品名を書き出し、そこに書き込んでいく。短編集はゲストが多いので(なので関係者枠でチケットがすぐに無くなっちゃうんだわな)、何本かやって止めてQ&Aという方式である。予想したほどセリフに解説が必要な作品は多くなくてノートはあまり埋まらないが、英語の作品は当然英語字幕が付いていないのでちょっと難しい。何とか頑張って隣のイマイズミコーイチに伝えるが、意味はわかるんだけど瞬時に日本語が出てこないのでちょっとごめん、英語でメモを取るので後で教える、になってしまった部分もあった。折々のQ&Aも参考になる部分もあるのでメモを取る。審査員は自分じゃないので個々の作品については後で書きますが、この11本はどういう基準で選ばれてるのかなあ、とは思いました。

ああ疲れた、と外に出て、休む間もなくチケットを取ってある次の映画が15分後にスタート、なのですが自分はパスして携帯のSIMを買いに行くことにする。前回も行ったのでHermannplatz駅近くにあるデパート「KARSTADT」にT-mobileが入っているのは知っていたのですがさっきの「Fun Porn」と短編コンペの空き時間に行ってみたものの人が並んでいてこれは終わらない、何時まで営業ですか?と訊いたら20時までだというのでもうこのタイミングしか無い、とイマイズミコーイチには一人で観てもらうことにして終わった頃にまたラウンジで合流、という事にする。次の作品はアメリカのゲイポルノ・クラシック(70年代)のレトロスペクティヴで「Hand In Hand」というプロダクションの作品を特集しているうちの一編。2012年にここで回顧をやったウェイクフィールド・プールの作品(これはマジで素晴らしい)に触発された監督ジャック・デヴォーとそのパートナー、ボブ・アルヴァレスによる制作チームで、ジャック・デヴォーは既に亡くなったが今回はプロデューサーのボブ・アルヴァレスが来独して彼のアーカイヴから蔵出しのフィルムを上映するとのこと。
いくつかあるけど今日の作品は ↓ です(今回の中でこれだけはジャック・デヴォー監督作ではないもの)。
"THE DESTROYING ANGEL" by Peter de Rome, 1976


新製品

さてすっかり暗くなった道を駅に向かって歩く。KARSTADTに入って(相変わらず店の構造がよく判らない)T-mobileに行くとお客は誰もいなかった。よしよし、と店のおっさんに「このアンロック携帯にSIMを入れたいのだけど『Xtra Triple』はありますか」と訊くとおっさんは「いや、『Xtra Triple』は今年の9月で終了した。今は代わりにこれ」と「MagentaMobil Start」という真っピンクのパッケージを出してきた。いきなり違うものしか無い、と言われて固まるが内容を聞いてみると「一ヶ月間有効のLTEデータ通信が上限500MBで定額7ユーロのSIM(SIMの額面は10ユーロで売価が9.95ユーロ)、電話番号も出来るしSMSも使えるがその通話通信料は別にかかるので(ということはデータ定額代を引いた残額の3ユーロ分)、最低5ユーロから追加チャージできる。SIMは標準、マイクロ、ナノのいずれにも対応」とのこと。ではそれでいいですそれください、と言ってアクティヴェートしてもらう。APN設定はしなくていいの、と訊くと「通常勝手に設定されるはず」と言うので試すがネットに繋がらない。「つながりません」と言うとおっさん「では手動で設定する必要がある。これを入力して」と15項目くらいあるリストを出してきたので自分は気が遠くなりそうになりながらポチポチ入力して(空欄でいい箇所もあったけど)端末を再起動するとネットに繋がった、がおっさんが言うには「今はまだ定額データ通信が有効になっていないのでモバイルデータ通信を切っておくように。さもないと従量制で使った分だけ引かれてしまうのであっという間に残高が無くなる。通知のSMSが来たらオンにして」とのことで「それはどのくらい待てばいいのですか」と更に訊くと「5分から1時間」という適当な返事でさいですか、では切りましょう、追加のチャージを念のため5ユーロだけして合計14.95ユーロ(を朝に切符買った時に出てきてしまった小銭で支払う)、チャージしなければ前の『Xtra Triple』と大して変わらない。とりあえず電話番号はできました。

イマイズミコーイチが観ている上映はまだ終わっていないはずなので、帰り道に酒屋に寄って瓶ビールを買い(その場で栓を抜いてもらって)飲みながら歩く。日本でこれをやってたら確実にダメな人ですがこっちのビールはほぼガラスのリターナブル瓶なので缶ビールはあんまりない、かつ皆さん飲みながら歩いているので楽しいのですが日本もうこうなったらいいのに、とは何故か思えず。会場に戻ってカタリーナとウーヴェにローカル電話番号できたよ、と交換して、例のカレンダーの袋詰めを手伝う(茶封筒に入れて特製ステッカーで封をするだけの作業ですが何か2人、大変そうだったので)。こういう作業は向いてるなあ自分、と思いながら現在置いてある在庫はすべてパックして、そういやこの挟んでいる紙片は何?とカタリーナに聞いたところ「出来たてなので、まだ糊が完全に乾いてないの。だから注意深く扱わないとバラバラになっちゃうので注意、というお知らせ。もう何日かしたら固定すると思うんだけど」との事。彼女が参考にしたオランダのゲイ雑誌「BUTT」の日めくりカレンダー(自分も前回買った)も同じような体裁だけど、「あれは糊を手塗りしてるらしくて、しっかりしてるけど料金がすごく高い」だそうです。確かにあれは30ユーロだったかな(映画祭のは儲けは考えてないらしいけど12ユーロ)。制作費を回収できればいい、というくらいのプロジェクト(限定1000部)だそうです。やがてイマイズミコーイチが戻ってきた。「いやあ、凄かった…」と呟いているので何が?と訊いたら「併映の短編が。イワサくんは絶対無理な映画だったけど」と言う事なので人体がどうにかなる系でしょうか(後で訊いたらまさにそんなのだったらしく、無理)。


「こんにちはブルースさん」

スタッフ用の席に座ってぼんやりしているとあれ、ブルース・ラブルースが少し離れたところにいるのでイマイズミコーイチに教えてると「挨拶してくる」とぽてぽて歩いて行き何やら話しかけてる、と思ったら自分を呼んでいる。お久しぶりです、とは言ったものの2011年にこの映画祭でちょっとだけお会いして以来で向こうは忘れているに違いないので改めてご挨拶、今回『ハスラー・ホワイト』の特別上映があり(今日これから)、あと長編作品の審査員のはずなので来ているようだ。イマイズミコーイチが「一緒に写真をとってもいいですか」と訊くと「もちろん」ということでブルース先生はポーズを取ってくれました。さてもう確実に1時間以上経っているが、私のスマートフォンには待てど暮らせども通知SMSが来ない。いつになったらザ・インター・ネットが使えるのでございましょう、とラウンジの全然つながらないWiFi(信号は摑むんだけど利用者が多すぎてアクセスポイントがパンクしているらしく、暗号化キーを入れても接続にならない)を10回くらい入れたり切ったりしてましたがイマイズミコーイチが「ちょっと今日は疲れたので、最終回の『ハスラー・ホワイト』はブルースには申し訳ないけどパスして帰ろう、おなかも減った」と言い出したのでではそうしましょうか、その前に明日のチケットを貰って…ああそうだイリスに会えたら打ち合わせが土曜の午前中でいいか相談しよう、と探したけどいないのでユルゲンに訊くと「事務所にいるので呼んでくる」と言ってトイレの脇のドアを叩くとイリスが出てきた。「ザーラは明後日の午前中がいいと言ってるんだけど、どう?」と訊くとイリスは「そうね、私は連日劇場を閉めるまでいて午前はきついので、14時位だとありがたいかな」と言うことなので、じゃあザーラを含めてそれをメール相談しましょう、ということになって撤収、駅に帰る途中でケバブを喰ってから帰宅。すると部屋に手紙が置いてありそこには「家を空ける時は外から鍵を締めてね。」とあってそうなのです、扉を締めただけでロックがかかるのでそれでいいのかと思ってましたが(昨日の説明時に言われていて聞き逃したのかも)、すみません明日からはちゃんとします、と置き手紙をキッチンに残して寝ました。

2015.1021 北京からベルリンへ、映画祭1日目
2015.1022 映画祭2日目
2015.1023 映画祭3日目
2015.1024 映画祭4日目
2015.1025 映画祭5日目
2015.1026 ベルリンオフ1日目
2015.1027 ベルリンオフ2日目
2015.1028 ベルリンオフ3日目
2015.1029 北京経由の帰国

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