20151025 Sonntag

目の前の教会の鐘がごんごん鳴っているのでああ今日は日曜か、でも今日観たいプログラムは夕方からなので(チケットは昨日のうちに取った)また寝て遅めに起きる。携帯の時計は自動的に「サマータイム終了後」の時間に戻っているが腕時計だけは当然そのまんまなので直す。本日、映画祭最終日のクロージングパーティーでは賞の発表もあるのでこれは出なくてはいけない、のもあるのでもちっと寝ておこう。時間に余裕はあるのだが日曜なので店はほぼ開いておらず、どこにも寄らずに映画祭会場に向かう。着いた駅のホームには昨日演奏していたバンドが電車を待っていたので魂消る。昨日のメインパーティー明けでスタッフはぐったりしているがカタリーナは「2時間しか居られなかったけど良かった、今回は特に会場が素晴らしくて」と言うのでああやっぱちょっと行きたかった、と思いましたがこういうパーティーって本当にちょっと(15分くらい)だけで満足するので来たと思ったらもう帰った、になっちゃうのもねえ。


サーバーポルノ

劇場に向かう道を歩いていて、自分は不意にえらいポカに気が付きました映画のチケット忘れた。昨日取った今日の分のチケットをいつもスケジュール帳にはさんでいたのだが、何を思ったかそれを置いてきてしまったのである。「取りあえずまだチケットが取れるか聞いてみれば」とイマイズミコーイチが言うのでカウンターで確認すると「ザーンネン、売り切れなの」ということで取りに戻る事決定、まあ電車もバスも乗り放題チケットはあるし、時間もあるんだけど。さて今日は約束がある。『初戀』にも出て頂いたカワナマイさんのイトコの娘さん(なんて呼ぶんだ)がベルリンに住んでおり、「イマイズミくんの事を話したら凄く興味を示して」会えれば是非、と言うことらしかったので連絡を取ったところ今日の午後にお茶かご飯でも、という返事が来て、劇場のラウンジで待ち合わせる事にした。約束の時間通り無事に会えて(ドイツ人の夫君を連れて来ていた)少しお話してからどこか行きましょうか、と自分がビリで混雑したラウンジを抜けようとしたらあれ、『A.K.A. FUCK』に出ていたビショップくんがいる、のでちょっとだけ挨拶して「映画、良かった」と伝える。「ありがとう、今夜のパーティーには来る?」と訊かれたので「行くよー」と返事すると「じゃあまた」と言う感じで別れて外に出たら誰もいない。ヘンなの、と思っていたらみんな自分より遅れて出てきたので何でこんな事になっているのか。

カワナさんのイトコの娘さん(面白いのでもう一度書きましたがお名前はアキコさん)は「実は私もこの辺はあまり知らないんですけど、何かあるでしょう」と僕らが行った事のない方へ歩いて行き、角のカフェで「何かフレンチっぽいですね、こでブランチでも」と決めてくれる。中はシックな白壁と木のテーブルでお洒落な、だからという訳ではありませんが一番端っこではゲイのカップル(帰り際にキスしてたのでカップルだろう)がご飯を食べてましたがそんな店で、メニューはいくつかあるのでアキコさんが解説してくれる。英語メニューが無いので観光客向けの店ではないみたい。これまたお洒落なご飯を頂きつつ話をする。アキコさんは元々イタリア(フィレンツェだったか)に住んでおられたそうだが今の夫君(ドイツ人)とそこで知り合ってベルリンに移住したそうだ。「お仕事は何を」「修復です。彫刻の」だそうでかっけえ。どうしても僕らとアキコさんの3人が日本語で話してしまうのでダンナ氏は飽きてないだろうか、と心配になるが「大丈夫。せっかく日本語で話せるんだから気にせず」だそうで出来た夫だ。店を出て、そうですね川の方まで少し歩きましょうか、と誘ってくれるので方向がどっちだか判らないながら歩き出す。割とすぐに川に着くと白鳥が沢山浮かんでいるので驚く(これまでベルリンで見た記憶がない)。「そうですか?普通にいる鳥ですけれど」とアキコさんが可笑しそうに言う、とそこへ橋をくぐってレストラン船が通って行った。おお屋根船、と手を振ると皆さん陽気に手を振り返してくれたでのなんか観光客っぽい(僕らが)。日々の生活の細々した事を聞きながら(こういうのがやっぱり面白い)歩いていると何となく見なれた景色になってきたのでもしかして劇場の方に向かってますか?と訊くと「そうです、もうすぐ」で劇場に着きました。アキコさん夫妻と記念写真を撮って、また来ます。と挨拶をしてさようならをしました。


はくちょう

さてチケットを取りに戻らなくてはならない。どっかで適当に時間を潰してれば?とイマイズミコーイチに言うのだが「いっしょにいく」との事なのですいませんね、と一旦家に帰り(ライナー氏はやっぱり不在)チケットを持ってまた劇場に戻る。駅としては6つくらいですが乗り換えがあるのでやっぱり往復で40~50分かかる。ああ時間が無駄だった、と2年前も一度チケットを無くして取り直した事があったのを思い出し、喉が乾いたので近くの酒屋でフルーツビール(ザクロ+ガラナ)を買って呑む。

"TOUGH LOVE(HÄRTE)" by Rosa von Praunheim, 2015
これから観る(そして完売してしまった)作品は今年のベルリン国際映画祭でテディ賞にノミネートされていたので観たいなあ、と思っていた。あと主演が『フリー・フォール』のハンノ・コフラーだ、てのもある。しかし司会で出てきたクラウスは「え~、毎年我々は観客の皆さんに挑戦するような上映をしようと思っていますが、今年は本作がそうです。我々の社会において誰も語らない、けれども確実に存在するある問題についての作品で」とか言い出しえ、そんな映画だったっけ(だからソールドアウトなの?)、と取りあえずゲイ映画じゃなさそうだと察知しましたがでは何についての映画だったのか。原題『Härte』はドイツ語で「ハードさ、タフさ」の意味らしく英語題は『Tough Love』。これは実話を元にしたドラマ+本人のインタビューも挿入されるのですが、主人公アンディは子供の頃に両親が離婚し、暴力的な父親から離れて母親、祖父母と暮らすようになったのだが今度は母親から性的虐待を受けるようになり、空手の才能があったアンディはやがてチャンピオンになるもののその腕を見込まれて用心棒みたいな事をやり最終的にポン引きになる。で、寄ってくる女の子をみんな街娼にしてしまい、そのうちの一人であるマリオンだけが破滅していくアンディを見捨てず、といったお話でテディ賞ってこういうのも入るのだね、と感心しつつ内容は重い。まあ救いと言えばインタビュー部分で「現在の」アンディとマリオンの姿が観られる事で、子供向けの空手教室を主宰しているアンディはまあ今でも突けば暴れ出しそうな感じはあるものの、更生したという事で…いいのかな。アンディの若き日を演じたハンノ・コフラーは「ドイツのセックス・シンボル」だそうで上映前に監督が「彼のヌードが見られます。ちょっとだけですが」と言ってましたが本当にちょっとだけでした。


"HÄRTE"ポスター

時間が半端に空きましたがどこかに行く、という感じでもないのでラウンジ(のスタッフ席)で過ごす。そこへヨーハンが来たのでちょっと話をする。短編コンペの候補作だけど、あれはどんな基準で選んでるの?と訊くと「全ての新作短編の中からプログラマー全員で決めている。もしこれをノミネートに入れるべきだった、という意見があったら教えてほしい」との事。話は"Hand In Hand"の事になり、「ゲイポルノの黄金時代」である70年代(ということは「エイズ以前」である、というのとも無関係ではないだろう)の発掘を続けているヨーハンは熱っぽく語り続ける。「今回来てくれたボブはアーカイヴをきちっと残していて、今回の上映のために16ミリフィルムを持ってきてくれた。劇場の関係で全部をフィルムでやるのは無理なんだけど、おそらく四半世紀ぶりのフィルム上映だよ」そうだね、やはりどれだけ残っているかと言うことが重要なんだよなあ、そして次が"Hand In Hand"レトロスペクティヴの最終上映。

"DUNE BUDDIES" by Jack Deveau, 1978
今回も短編があったはずなのだけど、どうしても思い出せない(もしかして"HOTHOUSE"のと混同してるのか知れない)。長編はファイヤー・アイランド(ニューヨーク州にあるリゾート地)を舞台に主人公が自分のコンドミニアムに男の子を誘ったんだか勝手に押しかけてきたんだか、まあ携帯もない時代なので約束していた人とはすれ違いを続け、そこへ予定外の人が来たり主人公は行き当たりばったりに出掛けた先で会った男とセックスしたり、彼が不在のコンドミニアムで鉢合わせした見知らぬ同士がセックスしたり、まあ男が2人(以上)いれば取り敢えずセックス、という半日を過ごして主人公がフラッフラになって帰ってくるというお話。3本観ただけで言うと自分は3年前に観たウェイクフィールド・プールの作品の方がずっと好きだけど、これは作品が作られた時に制作者が意図したものが違っているからで、当時はホントに「たまらん」みたいな感じのエロさを追求した筈ではあるものの、ルックスには如何せん流行り廃りがあるので仕方がない。上映後のQ&Aではこの"Hand In Hand"について研究本を書いている人がゲストで登場してまた熱く語ってましたが途中で観客(女性2人組)が「何故Q&Aをドイツ語に訳さないの」とクレームを付け(映画にもドイツ語字幕は付いていなかった事を考えると不思議なクレームではある)会場が微妙な雰囲気になっていたのではありましたが、そんな中でも相変わらずボブは素敵に飄々としてました。

さてこれで僕らが見る予定だったプログラムは全て観た、あとはクロージングパーティーで賞の発表という仕事を残すのみ、その前に腹ごしらえしたいけどこんな時間(22時前)ではもうケバブであろう、といつもの店に行くと閉まっている。あちゃあ日曜だからか、この店だけがイマイズミコーイチの食えるチキン・ドネルを売っているのでどうしようか、と開いてる店にはピザがあったのでそれでいい、と言うのでそこに入る。イマイズミコーイチは「今回は何かお通じがいいの」と言うのだがそれはいつも飲んでるトルコの塩味ヨーグルトのせいではないでしょうか、と言うと「そうだ、あれを飲みたい」と言い出す。もう何回も飲んでいるのにも関わらず毎回名前を気にしていなかったのですが昨日やっと覚えた、ので「アイラン(Ayran)ください」と言うと冷ケースから出してくれました。ちなみに振らないと固形分が沈殿分離してることがあります。自分は今回ドラム・ドネル(ラップサンド)を注文すると何か30センチくらいある巨大なアルミホイル巻きがやって来たので根性で喰う(でも旨いので割とスムーズに完食)。パーティー会場は劇場の最寄り駅(の内の一つ)から1駅で、でも僕らは反対方向に遠ざかっているのでHermannplatzから乗ると2駅、歩いて行くのも寒いので電車に乗ろう。あっという間ですが。


ドラムドネルうまい

会場はもう何度も行ったことがあるのであまり迷わず、つうか自分ちの近所にある交差点に似てるので覚えてる、って誰も判りませんね。とにかく初回(4年前)には見つけるのに散々苦労したのがウソのように突入してステージ前方のスタッフ席に直行する(劇場とやってることが変わらん)とウーヴェがいた。「カタリーナはカレンダーの在庫を取りに戻った」そうで最後までご苦労様なことです。割とすぐに授賞式が始まったのでイマイズミコーイチはスタンバイする。ザーラ&イリスと会って講評を3パートに分けて読み上げる分担を、イマイズミコーイチの担当は最後の「受賞作は『HOUSEBOY』、パンドラ・ブレイク監督」という一文だけにしてもらったのですがそれでも本人は真剣な顔をして 「ザ・ジュリー・アワーズ…ハウスボーイ…バイ・パンドラ・ブレイク…」と呪文のように繰り返している(ようだ。がんばれ)。最初にユルゲン大先生のご挨拶(「はい私が皆さんご存知のユルゲンです」ってこんな芸風だったっけ)がありまずは短編賞。まずイリスがスペシャル・メンションとして『LAST CALL』の監督さんを壇上に上げ、そしていよいよ本賞の発表、イリスが引き続き「受賞理由」を読み上げて途中からザーラが引き継ぐ、そして(主文から読み上げて判決、みたいである)イマイズミコーイチがニコニコしながらカンペを見ているがほら早くマイクの前に行かないと妙な間が、と見ている自分は気が気ではないが本人は悠々と進み出て、「The Jury awards "HOUSEBOY" by(ここでまた妙な間が空いて)Pandora Blake!」ちなみに私は気を揉んでいて発表の瞬間写真を撮り損ないましたコングラッチレーション。

続いてドキュメンタリー部門は障害者とセックス、をテーマにした(これは観られなかった)『YES, WE FUCK!(By Antonio Centeno & Raúl de la Morena)』、そして長編賞の発表ですが審査員の一人であるブルース・ラブルース氏は欠席だそうでなんじゃら、と思ったら「残念なことにブルースはちょっと怪我をしてしまい来られなくなりました。本当は今日もここでDJをしてくれるはずだったのですが」ってマジか。代わりに残った審査員2人が受賞作を発表する。「受賞作は『NOVA DUBAI』、グスターヴォ・ヴィナグレ監督!」っておいアレかよ(納得だけど)、観ていない作品も多いし正直なところ長編賞がどれになるか、というのに関心も何もありませんでしたがとても嬉しい。そして「功労賞」は当然のごとく"Hand In Hand"のボブ・アルヴァレス(「ありがとう、そして次はあなた達の番です。新しい作品を作ってください」という直球のコメントが会場全ての映像作家に放たれる)。僕らの「仕事」もようやく終わったのでやっと肩の荷が下りた、ビール呑みたい。とここでカタリーナが戻ってきたのに会えたので乾杯する。あとはもう流れる如くです。外に行って煙草を喫ったりしてるとあ、昼間のビショップくん(『A.K.A. FUCK』)がいる。ハロー、と言うと既に忘れているらしく「初めまして」ともっかい言われるが「さっき会ったよ」「ごめんごめん」と笑いあってfacebookで友達になってからイマイズミコーイチを紹介する。彼は英国出身で、ベルリンには来て間もないそうだ。「1年位は居るつもりだから、また来るときは連絡して」だそうでした。ああコルビーが居る、やっぱり酔っ払ってるけどここはシャオガンのために写真を一発、と「コンニチハ、北京から来た日本人ですが北京の友人があなたのビッグ・ファンで」と訳の判らないことをダーッと喋っておそらく本人もよく判ってないままコルビー+イマイズミコーイチで一枚。これでだいたい人には会ったかな、ああそうだ明日ユルゲン宅で打ちあわせだけど住所を確認してなかった。ユルゲンの所には入れ替わり立ち替わり、いろんな人がひっきりなしに来ているのでなかなか番が回ってこないが隙を狙って「明日どうしよう」と言うと「20時半にうちに来てくれ。住所は、前と同じだが一応書いておく」ということで終了、スタッフめぐりをしてから帰ろうか。


映画祭おしまい

マヌエラがバーカウンター近くの席にいるので挨拶する。あまり交流の機会も無いのですが自分は彼女が妙に好きで、今回この人が一番面白かったのはとある上映回にあまりに何度も事前CMが流れて(おそらくスタート時間が押した)観客が司会で出て来たマヌエラに文句を言ったとき、まずはお約束通りに「当映画祭は各スポンサーの提供により開催できているので」と言うと、観客は「それは判るけど、もう同じCMを3回も観させられてるよ」と更に苦情。すると彼女は眉根一つ動かさず、「それがコマーシャルってもんじゃないの」と軽くいなしていたので更に惚れた(ので北京クィア映画祭グッズの特製マスクをあげました)。次はいつものように大変酔っぱらっているクラウスですがイマイズミコーイチが「僕の次回作に出て」と言うと「次?うんと、何となく話は聞いてる。大変興味深い申し出であるし検討するので是非スクリプトを送ってほしい。」と勿体つけている。まああとはずっと楽しそうに「へにょへにょへにょへにょ」と意味不明な事を言っていたので以下省略。カタリーナ&ウーヴェは明後日の夜に彼らの家に招待されているのでそれを再確認してまたね、最後にヨーハンに会った途端に彼は持っていたビールのグラスを落としてぐわっしゃん、と自分の全く防水でない靴は結構引っかぶりましたがヨーハンは全く意に介さずニコニコと「気にするな、これがパーティーだ」と結構酔っているらしいな。その他イリスやザーラや…ここで会えた皆さんにはすべて挨拶をしてまた来ます、来年(でもってあと3日ほどベルリンにいます)。

2015.1021 北京からベルリンへ、映画祭1日目
2015.1022 映画祭2日目
2015.1023 映画祭3日目
2015.1024 映画祭4日目
2015.1025 映画祭5日目
2015.1026 ベルリンオフ1日目
2015.1027 ベルリンオフ2日目
2015.1028 ベルリンオフ3日目
2015.1029 北京経由の帰国

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