2023.1210 Sonntag

 いつものように早めに朝食を、とレストランに登ろうと思ったらエレベータが中央の一基しか動いてなくて両脇は停止している。点検かなあ何も表示がないけど、とこの時はまだ利用者も少なかったのですんなり登れたレストランの入口で部屋番号を伝えていつもの席でお茶を…とそこへレストランのスタッフが声をかけてきた。「確認したらお客様の部屋番号がリストにありませんでした。別途フロントで朝食代を払っていただかないと食事の提供ができません」えええ。昨夜のカードキー失効の件も考え併せるとおそらく自分らの部屋が「4連泊」になってなくて今日からの「残り2泊(自腹)」が変なことになっているのだろう。スタッフは職務上リストにない人を断ってるだけなのでここで抗議しても無駄、とフロントまで降りてそこにいた若い女性に部屋番号を伝えて聞いてみると「そうですね、朝食は含まれてませんので一人21€払っていただかないと朝食は食べられません」と取り付く島もない。「事前に4泊とも同条件(朝食込)だと確認しています、担当者に聞いてください」と言っても彼女は取り合ってくれず、仕方なく一旦部屋に引き上げる。そうだ「朝食を一緒に」とか言っていたヤヴスはこのホテルに居るはずではないか、と状況をメッセージで送る。すぐに返事が来て「フロントデスクに映画祭に確認するよう言ってみて欲しい。必要なら自分の部屋に電話するように伝えてくれ。それとすまないが昨日飲み過ぎで朝食は一緒にできないので仕切り直して夜にでも」このホテルの客室には電話がない(くどいようだが冷蔵庫も電気ポットもない)のでどうやってフロントがヤヴスに電話するのか判らないが、ともかくもう一度フロントに向かうとそこに居たのは昨夜カードキーを直してくれた女性で、「あの、自分らは映画祭のゲストなのですが今日と明日は朝食がないと言われてしまって」と言うと彼女は「あら、ではリストに名前を追加するように言いますからレストランへ戻って食べられますよ」とあっさり解決してくれて、疑り深くなっている自分が「ええと、明日も…?」と聞くと笑って「大丈夫、明日もです」とのことなので未だに一基しか動いてなくてしかもチェックアウトの時間に重なったせいか全然来ないエレベータでレストランに戻り、入り口で弱々しく「あの…」と言うと「大丈夫です、席へどうぞ」。

 自分らの席にはすっかり冷えたお茶のカップがそのまま残っており、はあ何だったんだ、とこの無駄になった時間から有益な教訓などを引き出そうと思ったもののそれは無理そうで、気を取り直して朝ごはん(相変わらずおいしいので自分は気分が良くなってしまう)。取り敢えずヤヴスには解決した、あとタニアには既に伝えてあるけど自腹分の宿泊費が高いような気がする問題がどうなっているか知りたい件と、明日のチェックアウト期限ギリギリまではホテルに居るのでどこかのタイミングで会おう、とメッセージを送っておいた。しかし連日飲み過ぎみたいだけど大丈夫かヤヴス。今日はイマイズミコーイチの希望で国立歌劇場(オペラ座)に行ってみることにする。今夜の演目『トゥーランドット』は当然のように売り切れてるが、ホームページを見たら11時からも何かやるようなので、そのプログラムならいいかも知れないとオペラ座に向かう。ところがオペラ座のチケットセンターで聞いてみると「11時からのはコンサートではなくて座談会です。演奏なし」という残念なお知らせ。イマイズミコーイチはしばし唸っていたが、「じゃあ立見席券に並んで夜の『トゥーランドット』を観る。一人でも行く」だそうなのでオペラ座を一周して立見席チケット売り場を確認し、一旦ホテルに戻る道すがら地下鉄の乗り換えを憶えてもらう。フロントでホテルの名刺をもらい、もし帰りに迷ったらコレを見せてタクシーに乗ってね、と言って渡す。夕方からオペラ座で並ばなくてはならないイマイズミコーイチはそれまで部屋で寝ていると言い、自分はちょっと休憩してから一人で出かけることにする。


観光客用の馬車は馬の毛並が良くないのがどうにも気になる(Oper付近)

 再度カールスプラッツ駅で降り、相変わらず大行列のホテル・ザッハーのカフェの隣にある売店に入る。自分が買いたいのはトルテではなくてザッハーブレンドの紅茶缶。これはちょっと他にはない味なので買っておきたい。前回2018年の時に主要な美術館はけっこう回ったので、今回必ずと思っていたのは実は先日のセセッシオンくらいなものでした。加えて今日は日曜なので有名どころは(宮殿とかも)混んでるだろう、と思うと外の散歩がメインとなる。最初に向かった美術史美術館と自然史博物館に挟まれたマリア・テレジア広場には屋台がたくさん出ている。バームクーヘン屋台もあったけど、ミニサイズで切られていないクーヘンにトッピングがかかっている、という日本のそれとはだいぶ違うもののようでした。携帯を取り出し、気になる場所は事前にグーグルマップで印をつけていたのでここから歩いていけるところ、とホーフブルク王宮の方へと向かう。ここで見かけた「Weltmuseum Wien」は人類史博物館だそうで楽器の展示もあるらしくて面白そうだったのだけど、今日はあまり博物館という気分ではなくて次回(いつだ)にしようと入り口から引き返す。しかし要所要所でいかにもインスタグラムに投稿するんだろうなあ、という感じでポーズ決めた写真撮ってる美男美女がいて、あまりのジャマさにその全部にピースサインしながら映り込んでやろうかと思いましたが更に北上する。途中の繁華街で本当に何だというくらい人が群がっている一角があり、見ると「デメル」の店舗でした。そこも通り過ぎてまた歩き、やっとたどりついたのは、「ショアによるオーストリアのユダヤ人犠牲者のための記念碑」。映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』に出てきてここは行っておこうと思ったのでしたが、ほとんど誰もいなくて閑散としている。直方体のモニュメントの周囲を取り囲む床に、絶滅収容所などがあった場所の地名がアルファベット順で刻まれている。雨でできた水たまりの中に浮かんでいるような沈んでいるような「トレブリンカ」やその他の地名に取り巻かれた石の塊の周囲をぐるぐる回りながら、果たしていったいこの記念碑がいま現在進行中の虐殺を止めるためになにか役立つようなものなのかどうなのかと、そんなことばかりを考えていた。

 その後もダラダラと歩いてウィーン旧市庁舎やらシュテファン大聖堂やらカールス教会やら有名建築物の前を通り、でも人が多すぎて何だかうんざりして来たのでカフェでケーキでも、と思うもののこれまたどこも混んでいる。ああもう、とグーグルマイマップを開いて日曜日に人が居なさそうなところは…と言えばもちろん国連ビルではないか。ということでカールスプラッツ駅から地下鉄U1線で一本の「Kaisermühlen VIC」駅で降りると映画『ブラックパンサー』にも出てきたあの曲がったビルがすぐに見えてくるのでしたが、それよりも意表を突かれたのはビル前に張り巡らされたロープに万国旗のように下げられた、政府に拘束されたイラン人の解放を求めるビラと、シットインをしているテントの存在でした。今回の人権映画祭でもイラン特集があったのだけど、恥ずかしながらガザのことがあってから自分はすっかり忘れていました。雪が残る、誰もいないだだっ広いスペースにはためく収容者の顔写真と、テントから流れてくる恐らくイランの音楽、あまりにもスカスカなこの空間。自分は軽い目眩を覚えてビルを背にして道路側に降り、向こう側に渡れないものかと目を凝らす。既に日は暮れかかっている。横断歩道が遥か彼方にあるようなので歩いていくと、左手に柵に囲まれた教会のようなものが見えてきた。立っている看板を見る限りコプト教会のようで、敷地内には入れない。更に歩いて交差点で道の反対側に渡り、ガソリンスタンドがあったので付属のミニスーパーに入る。ビール飲んじゃおうかなあ、と一番良く見るブランド「Gösser」の小さい缶を買うことにして、ここらでちょっと多すぎな小銭を処分してしまおう、と1.59€をなるべく細かい小銭で握ってレジに向かう。お店の人にいかにも観光客です(なんでこんなとこにいるんだよ)、みたいなニコニコ顔で「これで合ってますか?」とジャリ銭を散らばす私、「ダイジョーブ」と店員のお兄さん。もうすぐ沈みそうな太陽に向かって歩き飲みしているビールが旨い。柵の向こうには湖が見えていて、ああスイスの湖畔とかで紋切り型な身投げする時はきっとこんな舞台設定なんだろうと思う。


コプト教会(背後にあるのが国連ビル)

 元の駅に戻ってさてどうするか、とまた地図を開くと隣駅はドナウ川の中洲駅らしいので一駅だけど電車でそこに行ってみる。昼間だったら絶景だったかも知れませんがもう暗いので夜の隅田川というか勝鬨あたりの感じと大して変わらないけど、この死角の多さと言うかはハッテン場っぽいな、とここまでの一人散歩は実に楽しくて、昨日お目にかかった現地在住日本の方からご自宅へのお誘い(されていたんです)を予定が読めないため断ってしまったけどこの方が自分には合っている、と妙な充実感を憶えながらも体が冷えてきたのでホテルに戻ることにして、でも最寄りではなくて一駅手前にある乗り替え駅のPratersternで降り、そこから歩くことにする。この駅は周囲をぐるっと道路に囲まれていて、遊園地の最寄り駅なのでマクドナルドとかもあるのだけど、環状道路沿いにはファラフェルやケバブの食堂もあるので自分にはぐっと親しみやすい感じになってきた、とそこで眼に入ったのは"aida"という「地球の歩き方」にも載ってるような有名チェーンのケーキ喫茶店。オペラ座の近くにも支店があるのだけど混んでたのでパスしたが、ここは空いてる。そしてスタッフが老若男女問わずピンクの制服で『バービー』みたいです。気がつけば自分はフラフラと店に吸い込まれて紅茶とチーズケーキくらはい、とか言っておりました。選んだチーズケーキはごついベイクドタイプ、表面は程よく焦げていていま食べたかったものはコレだったわ、という喜びに満ちたもので、しかもお茶と合わせて9€という良心的なお値段でもありました。

 あとは帰るだけなので遊園地内を横断していく。遊具はまだまだ営業中。なにか買い食いしようかと屋台を覗いてみるが甘いものばかりなので、途中のレストランにも入ってみたけど「閉店です」ということで食べ物にはありつけず、またしてもガソリンスタンド付属のミニスーパーでチェコビールを買ってからホテルの部屋に戻る。しかし今日はすごい歩いたよ、明日起き上がれなくなったりしないといいんだけど、と酒盛りしながらふくらはぎを揉んだりしていた。やがてイマイズミコーイチも無事に戻ってきて「『トゥーランドット』は面白かったけど、席がすごく悪くて舞台はほとんど何も観えなかった」んだそうでした。この日は結局ヤヴスからの連絡はなく、自分らは明日ベルリンに戻るので会えるかどうかも微妙になってきましたが、それよりも自分には明日「オーストリア・シリングをユーロに替える」という大事な仕事が残っているので早めに寝よう。その前にざっとパッキングを、と始めたら映画祭でもらった表彰楯とかパンフレットとかゲイ雑誌とかでものすごく重くなってしまい、イマイズミコーイチのバッグはまだ余裕があるというので服を入れた重くない袋を一つ入れさせてもらって何とかリュックに納まった。


だいかんらんしゃ

2023.1211 Montag

 今日も早起きで朝ごはん、しかしエレベータがまだ一基しか動いてなくて大渋滞している。実は階段も使えることを昨夜発見して自室〜グランドフロア間は1階分だけなのでいいけど7階まで階段で行きたくないのでじっと待つ。何とかレストランにたどり着き、昨日の一件があったので若干ビビりながら行ったけど止められもせずに問題なくここでの最後の食事。チェックアウト期限は12時なので外出して戻ってくるくらいの時間はある…はずだけど念のためフロントで確認しよう、とロビーに来たらヤヴスがいるではないか。「君らの超過分を精算する話をしに来ていたところだけど、差額は現金がいいか銀行振込がいいか?」と言うので「できれば現金でもらえるとありがたい」と答えるとヤヴスは「わかった。今からATMで出金してくるのでちょっと待ってて」と出かけていった。ここで偶然会わなかったどうするつもりだったのか?は考えないことにするが、やがて戻ってきて現金をくれたのでこれにて一件落着。ヤヴスはもうチェックアウトして事務所に行くというので色々ありがとうまたどこかでね、と写真を撮って別れる。またしてもこの人とちゃんと話す機会がなかった次回(いつだ)。部屋に戻って支度をしてから出かけて金曜日と同じようにSchottentor駅まで行き、オーストリア国立銀行へ行くと今日は開いている。中に入ると窓口はガラス板で完全に仕切られている。自分はもし英語が通じなかった場合に見せる用としてドイツ語で"Ich möchte diesen österreichischen Schilling gegen eine Euro-Banknote eintauschen."とか作文してきたのだけど、ここは専用窓口なので「ご用件は」とか聞かれることもなくオーストリア・シリングを見せただけで係の人は「ではその下のドロワーにお金を入れてください」と身振りで示し、お札をカウントして換算されるユーロの額(13.7603オーストリア・シリングが1ユーロになる)を見せて自分が同意したのを確認してからピカピカのユーロ紙幣とコインを返してくれた。自分らが日本人だと判っていたらしい係員は最後に「アリガトウ」と言ってきたのでちょっと腰が砕ける。これでやっと両替レートより20円くらい安くユーロを入手できましたダンケ。ここには貨幣博物館というのが併設されているので観ていこうと思ったら月曜日は休館だそうで残念ながら次回(それはいつだ)に。

 ここから歩いていけるところにLöwenherzというクィア書店があるので行ってみる。店の近くの消火栓には"Free Palestine"と落書きされていた。開店時間にはちょっと早かったので開店作業(外壁に特製レインボーフラッグを何本も付けていた)を見ながら外で待ち、しばらくして店内に入った。店はけっこう広くて本、雑誌、DVDで満載である。田亀源五郎さんの翻訳本もコミック棚にありました。自分はもう荷物がパンパンなのでもう何も買わないことにしていたので見るだけ、まあここで買えるものはベルリンでも買えるだろうし…と平台の下にオーストリアのフリーペーパー(ゲイマガジン)らしいものが無造作に投げ込んであるのを見つけたので店の人に聞くと「無料ですからどうぞ」ということだったので何部かもらう。このフリーペーパー、一誌は"XTRA!"という映画祭会場にも置いてあったもので、最新号には映画祭の紹介記事もあってしかも『犬漏』のスチールが使われていたので記念に数部を貰っていたのだったが、ここにあったのは前号だった。"Lambda"という名前のもう一誌は全然知らないものでしたがテキスト多め。イマイズミコーイチはまだ本をじっくり見ているが、そろそろ戻る時間が近づいてきたので「あと15分くらいで帰るよ」と言っておく。


Löwenherz書店

 また紙モノが増えてしまったので部屋に戻って最終パッキングをし、リュックを背負ってみるが背骨が重量に耐えられる気がしない。自分ももういい歳ですし今度からこういう無茶は止めよう、と胸に誓う。チェックアウトはカードキーを返すだけで至極あっさり終わり、借りていた傘も返して完了。冷蔵庫はなかったけど(しつこい)いいホテルでした。あ、あと一つ難を言えば部屋のドアが閉まりづらかったことで、内側からでも外側からでも相当な力を込めて閉めないとロックされずに勝手に開いてしまうという謎仕様でした。ホテルを出て歩き出すが、駅までの短い距離の移動すら苦行のようである。地下鉄で一つ隣のPraterstern駅で降り、ここから空港行きの電車に乗るのだが、来た時と同様にウィーン市内7日間券は電車が市外に出てから空港までの区間をカバーしないため、差額切符を窓口で買う。自分がスマートフォン上の7日間券を見せて空港まで行きたいのだけど、と言うと係の人はすぐに理解して切符を発行してくれて「2€です。」空港行きの電車は次々に来るので焦る必要はないが、荷物が重くてあまり動けないので早々に空港に行くことにする。ホームでお互いの写真を撮り合って、写真を見比べたイマイズミコーイチは「もしかしたら僕には写真の才能がないのかも知れない」などと言い出す。空港に着いてセキュリティチェック、予想通り自分はまたソムリエナイフで引っかかり、今度は爆発物検査(試験紙みたいなシートで全身を拭ってチェックするやつ)までされてしまった。次回から手荷物だけのフライトにする時はよく考えよう。

 ちょっと早めに着いてしまったのでまだ搭乗ゲート番号が出ておらず、ベンチが少ないので適当に空いているところで待っていたら発表された搭乗口はたまたますぐ近くで、でも覗きに行ったら全く座るところがない狭いスペース、というか隣で営業しているバーカウンターの客席として使われてしまっていて待機できない場所でした。元のベンチでそのまま待っていると搭乗口付近が何となく動き始めた気配なので移動して、かなり混雑している中を立って待っていたのですが搭乗時間を過ぎても何も始まらないねえ、と話していたらアナウンスで「OS231便は遅延します、次の情報発表は15:20を予定」あうう解散。仕方がないのでその場で床に座って待つ。一体どのくらい遅れるのかと思っていたが、実はそれほど大幅には遅延しなくて割とすぐに搭乗開始となった。荷物棚の事があるのでとにかく早めに乗り込むべし、というのが今回の旅行で体得した知恵ですが幸い今回はすんなり収納できました。ちなみにイマイズミコーイチの荷物は今回は手荷物扱いで通った。ベルリンに着いたら空港から直行して18時半に友人のアンドレスと会うことになっているのだけど、フライト時間自体はそれ程ないので遅延してもあまり影響しないっぽいな、機内では行きと同じく水が一杯とメダルチョコが支給されました。


田舎から初めて都会に出てきた人みたいであるが、とにかく重い

 迂闊なことに予期していませんでしたがベルリンに着いたら雨が降っていた。そういや天気予報のチェックをしてなかった。でもそれ程すごい降りでもないので何とかなるでしょう、と空港の外に出る。喫煙所の近くにBVGの券売機があったのでイマイズミコーイチの切符を買う(自分はiPhoneで買う)。今回はベルリンAB区間の7日間券と、空港がC区間エリアにあるためAB区間との差額切符が必要なのだが、何故か差額切符が画面に出てこなくて7日間券だけ買ってホームに降り、そこにあった券売機を開いてみると差額切符があったので購入する。アンドレスと待ち合わせているのはKottbusser Tor駅の近くなので、SバーンでHermannstraße駅まで行ってそこから地下鉄U8ラインに乗り換えるのが良さそうだ。自分はとにかくリュックを背負っているとキツいので、座ったり立ったりするたびにヒイヒイ言っている。Kottbusser Tor駅に着いて、ここはPratersternと同じように環状道路に囲まれているのでどこから出るのが一番いいのか迷う。頼みのGPSがちょっと弱くていまいち当てにならない。アンドレスが指定してきたのは『伯林漂流』でもロケに使わせてもらった「Südblock」というカフェなのだけど、もう5年くらい来てないしこの交差点の何処かに…程度の記憶しかない。最初にカンで「あれだっけ?」と向かったところは近づいてみると違う店でだいぶ自信を喪失するが、ここじゃないなら別のカドに、と思い直して探したら奥まったところにありました。そして自分らが着いて間もなくアンドレスもやってきた。やあやあ元気?

 アンドレスは『伯林漂流』で廃墟を借りて撮ったときの現場担当者で、撮影時にはすごく良くしてくれてその後も何度か会ったりしていた。今回ベルリンでの上映を知らせたら「残念ながら上映日にはベルリンにいないんだけど、その前なら会えるよ」ということで今日にしてもらったのだった。ウィーンでの映画祭の話をすると「受賞おめでとう、僕は欧州にある大抵の街には行っているのだけど何故かウィーンには行ったことない」と言う。今はどんな仕事をしてるの?と聞くと「難民がドイツに定着するのを手助けするNGOで働いている。ドイツ政府はともすれば追い出そうとするから」とのこと。ウィーンの人権映画祭のパンフを見せると「とても良さそうだね、パレスティナに関する作品はあったのかな?」と聞かれ、イランとウクライナに関するセクションはあったけど…多分準備期間からして間に合わなかったんじゃないかな、と答える。ベルリンでのパレスティナ支援の動きについて聞くと「デモは毎週やっている。ただ反ユダヤ主義者と思われるのを恐れて何も表明しない人も多い」とのこと。オーストリアで撮ってきた、中心部のビル全面に「BRING THEM HOME NOW」の垂れ幕が掛かっている写真を見せると「さすがにベルリンではこういうのは無いかなあ」と言っていた。「君らは4年ぶりなんだよね、パンデミック後のベルリンではホームレスの人がとても増えたよ」とアンドレスは言う。アンドレスは2日後に出身地のエクアドルに行くのだそうで、「エクアドルで君らの映画を上映できたらいいと思う、日本のインディー作品が観られる機会は殆どないから」と言ってくれた。呼んでくれエクアドル。


アンドレスと。照明のせいで真っ赤っ赤

 アンドレスと別れ、さあ家に戻ろうとルートを検索してみると、APPが親切なのはいい事なのだけど、いろんな行き方が出てきてしまってどれにしたらいいのか判らなくなってくる。途中が工事で普段通りの運行ではなく…みたいなのがドイツ語で書いてあったり、乗り換えが簡単だと思ったら別の駅までかなり歩かなくてはいけないとか、到着する最寄り駅が全然最寄りでないとかだったりする。加えてKottbusser Torからライナーさんの家までというのが、距離的にはそれほど遠くはないのに乗り継ぎの鉄板ルートがはっきりしないのである(今これを書きながらどう行けば良かったのか、再度検索してみてもやはり判断できなかった。)最後はバスに乗るのが家の一番近くまで行けるのは判っているけれど、途中で乗り換えるバス停まで徒歩3分、って雨の中を歩きたくないし…などと迷っている自分を見てイライラしてきたらしいイマイズミコーイチが「そういうのに頼りすぎだと思うよ」とか無茶苦茶なことを言い出すので自分も疲れてしまい「じゃあベストなルートを判断して先に行ってくださいよ、ついてくからさ」とか言いたかったけど、どう考えても自分が悪いとは思えないのとここで揉めて帰宅時刻を遅らせたくないのでそうは言わず、険悪な感じのまま帰宅する。結局どのルートで帰ったのかは憶えていない。ライナーさんに戻りました(&あんまり関心ないだろうけど受賞しました)報告をして、とにかくお互い疲れているのが良くないね、と早々に寝ることにする。ぐったりである。

目次
2023.1206-07 ベルリンまで/ベルリンからウィーン
2023.1208-09 美術館、『犬漏(SOLID)』上映/美術館2つ、映画祭クロージング
2023.1210-11 各自ウィーン観光/ベルリンへ
2023.1212-13 ノーレンドルフ彷徨/体調不良でヘロヘロくん
2023.1214-15 『すべすべの秘法』+『犬漏(SOLID)』上映/ユルゲン、映画1本
2023.1216-17 一人遠足、映画1本、最後にカラオケ/一人散策
2023.1218-19 イスタンブール乗り換えで帰国

上映報告之記:一覧に戻る