2023.1216 Samstag

 ベルリンに毎年のように来るたび、今度は市内だけじゃなく遠出もしたいといつも思っては実現せずの繰り返しで、まあ今回はウィーン往復が「遠出」と言えるかも知れないのだけどイメージしていたのはもう少し小規模の、電車で行く日帰り遠足みたいなやつで例えばポツダムとかどうかな、でも雨ばかりだし寒いし体調不良だし、とぐずぐずしていたのだった。ベルリンでの上映も終わって残りあと2日、会いたい人にも大体会えたし、と天気予報を見ると土曜日は雨じゃないようなのでどっか行けるかな、と考える。ただ土曜日は夜の上映を観に行くので丸々一日は使えず、もう少し近い所…でシュパンダウ要塞はどうだろうか、来る直前に読んだ『ヒトラーの馬を奪還せよ』に出てくるヨーゼフ・トーラックの馬が昨年からここの博物館で展示されているらしいので、行ってみたいと思っていたのである。イマイズミコーイチに提案すると「う〜ん…行きたい気はあるのだけど…何かつかれた…」と起き上がれなさそうなので一人で行くことにする。眼の前のバス停からバスでKleistpark駅まで行ってそこから地下鉄U7でRathaus Spandau方面に乗り、終点手前のZitadelle駅で降りるのが最寄りらしい。片道40〜50分の旅である。

 軍人みたいな半身像が付いた駅の出口から見えた空は雲はあるけど晴れていて青く、雨上がりの空気の匂いも相まって歩いていて気持ちいい。要塞までの道は日本郊外のロードサイドみたいな感じで、トヨタの隣にニッサンの店があったりする。それほど歩かずに見えてきた要塞は橋を渡った向こうにある。公園みたいな感じだな、と思いながら中に入るとチケット売り場があり、多分だけどこれは博物館施設に入るために必要なチケットで、敷地内にあるカフェとかお店を利用するだけならチケットを買う必要はないと思う。チケットカウンターを見たところ無人で、外に出ていたおっさんが自分に気づいてカウンターに戻りチケットを売ってくれる。「これで全部の建物に入れる。OK?」と言われてうなずく。妙な例えだが判りやすく言うとここは四角形の五稜郭みたいな形状なので、城壁に沿って回れば全部観られるはずだ。入ってすぐのところに塔があり、「Julius Tower:ベルリンで一番古い建造物」と書いてある。見上げていると建物の近くに立っていたおっさんが(この施設はおっさんばかりである)自分を見て「チケット?」と言って扉を開ける。自分はこれが順路なのかわからないもののチケットを見せて言われるままに入ると、「ドイツ語?」というので「違います」と答えると半分ジェスチャーで「ここから見て回って戻ってくる、そこは天井が低いから頭上に注意」みたいなことを説明される。ハイ!と元気よく返事してから自分が言われたのといきなり違うほうに行こうとすると「そっちじゃない」と指示される。何しろ自分が唯一の入場者なので目立ちまくりである。展示されていた考古資料にはヘブライ語の刻まれた古い墓碑のようなものがたくさんあった。


13世紀に建てられたものだそうだ。

 展示室を出たら目に入った道を適当に登ったり降りたりして城壁の上を歩くのだけど、いまいち自分がどこにいるのか判らなくなる。ひとまず四辺あるうちの一辺分は歩いたようだ。城壁に囲まれた敷地内がグラウンドみたいに概ね空いており壁に沿って建物があるのだが、一番手近な学校の校舎みたいなビルに入るとそこはスペース貸しの工房兼ショップみたいな感じだったけど空いているところがあまりなかったので早々に出て、更に隣の建物でも企画展をやっており、ビスマルクをテーマにした現代アートの展示。やっと次の角を曲がって入った新しい建物はギャラリーで、いくつかの企画展に分かれていた。最初に観たドイツの冒険作家カール・マイの展示は面白かった。あとその隣にはトルコによるアルメニア人虐殺の展示とかあったのでどういう構成になってるんだろうかここは。その更に向こうは彫刻の展示で、やたら親子連れが来場していた。それにしてもヒトラーの馬はどこなんだろう、とまた城壁の上に登ったり降りたりして次のビルには重そうな金属製の大きなドアが付いていて、そこにレーニン像の頭部の写真が貼ってあったのでここかもしれない、と入ってみると、たくさん彫像が並んでいて博物館っぽい。係員もいるのだけど特にチケット見せるとかそういうチェックもなくて放置される。ここはドイツ帝国時代から東西ドイツ時代までにベルリンに設置されたモニュメントのうち、その後の政治情勢の変化により撤去されたものを集めて展示している。右を向いても左を向いてもほぼおっさん像ばかりで、「他の博物館とは違って触っていいものが多数あります」と言われてもどれがどれやら、という感じではある。


360°パノラマで撮ってみました

 出口に近くなるにつれて時代が新しくなってくるが、途中に「ナチス時代の空気感を音だけで体験する真っ暗な空間」というおっかないものがあり、その先に「ヒトラーの馬」はあった。本来は2体1対であるが、現在は修復の終わった1体のみが展示されている。総統官邸前に置かれていたものが戦後すぐに行方が分からなくなり、実は東ベルリンのソ連の関連施設にあったものが冷戦終結前に西側に運び出され、その後もずっとドイツ国内で秘蔵されていたという。2015年に警察に押収されたということなので展示まで随分時間がかかっている。ソ連兵が射撃の的にしていたという事で馬には穴が開いているが、運搬のために切られたという脚も判らないくらい修復されている。自分はどうも「ヒトラーもこれを眺めてたのかあ」といった想像力は働かないタイプの人間なので現物を見ても「ウマ、でけえ」というのが最初にして最大の感想ですが、いつか2体で並んでいるところを見てみたいとも思う。その先には入り口にも写真があったレーニン像頭部。これは東独時代にフリードリヒスハインに建てられたものがドイツ再統一後に解体して埋められ、2015年にまた掘り起こされたものだという。右頬を下に横倒しで展示されているのだが頭頂部に4本、触覚のように鉄筋が飛び出ていて、これは帽子でも乗っていたんだろうか。


「ヒトラーの馬」とレーニン像(頭部)

 侮れないことに展示施設はまだある。シュパンダウ区の歴史博物館では地元の歴史と産業の展示があり(昔は映画産業が盛んだったそうだ)、観終わって入り口の方に行ったところ実は最初に観た塔(Julius Tower)は中の階段を上って頂上まで行けることを知り、螺旋階段をひたすら登る。自分に先行して男女のカップルが登っていたのだけど、途中で女性の方が「私はいいや〜」とかいって脱落していきました。登り切ると周囲がぐるっと見渡せて、堀に囲まれた要塞なので全てのものが水の向こう。風が強くてあまり長居はできませんでしたが、自撮りを3枚失敗するくらいは滞在して、満足して引き上げました。ああやれやれ盛り沢山だった、と帰ろうとしたところ、チケットカウンターの脇に階段があるのに気づき、上がってみるとミュージアムショップというよりは土産物コーナーみたいな小さいスペースがあったのでちょっと覗いていこう、と思ったらその先に広大な展示スペースが広がっていたのでした。どうもここが要塞の歴史を展示するメインの博物館であるらしい。自分は博物館でも何でも表示をよく見ずに直感に従うとかなりの確率で順路を逆回りしてしまうのですが、今回もそのパターンのようでした。おかげでこの要塞の歴史がよくわかりました。おしまい。

 行きのルートと同じくU7線でKleistpark駅まで戻り、歩いても帰れるのでバスには乗らずにたらたらと歩く。途中でお茶をしたくなったのだけどグーグルマップで見つかる店は何故か閉まっている(土曜はやってるはずなのだけれど)。唯一開いていた店は席が満席で、ショーケースのケーキもあまり惹かれる品揃えではなかったのでやめ、結局近所のビオスーパーのベーカリーでチーズケーキを切ってもらって帰宅した。戻るとイマイズミコーイチは起きていたがベッドでゴロゴロしていて、「またねてしまった…」と平仮名で呟いているので買ってきたケーキを少し食わせて目を醒ましてもらう。ケーキはかなりあっさりした甘さでおいしい。今日はフィルムシリーズ「COMRADES I LOVE YOU」の最終日でシュー・リー・チェンの『UKI』の上映が20時からあるのでそれに間に合うように劇場に行くつもりだが、まだ15時くらいなので余裕はある。では支度をしてまずノーレンドルフプラッツに行こう、今日こそは「ハビビ」でファラフェルサンドを食べるのだ。「ハビビ」はベルリン在住のあきこさんに教えてもらった「ベルリンで一番おいしいファラフェルの店」で、『伯林漂流』の撮影時にも何度も食べに来たし、その後もこのためだけにノーレンドルフプラッツに寄ったりしたものでしたが今回はまだ行けておらず、自分もようやく普通に食べられるようになったので今日こそは。イマイズミコーイチは「前に見つけた近所の支店でもいいんじゃない?」と言っていたが確認したら家から1キロくらいあり、ホームページを見てもサンドイッチがメニューにないので、それなら目の前のバス停から一本で行けるノーレンドルフプラッツのほうが安全だと思う。バスを降りてまずはスーパーに行き…というのも明日の日曜日はかなりの商店が閉まってしまうからだ。自分はトルコスーパー「BOLU」で更にピスタチオチョコレートを買い足し、イマイズミコーイチは「ライプニッツ」がドイツ系のスーパーより安く売っているのを知ると更に買い足し、持っている小銭を全処分できる値段になるまで他のお菓子(ウィーン名物のウェハース「マンナー」)も足して買い、向かいの「Lidl」にも寄る。「nippon」という名前のライスパフチョコが売っていて大笑いするが、買わない。


冷静に考えればこれより旨いチョコレートは他にいっぱいあるだろうし

  その後にこの間ここらを歩いた時に自分が見かけていた古本屋に入る。大変広くて天井の高いお店で、興味深いものは色々ありましたが買うほどのものには出会えず、そしてようやく「ハビビ」。この店はかなり長時間営業をしているのだけど本当にタイミングによってすごく並んだりあっさり買えたりする。今日は運良く空いていて、ほとんど待たずに買えました。二人ともファラフェルサンドとアイラン(フルーツ味)、サンドイッチは5€でしたが前回最後に食べた時は3€台だったと思うので、確実に値上がりしている。でもパンデミックを乗り切ってくれてこうしてまた食べられただけでも感謝しなくては。ファラフェルサンドは相変わらずうまくてちょっと感極まる。ちょっとだけですが。ふと気がつくとカウンターには長蛇の列ができていた。店を出て駅前のEDEKAに入った自分はジャムと甜菜糖1㌔を買い、荷物ががやたら重くなってしまった。さて検索するとここから劇場までは地下鉄を乗り継いでいくのが良さそうだけど、いずれにせよ時間にはまだ余裕があるので大丈夫。自分らは『UKI』は先月に東京で観ていて、しかも監督本人とも会っているのだけどここだけの話イマイズミコーイチが「東京の時は寝ちゃったので、もう一度観ておきたい」のだそうでした。ちなみに監督は今ロンドンなので来場しません。劇場に着いてシアターに入ると、お客さんはそれなりに入っている。東京の上映後のQ&Aを聞いた後でもう一度観る『UKI』は前より判るところもあり、依然として判らないところもあるが飽きさせない映画であるのは確か。映画が終わると奇声が上がっていました。さすがシュー・リー(映画のファン)。

 次はいよいよカラオケ大会である。いよいよ、って事はないか。でもポポは事前のMCでも何度もカラオケについて言及するなど力を入れているのが充分伝わってきたので、理由はよくわからないけど重要なイベントなんだと思う。「配ったQRコードから専用のWhatsAppアカウントに歌いたい曲動画のYouTubeアドレスを送ってくれれば順次受け付けます」とか言っているポポ。しかし隣のカフェスペースにはイーを含めてけっこうな人がいて談笑しているのに、カラオケ会場たるシアターの客席に座っているのはまばら。でもポポは意に介する様子もなくカラオケ大会開始。トップバッターはもちろんポポで、何やら中国語のバラードを歌い上げる。それでも何人かはお客さんぽい人が参加するが、スタッフ含めて全員で10人もいないカラオケ大会。自分は10年に1回程度しかカラオケをしない人間なので客席から傍観しているつもりでありましたが、ううむこの参加率の低さはいかんかもしれん、と江利チエミの『おてもやん』を歌ってみました。実際に歌ってみて判ったのはこれ、当然ながらカラオケ専用のサウンドシステムじゃないのでオケ(YouTube動画であるが)と自分の声の一体感みたいなものに乏しく、歌っていてあんまり気持ちよくないというか、改めてちゃんとしたカラオケというのは良く出来てるなあ、と思ったことでした。その後イマイズミコーイチは戸川純の『バージンブルース』を歌っておりました。この劇場はオーナーの一人がトルコの人だそうで、トルコのカッコいい歌なども披露されました(これは良かった)。最後の方でポポが宇多田ヒカルの『First Love』を再生してからこっちにやってきて「歌おうよ」とマイクを持ってくる。自分は宇多田ヒカルは殆ど知らないのでこの曲もサビをうろ覚え程度でしたがローマ字の歌詞が出るビデオだったので何とか誤魔化しながらみんなで歌い終わりました。ああつかれた。

 さてこれで全てのプログラムが終わり。イーは明日ロンドンに帰るというのでポポと4人で記念撮影して別れる。『犬漏』に関して言えば、イー・ワンと実際に会えた今回のベルリン上映は2022年のQueer Eastから始まった上映サイクルの一区切りであるようにも感じていた。世界初公開になった2021年の台湾クィア映画祭での上映は映画祭が提案してきた今泉浩一特集にこちらが提案して入れてもらったもので、映画祭として作品を選んでくれたのはQueer Eastが初めてだった。そこまでずいぶん色々な映画祭に落ち続けていたので(自分は面白いものを作った、という確信が揺らいだことはなかったけれど)上映運みたいなものは無いのかもなあ、とそのままフェードアウトしそうになっていた流れを変えてくれたことには本当に感謝している。もちろん今回の企画を立ててくれたポポにもである。4人で他愛もない事を話したりしていたら、日本にいる時には強まるばかりだった虚しい孤軍奮闘感が少し薄まって、また何か新しいことをしようと思えました。ありがとう同志たち(Comrades)いずれ再会するその日まで、どうか健やかでいてください。


“Comrades, I Love You” at SİNEMA TRANSTOPIA

 帰宅したら昨夜と同じく犬の吠える声がしてボニーが駆け出してきた。あれ、ライナーさんは今日飼い主のところに返しに行くとか言ってなかったっけ?と思ったがそれを言っても何がどうなるものでもないので自分は床に転がって降参ポーズとかしてみたけど効果はなく、唸るボニーちゃん→叱るライナーさん。ああサンフランシスコのホームステイ先にいたバーボンくんは実に大人しくてなつっこい子だったなあ、と不意に思い出して胸がほどけるような気持ちになる。今年のハバカリ国際ドサ回りは犬に始まり犬に終わる、と言ってもいいのかも知れない。ぐるるるるるる。

2023.1217 Sonntag

 なので以降は蛇足である。

 今日は本当に予定がない日曜日であるので観光客としては(ウィーン最終日と同じパターンであるが)激混みの観光スポットを廻る感じになってしまうのですが、イマイズミコーイチは体調が悪くて部屋で寝ていたいという。明日は帰国なので休めるならその方がいい。10時すぎに一人で家を出て、S1に乗ってOranienburger Straße駅まで行く。ここに最近できた写真の美術館「Fotografiska Museum Berlin」に来たのだが、予約していたチケットは11時入場のものだったので到着がちょっと早すぎた。建物内にヒップな感じのベーカリーがあったのでちょっと買い食い、とパン・オ・ショコラを買って小銭を出したら「現金使えません」だそうでカードを差し込み、決済を待っていたところ急に店員さんに「日本人ですか?」と声をかけられたのでハイそうです、と答えると「カードの案内が日本語になったのでそうかと」だそうでしたがそれ以上は別に会話も弾まずどーも、と言って店を出た。早速齧ってみると不味くはないけど値段の割にはチョコが少ない。なんか朝食っぽい甘くないものを、と見回すと道の向かいにパン屋らしいものが見えたので入り、サンドイッチを買って路上で食べる。グレーと黒の体色の鳥が近くをウロウロしているが、ズキンガラスという種類らしい。寒いので冷たいサンドイッチはあんまり正解じゃなかったかも、と思うが仕方ない。やがて時間になったので館内に入り、iPhone上のチケットを見せるとスキャンされて服に貼る丸いシール型チケットを渡され、ジャケットを預けて(無料)最上階から見て廻る。3〜5階が展示室なのだが階によってはスペースの半分がレストランだったりして(そして今日は閉まっている)、広大というほどでもない。フロアによって違う企画展をしている。

 ミッテ地区にあるこのビルの歴史は古く、元は1907〜1908年にかけてデパートとして建てられたものであるらしい。後日カタリーナに聞いたところでは、ここはドイツ再統一の頃にアーティストが占拠して以来アンダーグラウンド芸術の一大拠点だったが、やがて2010年代初頭には再開発のためにビルが売られてスクワッターたちは強制立ち退きさせられ、現在のような形になったのだと言う。このフォトグラフィスカというのもスウェーデンに本家がある写真美術館のベルリン支店みたいなもので、要はジェントリフィケーションのサンプルみたいなとこじゃないですか。階段にはグラフィティがたくさん残っているけど、勿論それも含めて売りにしているのだろうし、アートスペースとしては脱色されてしまっているのでこのまま地元に馴染んでいくのか、あるいは浮いたまま行くのかは何とも言えない感じで、展示は面白いものもそうでもないものもありましたが、名前をメモったのはJenevieve Akenというナイジェリアの写真家だけでした。あとトイレがあまりにスタイリッシュでちょっと笑ってしまった。美術館を出たらまたしてもベトナム料理と日本料理のハイブリッド店があったのでしばし考え込む。そして美術館のすぐ近くの建物壁面を丸ごと使って「BRING THEM HOME NOW」の文字とイスラエル国旗と子供のイラストが描かれていて更に考え込む。あ、ウーヴェからメッセージが来ている。「やあ、どうも体調が戻らないので会うのは無理そうだ。済まない。良ければ夜にビデオでちょっと話そうか?」ということなのでそうしましょう、と返事をする。


一度はこういう店でガッツリ「日本料理」を食べてみたいとは思う。

 行先を決めずに適当に歩き出す。修学旅行みたいな団体がそこかしこにいるが、話しているのはスペイン語かな。近くには巨大なシナゴーグがあり、道の反対側から見るだけだったけど沢山の花が供えられているようだった。更に歩いていたら博物館島に出てしまい、こんなに近いとは思わなかったので意表を突かれたけど、ここはさすがに観光客がかなりいる。自分は体が冷えてきたので暖を取るべくトラムに乗り込み、アレクサンダープラッツで降りたらここにも人がいっぱいいる。さて…特に何も考えて無かったのだけど、ふとポツダマープラッツに行ってみようかと思いつく。2008年にベルリン国際映画祭で初めてベルリンに来た時はそこばかりを右往左往していたものでしたが、その後はほぼ行くこともなかったので15年ぶりである。アレクサンダー広場からは地下鉄のU2で一本、思いつきで着いてみたポツダマー広場は記憶とあんまり変わってないと言うか、拍子抜けするくらい何の感慨も憶えないのでしたがクリスマスマーケットで賑わっていて屋台がいっぱい出ているので、ますます自分のウィーン最終日と見分けがつかなくなってくる。気が付けば自分はふらふらと屋台に並びホットワインを買っていた。この白ワインには生姜が入っているのかな、家に帰ったら作ってみよう、と思いながら飲み干して、グラスを返すと5€戻ってくる(買う時に10€渡す)のですが、何故か1€コイン5枚で戻ってきた。これはさて、と思って歩き出したら広場の端っこに初老の男性が座っているのに出会った。彼の足元にある紙コップに小銭が少し入っていて、更に隣にはさっき自分が飲んでいたのと同じホットワインのグラスもあり、恐らく放置されていたグラスを屋台に持って行ってデポジットをもらうのだろう。自分は何とも言語化しづらい気持ちのまま、握っていた小銭を何枚か紙コップに入れる。

 腹が減ったので駅の中で食べられるところを探す。座れるスペースがあるパン屋を見つけたのでシュニッツェルのサンドイッチを買ってその場で食べる。そう言や今回もウィーンでウィンナシュニッツェルを食べられなかったので、次回(いつだ)は必ず。ちなみにいま食べているサンドイッチは大変おいしいのですが挟んであるのはチキンカツなのでウィンナシュニッツェルとは全く別物です。あっという間に食べ終わったのち広場とは反対方向に歩き出すと「Mall of Berlin」という文字が見えてきた。もしかしてショッピングモールっすか、どこもかしこも同じようになりやがって、と思いながらもちろん入る(寒いからである)。最上階のフードコートはものすごい種類のレストランがあったけどドイツ料理ぽいものは全くなし、インドカレーとかが大人気でした。ミドル階は興味のない店ばっかりっぽかったので飛ばして地下階へ、行くとなんと日曜日なのにスーパーマーケットが営業している!これは燃える。しかも2店舗あって一つはEDEKA(ふつう)でもう一つはALDI(激安)。自分は安い男なので迷わず安い方に入る。フードコートを始めモール自体は人で満杯だったし、日曜営業という希少性にも関わらずお客の姿はまばらで、日曜にスーパーに行くという発想自体がないのかも知れない。さっきのホットワインの酔いからは醒めているはずの自分はハイな気分のまま、見たこともないメーカーのチョコレートなどを買ってしまいました。


ポツダマー広場、ピカチュウおよびピカチュウのようなもの多数

 時刻は15時くらいだけど太陽はかなり傾いている。一人散歩にもけっこう満足したので家に戻るとイマイズミコーイチはまだベッドに張り付いていたが眠ってはいないようだ。「なんかトイレが近くて…」と唸っている。自分はウーヴェにメッセージを送り、20時にビデオで話す約束をする。それまでの間に自分は何となくパッキングを始める。ウィーンでの紙類と表彰楯もあるし、帰りの荷物ははかなり重くなりそうだ。今回のターキッシュ・エアラインズは預入荷物が2個まで無料なので、行きは手荷物で持ち込んだバックパックも預け入れにしてしまおうかと思う。そうすればそれぞれを23キロ以下にすればいいので、バックパックには洋服を詰めてあとはなるべく壊れにくいものを入れよう。問題はバックパックは当然ロックがかけられない事で、気休めだと判っているけど預け入れの時にファスナーのスライダーを紐で結ぶことにする。洗面用具とかまだ使うものを除けば大体まとまったと思う。起き出したイマイズミコーイチは床にぺたりと座り込んでスーツケースに向かい「はいらない…」とつぶやいている。大量の箱ビスケットにタバコのカートン、各種パネトーネ(これがまた縦にしても横にしても出っ張る形状)だのがうまく収まらないという。見てみると品物を成田の免税店のビニール袋に小分けで入れてそれをスーツケースに入れているので、あちこちに隙間が出来ている。免税店袋って全然使い勝手が良くないので全部そこから出してスーツケースの形状に合わせて組み合わせて入れていけば…ほら入った。イマイズミコーイチは心底びっくりしたような顔をして「イワサくんパッキング上手いねえ」などと言いだす始末で、20年以上自分と一緒に旅行をしていて何も見ていないということが判明する。

 そろそろ時間になったのでウーヴェとビデオチャットの準備をする。と言ってもiPhoneを構えるだけであるが、約束していた20時になって向こうも準備ができたとのことなのでfacebookメッセンジャーをスタートさせる。こういう言い方はなんであるがウーヴェは普段からものすごく元気ハツラツなタイプの人ではないため、今も目に見えて具合が悪そうという印象でもない。が、時折ひどく咳き込んでいるのでやはり心配だ。お互い手短に近況報告をして、自分らが日本に戻ったらまたビデオ通話しようね、と約束する。あまり長くは悪いので20分くらいで切り上げたけど、自分らも含めて具合の悪い人が多くて(あきこさんの夫も寝込んでいるらしい)ベルリンの冬というのはけっこう体に悪いのかもしれない。さてちょっと遅くなったが夕飯を食べに行こう、徒歩圏内に前も行ったことがあるケバブレストランがある。今回はまだケバブを食べてなかった、というかベルリンでは今回(誰かと会食したときを除けば)あんまりちゃんとご飯を食べてない。ともあれ日曜の夜だけど開いていたケバブレストランで自分は一番よくあるドネルケバブのサンドイッチ、イマイズミコーイチは「チキン」と言ったらチキンはフライドチキンのプレートしかないと言われてファラフェルサンドを注文する。ケバブサンドは6€。数年前に安いところでは3€とかだった記憶があるので、まあ確かに値上がりはしているけれど仮に同じくらいの値段だったとしたら、マクドナルドみたいなファストフードチェーンよりはこういうところで食べたいとは思う。野菜もいっぱい摂れるし。で夕飯おしまい。

 家に戻ってパッキングの仕上げをしていたら、ライナーさんがそろそろ寝るというので宅内でさようならをする。今回自分らのフライトが翌日午前6時40分発なので始発で空港に行くのでは間に合わず、かと言って空港近くのホテルとか取って前泊するのもなあ、という微妙な時間帯であるため今日の終電で行くことにしている。しかしライナーさん、何度も泊めてもらっているのに個人的に親しい「友人」みたいな感じにもならず(今回自分が体調不良でスキップしてしまった食事会にライナーさんが参加したのが唯一交流っぽいことだと言っていいが、でもそれも多分クラウスたちと友達だからだと思う)自分らの映画を観に来るわけでもなく、でも頼めばいつも親切に泊めてくれてポンと鍵を渡してくれるし、滞在中に特に苦言を呈されたこともないという不思議な間柄である。ライナーさんは「次の映画が出来たらまた、だね?」と言ってくれて、いつになるか判らないけど必ず、と約束する。そしてボニーちゃんはまだいるのでばうばうばう。


目次
2023.1206-07 ベルリンまで/ベルリンからウィーン
2023.1208-09 美術館、『犬漏(SOLID)』上映/美術館2つ、映画祭クロージング
2023.1210-11 各自ウィーン観光/ベルリンへ
2023.1212-13 ノーレンドルフ彷徨/体調不良でヘロヘロくん
2023.1214-15 『すべすべの秘法』+『犬漏(SOLID)』上映/ユルゲン、映画1本
2023.1216-17 一人遠足、映画1本、最後にカラオケ/一人散策
2023.1218-19 イスタンブール乗り換えで帰国

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