2008.0211, mon


 何がどうだとか言う前にとにかく時間がないのであって、作品への「招待状」が(PDFで)届いたのが1月15日、でもって映画祭が2月7日から17日。どう優しく見積もっても一ヶ月無いわけです、ベルリン。少しは「え~どうしよっかな~」とかぐだぐだ悩んでみたりしたかったのですがそんな余裕もなく一週間後には5人分の航空券を取り、その後もゲストパスを作るから写真を送れだのホテルを決めてPDFで申し込めだのと言ったこれまでにないやたらな手続を香港ディストリビューターJの手助けをかりて何とか終わらせ、世界三大映画祭とかいうからには一事が万事全てが向こう任せで超スムーズに進行するのではないかといった甘い思い込みはことごとく粉砕され続け、えっ渡航費出ないのとか滞在費は監督5泊分だけなの、とかいう事実に打ちのめされつつもこれまでの経験からして行くべし、という判断だけは割と早く下して以降様々な方々にご迷惑をお掛けしつつ旅行の準備などはもちろん前日の夜にしたわけで、でも「賞を取ると判ったら我々の現地撮影クルーを会場に飛ばしますので情報が入った段階でベルリンから東京に一報を」とか「映画のあらすじを教えてください」などという電話を前日まで何度もしてくるのはやめてエネーチケー。

 これまでで一番長いこと飛行機に乗らないといけない訳ですがそんなことを考慮しているゆとりもなく出発日、午前7時に同行者2名にそれぞれ電話をしてじゃあ空港でねと切り、自分は都営新宿線+京成という最安ルートで成田空港へ向かった。今回の渡独有志5人は自分とイマイズミコーイチ、スチール写真担当の田口さん、主演村上ひろしくんと同じく主演の松之木天辺くん、これまでで最多人数のワールドワイドどさ廻りツアーである。スケジュールの都合上、田口さんとヒロくんは帰国が若干早いので航空会社も別、ただし出発時刻は30分ほどしか違わないのでほぼ同時刻の移動、僕らの方がちょっと遅めで。電車の中でイマイズミコーイチから電話、「バスを一本乗り過ごしたので遅れる」との知らせがあり、案の定成田空港に着くと誰もいませんでしたが、やがて3人とも集まって発券手続、今回乗るオーストリア航空はもちろん初めて。早めに出国審査を済ませて僕とイマイズミコーイチが喫煙所で煙草をふかしていると田口さんから携帯に電話があり「これから搭乗する」とのことでかなり遠いけど搭乗ゲートに行ってみましょう、と早足でブリティッシュエアウェイズのゲートへと向かう。行列しているせいで辛くも搭乗前の田口さんとヒロくんを見送ることが出来た、つうか眠そう。行ってらっしゃい、半日後にベルリンで会いましょう。 僕らもそろそろ行かないと。


Narita, 09:52am, 5.7 degrees centigrade

 機内に入る前にもらった讀賣新聞第一面に「ソウル南大門全焼」のニュースがあったのにたまげつつも(韓国の人にとっては日本における金閣炎上より一大事ではないだろうか)、10時間以上のフライトは心配していたよりは何事もなく(さすがに足がパンパンになったけど)、うつらうつらしながら「現在ウラル山脈上空」「現在ワルシャワを」などという全く現実味に欠けるアナウンスも左から右へ通り過ぎていき、機内食がうまいなあパンもっとください、とかテッペンくんそれでビール何本目なのとか笑ったり、英語版で観ると「CSI:マイアミ」は面白いんだかつまんないんだかさっぱり判んねえやとか50センチ四方の個人空間をもじもじしながら真っ赤な制服のキャビンアテンダントさん(男女混成チーム)がでかいのに若干怯えつつ(イマイズミコーイチが)「まもなく、ウィーン、でございます」。正直に言えばディスイズウィーンです、って言われてもな感じではあるが差し当たり降りないといけない。30分ほど早く到着しましたが次の乗り継ぎ便が早まるわけではないのでそんなにお得感もなし。イマイズミコーイチは「脱いだスニーカーが全然入らない」と嘆いていた。

 ウィーン空港に降りる。何か妙に落ち着くと思ったらBGMが一切鳴っていないのである。さすが「音楽の都」、自分は一瞬でこの空港が気に入り緊張感のないままふらふらとトイレに入る(小便器の位置が高い)とそこはいくつかのゾーンが扉で仕切られていて最初の扉を開けると手洗い所+小便器、次の扉で大のある部屋といった構造になっている。それは別にいいのだが、一旦入って扉を閉めてしまうと自分がどこから入ってきたのか判らなくなって軽くパニックする。どれもみんな掃除用具入れのドアに見えるもんで。入国審査もえらく緊張感無く済ませましたが押されたスタンプがあまりに可愛かったので更に気が抜けました。ひこうきのいらすとがついていたりしてさ。


ウィーンである

 喫煙室にいたらでかいおっさんがガラス戸に激突してきたりといったささやかな出来事はありつつも特にトラブルも無く、でも1万円をユーロに両替したらガッカリするくらいの金額になったりしたので観念して喫茶店に入り、お茶を一杯だけ頼んで(何でもかんでも高いんであるがユーロ高でダブルパンチ)出発までの時間を過ごす。目の前の席には日本人のおっさん集団がいるもんで、ウィーン感は20%というところ。外にはザッハトルテのショーケースもありましたがやっぱり高い。もうここは全てが山小屋価格だと思うことにする。
 
 時間になったので飛行機に乗り込む。ちょっと離れた所に止まっているためバスで移動するとちょうど凄まじい夕暮れ、乗り込む前に2枚ほど写真を撮る。後はもう国内移動みないなもんなので飛行機も小さいし、時間も1時間と少し、それでも機内食が出てパン、おかわり。あっちゅうまにベルリンに着きました。テーゲル空港の建物に入るといきなりターンテーブルがあって荷物をここで受け取るらしい。ガラスを一枚隔てた向こうはもう出口、なんかすげえ簡単だなあ、と思って外を眺めていたらどうも僕らのお迎えらしい男性がこっちに合図している。事前に顔写真を送っているので判るんであろう。さすがに声が届かないのでジェスチャーで「荷物を取ってから行くから、ちょっと待って」と伝え、3人分のラゲージを確保したのち外へ、無論何もチェックは無し。

 迎えに来てくれた男性は僕らが事前にやりとりをしていた誰でもないようだったが自分らのゲストパス(顔写真付き)をくれ、「こっち」と案内する。大して広くない構内を歩いていくと一角にベルリン国際映画祭のブースがあって、アジア系の女の子が一人受付をしている。彼女は台湾から来ているのだそうでしばし自己紹介などのひととき、あれそういえば先に着いているはずの田口さんとヒロくんは、と思っているとしばらくして別の女性に連れられて2人がやってきた。なんか疲れているのとはちょっと違う浮かない顔をしているのでどうしたの、と聞くと「飛行機に積んだ荷物が届いてない」んだそうでどうやら荷物紛失率業界ワーストの英国航空の被害に遭ってしまわれたようでした。他にも出てこなかった人が居たようで、彼らの荷物を載せたボックスを積み忘れたという事らしい。「ヒースロー空港(ロンドン)はセキュリティチェックがたらたらしてるわ喫煙所は何処にもないわ」と田口さんはブリブリ怒っているがすいません(オーストリア航空はチケットが無くて)英国航空にしたのは自分ですすいませんどうか、怒らないで。BAのバカ。


ベルリナーレゲスト用カウンター@テーゲル空港

 さて2人を連れてきたソフィーは自分が日本でやりとりをしていた女性で日本語が話せる。ちなみにスザンヌ・ヴェガにちょっと似てるがそんなことはどうでもいい。彼女が2人を連れて再び遺失物問い合わせセンター(のようなところだと思うんだけど)に行っている間、申し訳ないながら僕らは外で喫煙させていただく。寒い。来ちゃったねえしかし実感無いねえ、とイマイズミコーイチと顔を見合わせて苦笑する。戻るとソフィーが「お二人の荷物は責任を持って届けさせますから、まずはホテルに行きましょう。でもその前に」とカウンターの中からごそごそと何やら取り出し、「これはみなさんの分です」と彼女も下げているベルリナーレ公式バッグを一人ずつ渡してくれる。ベルリンへはこれをもらいに来たと言ってもいいくらいで、今年のデザインは赤地に黄緑のプリント、後で幾人からか「去年の方が可愛かったよ」と聞かされましたが自分はとても気に入った。中には電話帳みたいな分厚いカタログが入っていて重い。このまま凶器になりそうです。

 さっき出迎えてくれた受付の女の子にさよならをして外へ、するとそこには熊のロゴマークと「Berlinale」の文字とがオレンジ色に光る黒塗りの車が止まっていてうむ、なんかゲストっぽいぞ。ソフィー達も入れて7人は乗れないので2台に分乗して夜の市街地へ、空港からはけっこうすぐに街中に入る。途中通過した映画祭の中心部でもあるポツダム広場は再開発の嵐で思い切りのいい建物がギラギラ建っていて眩暈がしそうです。僕らのホテルはそこから地下鉄で一駅分だけ離れたところ、でもいきなり暗くなっていてとても静かなエリアにありました。さて着いたよ。


車体に付けられたロゴマーク

 まずはチェックイン&映画祭が負担するイマイズミコーイチ5泊分以外は先払いをしないといけないのですがここで一つ問題が発生した。自分のクレジットカードが通らないのである。「たまに日本のカードが切れないことがあるよ」と田口さんは言うのだが、2枚ともダメで何でだろ。仕方ないのでイマイズミコーイチのカードでやってみると難なく通ったので、同じカード会社で作った自分のが通らないつうことはなんか個別の理由らしい。「念のためカード会社に電話してみてください」とソフィーはロビーカウンターのお姉さんの言葉を訳してくれるのだがのっけから不安な幕開けである。「みなさんお疲れでしょうから今日はゆっくり休んでください。では明日、パノラマのオフィスでお会いしましょう」と言い残しソフィーは帰っていった。

 キーはカードになっており、一階からエレベータに乗る時は中でこれを差し込まないと他の階のボタンが押せないようになっている。闖入者を防ぐためだろう。ボタンはこれでもかというくらいでかく、そして体で押さないように縁取りをしてある。部屋割は自分とイマイズミコーイチがダブル、田口さんとヒロくんがダブル、テッペンくんシングルという事にしてそれぞれが分散し、部屋に荷物を置いてからロビーへ戻り、もう今からどこかへ出るという気力もなかったのでここで夕飯にすることにした。ビールを頼んで、自分が頼んだソーセージがやたらでかいのに面食らいつつも乾杯してまずは(人間に関しては)無事の到着お疲れさまです。明日からどうぞよろしくお願いいたします。部屋に戻ってもう日本だと何時間起きているのか判らないもののじっくり考え出すと疲れそうなので就寝することにした。ここは映画祭提携ホテルの中では一番安い所、でも充分。これで冷蔵庫があれば文句のないところだけど。


バッグ&パス


2008.0211 ベルリンへ
2008.0212 プレミアまで
2008.0212 プレミアから
2008.0213 オフ、撮影1件、被取材1件
2008.0214 上映二回目、Teddy Award
2008.0215 上映三回目、被取材1件
2008.0216 上映四回目
2008.0217 帰日