2008.0215, fri

 7時半起床。昨夜僕らの部屋にはソフィーからの伝言メモが入ってて、「午前8時に田口さんヒロさんを空港にお送りするためにタクシーをホテル前まで手配しておきますから、ロビーで待っていてください」と書いてある。起き出して食堂へ行くと、田口さんとヒロくんは既にお茶などを飲んでいる。眠そう。僕らもたらたらお湯などを飲んでいるとしばらくして玄関からソフィーが入ってくるのが見えた。おはようございます、朝早くからすいません。「車は待たせておきますから、どうぞ急がず」と言ってくれるので一区切り付けてからそろそろ、と腰を上げる。実質3日ちょっとの滞在では本当にあっという間だったろうけれど、少しは国際映画祭を楽しんでいただけましたでしょうか、って自分らに楽しむ余裕があんまりないのでそんな手一杯なツアコンに感想聞かれても、という感じかもな。昨夜田口さんは荷造りしながら「あと一ヶ月は居たいのじゃ」と言ってたけれど。


出発20分前

 天気はすごくいいし、ついでにすごく寒い。ソフィーは空港まで送っていってくれるそうなので安心、行きは荷物を一時行方不明にされてしまったが、帰りはどうぞ全部がご無事で、僕らはもう2日残りますがお気をつけて、と田口さん+ヒロくんとさようならをして、タクシーが見えなくなるまで見送った。しかしさむい。さむいとさみしいは似ている。

 僕ら3人は一旦解散、午後2時に映画を観ることにしているのでその劇場に集合することにして僕とイマイズミコーイチは部屋に戻った。すると香港Jより国際電話が来て「テディ賞は残念でしたが相手が悪かったです、だから気を落とすことはありません」などと言うのでそれはそれはわざわざどうも、ではあるがそれはともかくテープその他の事はどうしましょう。さて実はテッペンくんは自前のパソコンを持ってきていたのだったが自室ではインターネットに接続できず、一昨日くらいに「6階でなら使えるそうなんですけど…」と僕らの部屋に持ってきたものの自動取得にしてもIPアドレスが取れない。はて、とそのまま忘れていたのだが思い出したのでフロントで聞いてみる。したら「部屋での使用は有料なのです。こちらで許可すれば使えるようになりますが一日24.5€ (3945円)かかりますから、そこの無料パソコンでやったほうがいいですよ」ってことなのでその旨をテッペン氏に伝えると「自前使用はあきらめます」とのこと。空港のセキュリティチェックの度にいちいち外に出させられていた(そしておそらく帰りも)苦労を思うと気の毒だが仕方ない。


世界のテレビ:ドイツへん

 テッペンくんはしばらくしたら出かけてしまうという。イマイズミコーイチはもうちょっと寝るというので部屋に残り、自分はその辺を散歩することにした。部屋に戻ってこなくてはいけないので電車に乗ってどっか行って戻って来るには中途半端に時間が足りない。ホテルを出て、いつもポツダム広場に行く方向とは逆に取りあえずあんま地図は見ずに勘だけでその辺を歩き回る。歩道は広いが自転車用のレーンもあって、僕らはいつも気付かずその上を歩いてしまってベルを鳴らされていたのだが今はほとんど人通りもないので歩き放題である。

 ずいぶん歩いて、帰れないかも知れないという不安は無いものの自分は何処まで来たのでしょう、と地図を広げ、川があってこの道が…と確認すると地図で見ると全然歩いてない事に愕然とする。どれだけ広いのかベルリン。とにかく真夏のように高い青空とハイコントラストな雲と、でもすげえ寒い(手袋を置いてきてしまったのだ)ので妙な気分で、その辺のアパート共用部分に入り込んで写真を撮ったり公園で鳥を追いかけたり(やってることはいつも同じですな)、途中でベルリナーレ「TALENT CAMPUS」の事務所にぶち当たったりして(何か搬入してた)疲れた、と近くの川岸で陽に当たる。一時間半ほど歩き回ったのだろうか、本場の(か知らないけど)落書きの気合い入ったやつのそばで煙草を喫っていてそろそろいいかな、とホテルに戻った。僕らのフロアは清掃が入っていてカートが置いてあったのだが、そこにはどう見ても田口さんが昨夜まで飲んでいたビール(ペットボトルの)が数本、ゴミとして積んであった。今頃はロンドンでしょうか、と思った。

 部屋に戻るとイマイズミコーイチは起きていて、もうちょっとしたら出られるよ、と言う。自分は冷えてしまった体を温めるべくシャワーを浴び、手早く(主観的には)支度をしてホテルを出た。切符を買って、昨日のアレクサンダープラッツの一つ先、シュシリングシュトラッセン(読み方てきとう)駅に行く。相変わらずテレビ塔が見える。劇場は「International」という古そうな映画館、テッペンくんと合流して劇場に入ると内部はまた中途半端にゴージャスと言うかシャンデリアが哀愁というか、すてきな内装でした。今日観るのはマドンナ初監督作品「Filth And Wisdom」、テディ賞のカタログでは「初戀」と隣同士だったのが笑えましたが(多分アルファベット順だから)、これクィア映画なの?という疑問を確かめるためにも観ることにしたのだった。上映前にトイレ行きたい、と出ようとしたら数字の入った番号札を渡されて、戻ってきたらそれを返すというシステムでした。チケットチェックのところでは何だか「入れろ」「ダメ」の押し問答が延々続いてましたが何だったんだろ。


「International」前、「DEREK」のポスターがあった

 映画は、実をいうと観る前に見聞きした評判があまりに悪かったのでどんなもんかと思っていたのですがそのせいもあってか「そんな悪くないじゃん」という感じでした。終わらせ方が好みじゃないのと(マドンナって人は一貫して「ユメ ハ カナイマス」の人だと再確認)、自分の曲なのに使い方が間違ってるなぁ、というのを除けば台詞が全部判らなくても最後まで観られるという映画でした。終わった後、主演俳優が酒瓶持って登場、最後にギター弾き語りというサービスもあってうん、いい人だ。訳の判らない観客からの質問には「え、何だって?」と実に鷹揚に返していたのが好きでした。

 電車でポツダム広場に戻り、昼飯食おうということでまた「VA PIANO」へ。テッペンくんはこないだ来てなかったのでパスタがうまいよ、と言いつつ案内。サラダとパスタ2品とピザを注文してみんなで食う。2階に上がってデザートも食う、という全旅行中ではかなり贅沢な食事、田口さんとヒロくんが居る間にこんなふうにゆっくり食事もしたかったけどねえ。自分が頼んだケーキは特濃チョコレートでした。

 テッペンくんとはここで一旦別れ、僕らはインタビューの為「CineStar」に向かう。ここで最後のインタビューを受けるのだ。マティアスはやっぱり来ないようなので(学生なんで忙しい模様)はあるが今回通訳のマリアが僕らを見つけて、「取材チームはバーのところで準備している」と連れて行って紹介してくれる。あれ、またカメラだ…マリアに「ビデオカメラがあるって聞いてた?」と聞くと「ぜんぜん」、マティアス…。レポーターの女性+カメラマン男性+マイクの男性という3人組、バーのテーブル席に座ってイマイズミコーイチと2人でインタビューを受けるが、「では」と話し出して質問を受け、さてマリアが通訳を、と思っていたらレポーター氏(美貌)があわてて「すいません、これノーカットノー編集なのでやり直していいですか」という。ノーカット一発撮りってNHKか。「まず私が質問するのでマリアさんが訳してくれます。それには日本語で答えてください。マリアさんがまた訳してくれます」というマリア無しでは何一つ成り立たないインタビュー撮影は理由不明ながらノンストップである。レポーターさんしつもん、僕ら答える、までは良かったがマリアが回答を訳する段になると毎回カメラが90度回ってマリアを撮るので彼女は面食らった顔をしつつ止まるわけにもいかないので(ノンストップだし)、何とか訳し終え…、というやりとりがしばらく続きました。音声の兄ちゃんがしばしば観葉植物にマイクを突っ込んでしまうのでハラハラしました。内容は(記憶のみで)。

・この作品を作った動機は?
・日本の、同性愛者をめぐる状況を教えてください

 このインタビューはここで見られる(かも)

 終わった後に開口一番マリアは「自分まで撮られるなんてショック」を連発していました。しかし何故ノーカットなのかはいまだに不明です。編集できる人がいないのやら。


インタビュー準備中

 今日の上映は22時45分からと遅いので、マリアとちょっとお茶でも、ほら初日にダフって稼いでもらった40€ がまだ残ってるからさ、とポツダム広場に面した喫茶店に入る。結局3人とも「あったかいチャイ」ということになって喫煙できないのはちょっとですが寒いので屋内でお茶に蜂蜜を投入しつつ、マリアと雑談するのは初めてかもねえ、と下らないことをだらだら話す。そうそう僕らが会った人はみんな英語とドイツ語のバイリンガルだけど、これは自然とそうなるの?と聞いたら「いや、やっぱり勉強しなくてはいけない。あんまり得意じゃない人は苦手だし、私もがんばって今くらい話せるようになったけれど、でもドイツ語→英語の学習は比較的容易だと思う」だそうでした。テッペンくんがホテルに戻っているはずなのでフロントに電話してつないでもらうと「今帰ったところですが」と運よくつかまり、「今マリアとお茶してるからおいでよ」と場所を説明して(「マンマ・ミーア」の看板左手に見て右、とか意味不明な案内)、しばらくしてテッペンくんがやってきた。4人でお茶を飲んだ後でパノラマオフィスに行きましょう、とマリアの職場訪問、さすがにあと3日残すばかりになってオフィスビルからは順次パンフレット類が撤去されていっている。時間も遅いので閑散としたオフィスに入り、「散らかってるけど…」とあまり見せたくなさそうなマリアには構わず彼女の働いている部屋に入り、なんかゴミが机上に散乱しているのを見て「これは同僚の」と弁明するマリア。


これ公開したら怒るかも、緑のコートがマリア

 そうだせっかく来たので、と映画祭のポスターもらえる?と聞くとマリアは「パノラマのポスターは5人分取ってあるので持ってくる」と丸めたポスターをくれ、「あと映画祭メインのももらえるかな?」と重ねておねだりすると「じゃ、準備しておく」と言ってくれた。更には懲りずに「カタログをもう一冊欲しいのだけど(香港J用)…」と言うと「オッケー、買うことは無いよ」とどこからか持ってきてくれた。ありがとう、しかし重い。一旦ビルの外へ出たものの、あれIDを忘れた、これがないと次から入れないとマリアはビルに戻り、その間僕らはエレベーターホールで巨大なベルリナーレくまのモニュメントの前で記念撮影など。マリアに「マティアスに借りている携帯から電話すると必ず何かのアナウンスが流れてからつながるんだけど、これ何かな?」とテストでマリアにかけてそれを聞いてもらうと「あ、何かプリペイドカードが無くなりかけています、ってことみたい」

 マリアと別れ、ホテルに戻ってしばし休憩、なのだが僕らは例の壊れた上映テープをどうしたらいいのかというミーティングを映画祭側とする必要があり、上映前に劇場に集合しなくてはならないのでした。こういうのでずいぶん時間を取られているような気がするなあ、と思いながらも仕方ないので僕とイマイズミコーイチだけ早めにCineStarへと向かう。チケット販売所のところからビルの地下に入ると、その先にいくつかの劇場があるのだが、手前でチケットチェックをされる。僕らはチケット持っていないのでゲストパスで入る。もしこれを無くしたらどうなるんだろう、と既に2回ほどあやうくカードがストラップから外れた経験のあるイマイズミコーイチはビビっている。一応金具に縛り付けておきましたけど。今日のインタビューを受けたバーの近辺には席が散乱、もとい散在しているのだが、早めに行ってみたらジョン・バダルがいた。テディ審査員プートリもいて、あと初対面のテディ審査員氏と3人でお茶をしているところのようでした。ちょっとまぜてもらって名刺交換をしたらその人はイスラエルの人でした。マドンナの映画はどう?などと聞かれてしまいましたが「う~、悪くはないよ」などとえらそうなことしか言えないので英語は難しい。


ホテルの朝食宣伝ポスターには「6倍違う、6倍うまい」と書いてあった

 22時になって今日の会議参加者が来始める。ユニジャパンのアイハラさんと、ソフィー、それと僕らのマティアス(今日の取材は撮影だって知ってた?と聞いたら実に屈託ない笑顔で「うん」と答えるのでこれ以上何かを言おうという気が失せる)、まずは僕らで「今後の方針」を話しあい、何を要求してったらいのかを決める。これにベルリン映画祭技術スタッフのアンドレ氏が来れば、というか、来ない。来ないことには始まらないのでソフィーに電話してもらうと何やら会話をしていたが、「アンドレさんは高熱でお休みだそうです(…)」さすがにアイハラさんがたまりかねて「何それ」と言い、「わざわざみんなが集まったのに肝心の責任者が来ないんじゃ意味が無いし、とにかく誰か担当者を出してもらって」とソフィーに言うと(本来は僕らが言わなくてはいけないセリフ)、彼女は映画祭電話帳の中から技術部の欄を探し、誰かに電話をしているようだった。「アンドレさんの部下の方が明日はずっとオフィスにいるので、時間を指定してくれれば必ずいるようにします、と言っています」ということなので明日16時に再び待ち合わせることにした。アイハラさん、すいません。

 そろそろ上映が始まる。テッペンくんも来たので上映責任者のスキンヘッド君(名前忘れた)と打ち合わせ、今日は開始が遅いので、上映後のQ&Aはナシでしょうか、という話になる。さっき会った時にマリアは「今日も通訳のマサヨさんが来る」と言っていたが姿が見えないので何かまた連絡違いがあったのかも知れない。いずれにせよこのくらいの上映時間ではQ&Aが無いのが普通だと言うし、挨拶くらいならまあ出来るであろう。とそこへアイハラさんがイマイさんという女性を紹介してくれ、「彼女は英語が出来るから、通訳をしてくれるそうですよ」と言ってくれた。すいませんお願いします。というわけで3人で上映前の挨拶をすることにした。壇上でそれぞれ簡単にご挨拶、で自分は通訳さんが居るのにもかかわらず最後にCD宣伝しなきゃ、と思い咄嗟に英語で「あの、サントラCD持ってきたので一枚10€ 」とか言ったらお客さんに笑われてしまいました。旅の恥は(以下略)。

 今回は映画を観ましょう、とステージから引き上げてきて席に着く。「携帯は切れ、撮影は禁止」という妙に大仰でかっこつけたジングルとベルリナーレのトレーラー(逆だったかも)に続いて本編開始…のはずなのだが始まらない、おいおい。しばらく気まずい沈黙が暗闇の中で続いたのち、場内は明るくなってしまって「少々お待ち下さい」のアナウンス、場内ざわつく。自分は慌てて入り口付近に行くと、さっきの責任者スキンヘッド氏が何やら舞台裏とこちらを行ったり来たりしている。何すか、と聞くが「テープが」と無駄に人を不安にさせるような言葉だけが断片的に耳に入って来るのみでこらこらこら。アイハラさんも出てきて「どゆこと?」とやんわり抗議してくれるがどうにも埒が明かない。自分は、これは癖なのだがちょっと間を持て余して顔を両手でごしごしこすった、とアイハラさんは自分が泣いてると思ったのか肩を抱いてくれ、そうこうしているうちに自分は本当に悲しい気持ちになってきてしまい、少しだけ涙が出た。スキンヘッド氏が慌てて近づいてきて「今確認をしている。どうか我々を信じて欲しい」と言うのですっかり半べその自分は「はい」と言い、しばらくしてようやく場内は再び暗くなって本編が始まった。あれ今、ハバカリロゴマークの箇所でノイズが入ったぞ。

 という気になる部分はあるものの、まあ止まりもせず上映は進んだ。今日に限らず、お客さんの反応はよい感じで、プレス試写兼のプレミア上映とは違って帰っていく人もそんなにはおらず(あれは心臓に悪い)、笑ってくれるところもあったし、自分たちはもちろん何度観たか知れない映画ではあるものの、うれしい。音も初回に比べて格段にいいし、これはコピーだそうだけれど、だとしたらやはりプレミア上映の時はイコライジング調整をしている余裕がなかったんかなぁ、と思う。上映終了後、さすがに遅いので帰って行ってしまう人も沢山いたけれど、所在なげに通路に立っている僕らに声を掛けていってくれるお客さんも多くて、照れくさいけどそれでも出来るだけ笑顔で「ありがとう。」さて気が付くとイマイズミコーイチはおじいさんに話しかけられ、なにやら熱心に口説かれているようだ。「どしたの」と聞いたらイマイさんが「彼はイギリス系フランス人の俳優で、パリに住んでいるそうです。映画がとても良かったので、パリに来たら食事をご馳走してあげますよ、と言っています」あらら。この人は自分に「そうだCDを買うよ」と1枚買ってくれたので今日も2枚売れた。彼は続けてイマイズミコーイチに「まず50本映画を撮りなさい、映画監督にとっては51本目が大事なのだ。だから君の51本目の映画には必ず私を出して欲しい。」あと47作品後への出演売り込みでした。この粋なじいさんは「いいかい?51本目だよ」と念を押して帰っていった。

 本日はこれにて全て終了、お疲れさまでしたありがとうございました、とアイハラさん&イマイさん共々隣のバーでビールを注文して乾杯する。トラブルって、終わらないのねとか実感しつつまた色んな方々に助けていただきました。無茶苦茶寒い路上に出て、アイハラさんとは「また明日(ホントにすいません)」、イマイさんとは「またどこかで(ロンドンで仕事をされている方とお伺いしましたが)」、僕らは歩いてホテルに戻った。


2008.0211 ベルリンへ
2008.0212 プレミアまで
2008.0212 プレミアから
2008.0213 オフ、撮影1件、被取材1件
2008.0214 上映二回目、Teddy Award
2008.0215 上映三回目、被取材1件
2008.0216 上映四回目
2008.0217 帰日