2008.0212, tue_Pt.1


 現地時間(日本ー8)に合わせた携帯電話のアラームで10時に起きるはずだったのが何故か眼が覚めたら午前5時、随分眠ったような気がするのに全然寝てないわ。もう一度ベッドに入るが、また7時に眼が覚めてしまう。仕方ないのでシャワーを浴びて着替え、一人で散歩に出掛けることにする。日は昇っているがとても寒い。寒いけど事前に聞かされていたほどでは無いので東京と同じくらいの服装でホテルを出、昨夜車で通ったポツダム広場を目指す。途中博物館があって、ここがおそらく同時開催のefm(European Film Market)会場、日本パビリオンもあるはずだ。あとでここへは一度来ないと。でもさすがにまだ開いていないので建物の横を通り抜け、街中ベルリナーレ及び映画のポスターで埋め尽くされているといった感のある通りを歩く。けっこう人はいる。広場にはどでかいロレアル(映画祭スポンサー)の特設美容院が鎮座しており、ここでメイキャップとか出来るらしいけど総ガラス張りのこんなところで髪を刈られるのはいやだ。ベルリンの壁の残骸やらソニーセンターやらを通り過ぎ、自分らの上映会場の場所も確認している間に体が冷えてきたので帰ることにしたのだが、来た道とは違う方向に鋭角の芝生ゾーンが見えたのでふらふらとそっちに行ってしまい、鳥を(カラスだと思うんだけど肩の所が黒くない)追っかけたりしているうちにますますホテルとずれた方に行ってしまい、さすがにマズいかなあとは思いつつでも面白いのでどんどん歩き、途中巨大なシーソーを見掛けたり、落書きだらけの団地を歩いたりビルの灰皿の所で勝手に煙草をふかしたりして、多分方向はこっちで合っていると思うんだけど…と既にパン屋が開店しているのが眼に入ったので店内を覗いてみたら水を売っている。ベルリンにはコンビニが無く(法律で深夜の商店営業が制限されているそう)、昨夜も「ちょっと水とかポテチとか」買いに行けなかったのだった。さすがに市内だから空港ほど兇悪な値段ではなかろう、と値段の付いていない1.5リットルのミネラルウォーターをカウンターに差し出すと1.25€ 、200円くらい。まあやっぱ高いけど仕方ないので水を抱えて先へ進む。ホテル近くの崩れた駅舎(旧アンハルター駅)が見えてきたので早足で部屋に戻った。


Guten Morgen, ロレアル(ドパリ)

 イマイズミコーイチは寝ぼけたままベッドに入っているが、「おはよう」と声を掛けると「ヘンな夢を見た」と言う。どんな、と聞くと「イワサくんが草原で立ったままニコニコうんこをしていると(行きの機内で観たミーアキャットのドキュメンタリー番組の影響がある模様)そこへトンボが飛んできて、イワサくんはそれをはっし、と掴まえるの。で、掴まえたのはいいんだけどそのままトンボに引きずられて『フヮァァァ~』とか言いながらどっかへ行っちゃった(どんだけでかいトンボか)」だそうでしたお疲れさまです。丁度自分が芝生で鳥を追っかけていた頃に見ていたとしたらシンクロニシティでしょうか。

 さて昨夜、フロントで宿泊費込みの朝食は6時半から10時までは食べられると確認していたので、ロビー隣のレストランに行くことにする。席についても誰もオーダー取りに来ないのでよく見たらバイキング式なのだった。プレートと皿が置いてあるところに行くとホテルの人が「部屋番号は?」と聞くので番号と名前を答えると手元の紙にチェックを入れ、これで取り放題らしかった。改めて観察してみるとかなり種類豊富な朝ご飯で、10種類以上のパンにハムやサラミがこれまた10種近く、チーズ、ヨーグルト、フルーツ、シリアル、スモークサーモンに卵、一度に全部は絶対食べられないくらいあるので嬉々として選び、惜しむらくは野菜がトマトと胡瓜のピクルスくらいしか無いことで、仕方がないのでハム類の皿に飾りのように添えられていたレタスを取る。お茶もたくさん種類があるので嬉しい。他の部屋の3人が降りてこないのでロビーから内線電話を掛け、起きてたら食べに来ませんかと誘ってみたらやがてぽつぽつと降りてきて、それぞれ好きなもんを取って食い出すがそれにしても美味しいなあ。26ある映画祭提携ホテルがどんなだか知らないけど、このホテルで正解かも。

 10時45分に迎えが来ますから、とソフィーが昨夜言っていたその迎えというのは僕らのディストリビューター香港のJが手配した「プレスコーディネーター」なのだが、元々Jが頼もうとしていた人が丁度休暇中で、更にその友人が担当することになりました、と名前だけ聞かされてどんな人だか全然知らず、事前に彼から「偶然ですがみなさんの滞在するホテルは僕の家からとても近いです」とメールが来てただけなのだった。部屋に戻ってうだうだしているとフロントから電話があり、「マティアスさんて人が来ています」だそうで僕らのプレスコーディネーター氏がお越しになったようだった。


ホテル近くの標識

 さてプレスコーディネーターとは何か。要はここで僕らに取材の申込があった時に彼を通してスケジュールやら何やらを手配してもらうのが彼の役割であって、別に僕らの全行動のマネージャーではない。ってもそんなに取材が殺到してるわけもなく、香港Jの元が事前に彼の元に届いたインタビュー依頼を元にある程度采配しているので、何処で会うとかそういった最終調整である。やってきたマティアスは、取りあえずでかい。人なつっこそうな顔ともしゃもしゃの髪型が自分の友人(フランス人)をどことなく連想させるので何となく親近感がわき、簡単な挨拶をしてから6人でホテルを出た。

 自分だけは今朝も歩いた道を通ってポツダム広場へ、そこに面した切り立つようなビルにマティアスを先頭に入っていき、「パスを下げてね」と言う。「フェスティバルスタッフオンリー」とか書いてある看板向かいのエレベーター乗り場から4階へ、ここがベルリン国際映画祭の事務所です、って1フロア全部、広すぎるわ。一番奥にある「パノラマ(『初戀』が上映されるセクション)」のオフィスに行くとスタッフが出迎えてくれる。残念ながら最初に会いたかったここのボス、ウィーランド・スペック氏は不在だったがまたの機会に。やがてソフィーが来て、同僚のゲストマネージャーを紹介してくれた。その彼女、マリアは実は僕らがベルリン国際映画祭への応募を準備している時にベルリンで開催される別の映画祭のスタッフとして「初戀」を応募しませんか、と言ってきてくれた人で、その時は近すぎる2つの映画祭に同時に応募するのは得策でない、という香港Jの判断によって断ってしまったのだが彼女は優しくて「問題ないです、ではベルリナーレ頑張ってくださいね」と返事をくれていたのだった。その後メールが来て、「実は私はベルリナーレで去年からゲストマネージャーとして働いています。日本からのゲストは私がアテンドするのですが、今年のプログラムを渡された時、『初戀』が選ばれたことを知りました。とても嬉しいです」と連絡してきてくれたのでかなりご縁のある人だなあ、と会うのを楽しみにしていたのである。眼前に現れたマリアはご両親のどちらか(聞くの忘れた)が日本人だそうで、黒い髪をした小柄で美しい女性でした。話しかけると眼を細めて笑顔になるのが大変よい。

 「ちょっと打ち合わせをしましょう」とマリア&ソフィーは空いている部屋(とにかく色んな部屋があるんである)に入り、あっ椅子が足りないですね、とか言いながら即席会議室を作り、僕ら5人とマティアス、マリア&ソフィーの8人で「今後いつ何処で何をするか」会議が始まった。僕らにとってはそんなことを事前に打ち合わせして決めなくてはいけない映画祭への参加など初めてではあるが、実際把握しておかないと困るのは自分たちなので、ガス入りミネラルウォーターなどを頂きつつスケジュール合わせ。マリアは「これが今日のプレミア上映の招待券、製作チーム割り当て分20枚です」と紙の束を取り出し、なんか妙に贅沢な紙質のチケットを見せてもらうが現地に呼びたい友人がいるわけもなく、誰に渡すかはお任せします、余ったら記念にちょ-だいね。その他は特に懸案事項も無いので会議はあっという間に終わり、フロアにある関係者用チケットセンターに行ってチケットの入手方法を教わる。当日と翌日のチケットに限って(かつ席が残っている場合)だが僕らは好きな映画の券を無料でもらえる。後は劇場に行ってチケットとゲストパス(転売防止策だと思う)を見せれば映画が観られる。時間は無いけど映画たくさん観たい。


設営

 繰り返すがマティアスはあくまでプレスコーディネーターなので、この先の僕らの面倒を見る義務はないのであるが、「両替したいんだけど、どこでしたらいいかな?」という質問に「じゃあフリードリヒシュトラーセにある両替所に行こう」と言ってくれて、薄曇りのベルリンを歩き出した。地図で見るとベルリンはいろんな所へ歩いて行けそうなのであるが、実際出てみるといちいち遠いの何の、多分日本人と縮尺の感覚が違う。だもんで現地の人が「徒歩可」と判断したエリアを歩くのが無難である。ポツダム広場をブランデンブルク門へ向かって歩くのも地下鉄一駅分だが、何しろ初めての街なので面白くて疲れない。それにしても結構信号守らないねえ誰も。

 途中進行方向右手に石のブロックがたくさん並んでいる一角を通りかかった。「何これ」とマティアスに聞くと「ユダヤ人のために作られたモニュメントだ」と言う。高さも大きさもバラバラ、床面も均等ではなく、石は石で人の背を上越すくらいのものもあれば腰掛けてしまいそうなくらいに低いものもある。迷路に見えなくもないけど…。何か引っ掛かっている自分を見てマティアスは「ちょっと見ていく?」と言ってくれたので5人はてんでんばらばらに散っていき、すぐに見えなくなった。家族連れが子供を遊ばせていたりする中を歩いているうち、自分はその、不思議と落書き一つ無い石の隙間に挟まれながら感覚が徐々に冷えていくのを感じていた。あの子供のように屈託なくはしゃぐには自分は中途半端に歴史を学んでしまったし、かといって10メートルほど先で石にもたれかかって涙を拭っている老婦人に掛ける言葉は、何語であっても持ち合わせていない。同行者に「泣いている人がいたよ」と告げても当然ながらはかばかしい返事は帰って来ず、少しの苛立ちの後で自分は気が重くなった。70年前の枢軸国民の孫の世代として今ここでドイツ人と連帯する程には思い切り良くもないし、逆に(根っ子は同じなのだが)「せんそうは、ぜったいいけないと、おもいました」などと作文するわけにもいかず、どうして自分はこんなにナイーヴなまま31年、と石の冷たさが掌から体に入ってきてしまう。情けないことに恐らくはこれが海外における初めてのカルチャーショック、人の記憶など全く信用しないという意思表示を2711本のブロックで見せつけられて、やたら脇腹に来る。待っていたマティアスにようよう口を開いて「墓石のようだね」などと言うのが精一杯の自分のおかしなテンションを察したのかどうなのか、彼はちょっと笑顔になって「ここで写真を撮ると面白いよ、みんなを撮ってあげる」と手持ちのカメラで5人を写してくれた。後で彼に送ってもらったその写真の中では、自分一人だけがどっちつかずな表情をしている。

 再び歩き出してブランデンブルク門へ差し掛かる。21年振りにここへ来た田口さんは「前来た時には壁があって抜けられなかったんだけど…」と呟いている。マティアスは「僕が物心付いた時にはもう壁はなかった」とか言うので君いくつ、と聞いたらまだ22、ヒロくんと同い歳かどええ。という事実(身長差とか)に 驚愕しつつ一応観光名所なのでしばしたたずむ。ここにかぎらず日本橋三越のオリジナルみたいな建物がそこかしこにあるが、こういうのを日本に移植しようとしても勝ち目ないわなあ。途中ロシア(旧ソ連)大使館のやたら豪奢な建物のマティアスが「ここでは夜な夜なデカダンスな催しがされていて」とホントか嘘か判らないことを言うが、しかし旧東ベルリン地区と言うこともあってここら一体をシめているようだった。


「これ何」「ガス管です」

 ウンター・デン・リンデンからフリードリヒシュトラーセに入る。ブランドショップとか高級店ばかりだが、巨大なバウムクーヘンの飾られたショウウィンドウ前でイマイズミコーイチが固まる。さ、先へ行きますよ。マティアスが「ここ」と示した両替屋はカウンターが2つしかない空間におっさん一人、手数料とかかかるので5人分まとめて一気に両替するのでかなりな金額(僕の月収くらい)になって手が震えます。あんま高額紙幣だと分けられないから細かいのでくれ、とか何だかんだ言っている僕らに両替屋のおっさんは苛立ってるみたいでどんどん顔が険しくなっていくが、自分は構わず「怒ってるの?」と日本語で聞いてみたりするしまつ。すいません。無事両替を終えて現在自分は大量の€ を持っております。レートは1€ =161円でした。なんでこんなに高いのか。

 「別の道で帰ろう」とマティアスは僕らを案内する。特に旧東側はまだまだ再開発中で、そこら中に空き地や建設中の土地がありやりたい放題である。遠くにさっき通った観覧車が見えるなあ。これから公共交通機関を使うなら割安な切符があるから買ってあげる、とマティアスはポツダム広場の駅へ、窓口で買った方がいいから、とカウンターのおばさんに聞いてくれている。イマイズミコーイチが「このおばさん、僕がイメージするドイツのおばさんそのもの」とか言うのだがどんなイメージだ。マティアスが切符のシステムを説明してくれるのだがどうも日本のと発想が違うようでなかなか理解出来ない。面倒くさくなって(おばさんも怒ってるみたいだし)いいよ、お任せするのでそれで買っちゃって、と丸投げするとマティアスは買った切符に「判りやすいようにメモを書いておく」と床に座り込んで切符の裏に(一人用:一日)とか書き出すが、たまたま通りかかった白髪の男性に「切符の裏に落書きしてはいけない」と注意されている。この人はどうも鉄道の職員らしいのだったが(さっきまで無表情だったカウンターのおばさんが満面の笑みで応対していたし)、マティアスが何か説明してくれたらしく「じゃ、いいけど」といった顔をして事務所に消えていった。既に3人のドイツ人を怒らせている私(達)、先が思いやられる。


efm会場

 マティアスとはここでお別れ、ありがとうまたね。僕らは近くにある「初戀」の上映館の一つ「cinemaxX」に入ってしばしポスターやらグッズを眺め、ついでにフリーの映画祭ポストカードを全種類もらい、その後ポツダム広場からホテルの途中にあるマーティン・グロピウス・バウという美術館に寄る。ここは普段貸し館専門で企画展とかやっているらしいのだが今の期間中はベルリン国際映画祭連動企画で「efm(European Film Market)」の会場となっている。要は映画祭の為に来た各国のバイヤーや配給会社の人が情報交換をする映画の見本市で、日本もパビリオンを出している。今回ベルリン国際映画祭に出品する映画に関してはまとめて取り扱います、ということなので事前に宣材を送っていたのだったが、まずは顔を出しておかないと。建物自体は1881年築の古いものだが内部は改装されてピカピカ。ゲストパスでIDチェックをされて中にはいると中央の広場にはバー&カフェカウンター、それを取り囲むように各国のブースが出ている。日本の会場は入り口からするとやや奥まった所にあって、行ってみたら日本でお世話になったユニジャパンの方々がいらした。どもども来ましたです。とかいい加減なご挨拶をしていると、「初戀」のスチールイメージ(ポスターがないので田口さんに出力してもらった)が「ヨコハマメリー」と上下で貼られていた。

 部屋の壁沿いにいくつかボックスがあって、それぞれに人がいたりいなかったりなのだが中央部にはテーブルと椅子があって適宜ミーティング用、あ、とイマイズミコーイチが言うので何でしょう、と聞くと「トニー・レインズがいる」と小声でささやく。するとユニジャパンのクボタさんが「ご紹介しましょうか?」と言ってくれたのではい、とご挨拶。イマイズミコーイチが「僕は前からあなたの映画評を読んでいて、いつかお会いしたいと思ってました」と言うとレインズ氏は大仰に驚いて見せ、「ホント?」とかおどける。ちょっと話をして「じゃあ、映画を観て下さいね」とお願いして最後に写真撮影でも、と立ち上がってイマイズミコーイチ+トニーレインズの写真の2枚目を撮ろうとした、瞬間トニーは仰向けに背後にあったテーブルの上に尻餅を(どうやってだ)ついてどんがらがっしゃん、と音がしたかと思うとテーブルは大破してしまったのだった。あ~あ、というか大丈夫ですか。若干涙目のレインズ氏は「大丈夫、だけど」と言いながらネジが6本飛んでしまったテーブルの板を台座に乗せ、「この4番テーブルは危険だから気を付けて使ってね」などと軽口を言いながら元いた席に戻った。何となく居づらくなったので僕らは帰ることにし、「お騒がせしました(ホントに)」と言ってefm会場を後にし、ホテルに戻った。


テーブル(本文参照)

 ホテルはホントに目と鼻の先、通りからも窓からも気球が見えるのでデカいアドバルーンだね、とか言っていたのだがあれにはどうやら乗れるらしい。ヒロくんが乗りたい(ただし値段次第)と言う。僕らの部屋でさっき両替した€ を分け、今日のプレミア上映までどうしようか、と相談、僕らはさっきのefm会場からの帰り際、なんかメガネを掛けた人がやってきて、「初戀」について話をしたいのだが申し訳ないことに今時間がない。後でここで会えるか?と聞いてきて、別にまた来てもいいよ、と4時に約束をしたのでそれに行く、ヒロくんと田口さんはでは例の気球を偵察してくるそうでテッペンくんは「髪切りに行きたい」と3チームに別れることとなった。今日は初回上映なのでハイアットホテルにある「ゴールデンベアー・ラウンジ」というところを上映前に使わせてくれるそうなのでした。さっきの打ち合わせの時にマリアが「まあ別に何があるという訳でもないのですけれど、一度きりですから行ってみてもいいんじゃないんでしょうか」とか言うのでそこに7時に集合ということにした。では解散、みなさんお気を付けて。

 僕らは部屋から電話をした。相手はインドネシアQ! Film Festivalディレクターのジョン・バダル。彼は以前ベルリンで審査員をしていたこともあって今回ここでの上映に少なからずサポートをしてくれた、というか彼と知り合っていなかったらおそらくベルリン国際映画祭に来ることなど無かったはずなのだがそんな大恩人かつ大好きな友達の彼からは事前に、もうベルリン入りしているから着いたら携帯に電話してね、とメールが来ていたのだった。掛けてみると運良くつながり、「会える?」と聞いたら「じゃ、6時にハイアットで」と約束をした。ホテルを出てまたefm会場に行くと、入り口のところでさっき約束した人がいて、「ああよかった会えないかと思いました、すいませんまた出なくてはいけません」とか言うので(忙しい人だ)じゃあ映画に関する問い合わせ先はここなんで、と香港Jの連絡先が記載されたチラシを渡して彼(ベルギーの人だそう)との打ち合わせは立ち話のまま5分で終わり、どうしようかこれで帰るのもねえ、と再び日本パビリオンに向かう。流石にトニー・レインズ氏はおらず(ついでに彼が壊したテーブルは撤去されていて妙に広くなってる)、ユニジャパンのクボタさんに「映画のことで話がしたい人が来てます」とまた別の人を紹介される。今度はアメリカの人だったが後でよく名刺を見てみたらグレッグ・アラキの「LIVING END」を配給している会社の人でした。

 さて一応用事は終わり、帰ろうかねえと言っていたらテーブルに見覚えのある日本人女性が座っているのが眼に入った。イメージフォーラムのトミヤマさんだ…、詳しい経緯を省くと僕らは以前一度だけイメフォのオフィスで直々にすき焼きを作っていただいたことがあり、つうかその一回しかお会いしてないので果たしてご記憶か判らないものの、でもここでお見かけしたのにはなんか理由があるのでしょう、とクボタさんにご紹介いただき、すき焼き一点突破でご挨拶をしてみました。するとおぼろげながら憶えておられたようで「ああ、あの時もなんで居るのかと思ったけど、なんでここに居るの」と仰るので映画が上映される事になりまして、と説明したら「よかったじゃない」と笑ってくれた。しばし楽しく(この人は驚異的に話が面白い)お話しして、「あんたたちこのあとヒマ、時間ある? あたしは次の上映まで時間あるからさ、コーヒーおごったげるわよ」と席を立つのでぼくらはよちよちついていく。ポツダム広場まで歩き、ソニーセンターという(「初戀」のもう一つの上映館であるCineStarというシネコンも入っている)でかい建物に向かう。途中「あ、」と声がしてトミヤマさんは日本人女性2人と話をしているがユニジャパンのアイハラさんとセヤさんでした。お2人にも出発前にお世話になっていたのだが自分は電話のみでお会いしたことがなかったので一応名刺を出してご挨拶。お世話様でございます。


ベルリンの「富士山」を内側から見る

 ソニーセンターの中央部にはドーム状の屋根が掛けてあって、これは開閉式なので中央広場はテント状態、若干寒いがオープンエアの喫茶店もある。「朝からもう5本も観て頭がおかしくなってるの、だからここがいい。通る人を眺めているのが一番面白い」とトミヤマさんは外の椅子に座り、「ミルクコーヒーがいいな、カプチーノ!」とオーダーしてくれ、3人で煙草をふかしながらまたトミヤマさんのお話を伺う。オープニング作品(ストーンズのドキュメンタリー映画)がいかに良かったかを語るトミヤマさんがまた面白くて、僕らはただただ笑い転げていたのだったが、通る人に知り合いが多いらしく「どうも~」とか色んな人と挨拶をしている。そんな感じでまた若い男性が来、トミヤマさんは僕らに「この人は東京国際映画祭の…」とか紹介して彼も日本語で「初めまして」とか言うので日本人かと思ったら韓国の方でしかもプチョン国際ファンタスティック映画祭の人でした。「あ、間違えた」とか豪快に笑うトミオカさん。ははは。でも待てよ、プチョンと言うことは…と「もしかしてパク・ジンはご存じですか?」と聞くと彼は一瞬あっ、という顔をしたかと思うと慌てて「まだここにいらっしゃいます?じゃ、3分待ってください」とどこかへ駆けだして行ってしまったので何だろう、みんな忙しそうだねえなどと話し合っているとやがてソウルLGBT映画祭ディレクターのパク・ジン氏がいきなりやってきたどええ。キャー、である。彼は去年ソウルでの上映の際にすごくお世話になり、かつとても映画についていい事を言ってくれた人なので会いたかったのだが、すごく忙しい人なので全然連絡が取れていなかったのだった。居ても不思議ではないけれど会えると思っていなかったのですごく嬉しい。さわぐ僕らを面白そうに見ていたトミヤマさんに「ありがとうございます会いたかった人にここで再会できました」と言うと笑って、「そう、あとは誰に会いたい?」と。すごいひとだ。

 小一時間ほどそこにいただろうか、トミヤマさんは「あたしはこれから中国の映画を見に行くわ、あんたたちはどうすんの」と言うので「ハイアットで友達に会います」と言うと「じゃ、出ようか」と会計をしてくれ(ごちそうさまでしたカプチーノうまかったっす)、「あんたたちの映画は見られないかも知れないけど、そしたらDVD送っといて、ウチの劇場にも来るんだよ、映画なんて観てないんだろうおまえ」などと自分たちに軽くジャブを浴びせつつ「ハイアットはあそこを曲がってすぐだから、迷わないで行くんだよ」と教えてくれ、「じゃあね」と角を曲がって見えなくなった。ありがとうございました。いや~面白かった。

 だがこのままハイアットに行くわけにはいかないのでまたしてもホテルに戻る。ジョンに再度連絡してごめん約束を15分遅らせてもらえる?とお願いして着替え、イマイズミコーイチは日本で買ったスカジャンを着込んで「これで出る」と言う。勢い余って2着買ってしまったので自分も金魚柄のを借りて鏡の前で並んでみたらジャストチンピラ、なかなか良い。大急ぎで支度を済ませてまたポツダム広場へ、これで何往復目だろ。ハイアットに時間丁度で着いて、ロビーでジョンを待つ。まだ来ていないのでゴールデンベアー・ラウンジってのはここか、と階上を確認したりしているとジョン・バダルがやってきた。「やっと来たよー」と抱き合って、いろいろありがとうのご挨拶。「ちょっと何か飲みに行こうか」というのではい、とジョンに付いていく。途中チケッティングセンター(一般客用)を通って「初戀」の売れ行きなどを見てみるが本日は完売、他の日はまだお席に余裕がございます、という事のようだった。


Cinestar入り口、とりあえずでかい

 入ったカフェ&バーは薄暗くてメニューもよく読めないが自分はグァバジュース、イマイズミコーイチはピーチジュース(一口飲んでまんま不二家のネクターだよこれ、と言っていた)、ジョンお茶という健康的なオーダー、落ち着いてからやでやで、と彼がインドネシアのバンドンで今月やるサテライト映画祭の話などをして、そこで「初戀」をオープニング作品として上映してくれるというのでDVDを渡し、さてそろそろ行かないと、とお会計をしにカウンターに行ったら「過労死」とか書いてある店の名刺があってここはカロウシという名のバーでしたよ、ひどい名前だ。店の人にチラシを指さして「なんだこのネーミング」と言ったら「あなた何人?」と聞いてくるので「ヤパーナー(日本人)」と言ったら笑ってました。ジョンが「何て意味?」と聞くので「オーヴァーワークのせいで死ぬこと」と説明したらやっぱり大笑いしてました。

[続く]


2008.0211 ベルリンへ
2008.0212 プレミアまで
2008.0212 プレミアから
2008.0213 オフ、撮影1件、被取材1件
2008.0214 上映二回目、Teddy Award
2008.0215 上映三回目、被取材1件
2008.0216 上映四回目
2008.0217 帰日