2008.0216, sat

 朝飯を食う。美味しいのだけれど毎日パン+ハムだとさすがにちょっと飽きるわなあ、と言うわけで今日はシリアルを多めにどかどかフルーツを食べる。が結局食べ足りなくてパンが皿に山盛りされることになる。朝からこんなに食べる日々つうのも久しぶりだ。これが健康的なのかどうかはあやしい。


車体にらくがき

 今日は電車にたくさん乗りそうな気がするので一日乗車券を買ってみよう。ホテル最寄りのアンハルター・バーンホフ駅からポツダム広場までは一駅なのでこれまでずっと歩いてきたのだが、寒いし結構めんどくさいし、電車に乗るといいよ、と田口さんが言っていたのを思い出し乗ってみたらこれが快適。…だったのだが券を買うまでがひと騒動、というのもここのはいつも切符を買っていたポツダム広場駅の券売機と違う画面なのでよく判らず、押せば押すほど「70€ 」とかになってしまう。見かねて先に切符を買っていた女の人が買い方を教えてくれた。ありがとう。

 その田口さんが「土日まで居られるなら是非覗いてごらん」と言っていた蚤の市へ。ガイドブックにあった一番でかいヤツに行こうとフリードリヒシュトラーセ駅で乗り換え、あ~見えたあれだ、とティエルガルテン駅で下車。と思ったらドアを開けるのに失敗し一駅向こうのツォー駅へ行ってしまい、ぶうぶう言いながら戻ってきた。駅を出るともうすぐそこに市が出ており、でかいもの(家具とか。どうやって持ってきたんだか)から小さいもの(ピンバッヂとか)まで、ありとあらゆるもの…と言いたいところだがさすがに何でもあるわけではなくて重に古着や中古の食器や旧共産圏グッズである。ドアノブだけ屋さんとかは壮観でしたが買うわけにもいかないので眺めるだけ。服も古着に混じって新品もあり、そっちのほうが惹かれるなあ…とイマイズミコーイチは迷うものの、いや、冷静に考えたらこれは高いよ、と踏みとどまり、ともかくおもくそ寒いので広場みたいな所で日に当たってなんとか体温を上げてから、自分はさっきのバッヂ買いたい、と店に戻って2つ選び、1個1€ でした。


ゴミなのか、商品なのか

 駅のホームに行くと、屋外になっている部分は道路と交差しているのだが、その先に例の「ベルリン・天使の詩」の戦勝記念塔(ジーゲスゾイレ)が見える。見える、ったって遠くに見えるだけだがまあこれでよかろ。再び電車に乗ってフリードリヒシュトラーセ駅でまた乗り換えるのだが、自分はちょっと本屋に行きたいので、昨夜マリアに聞いて大きな書店があるというこの駅で降りてみることにした。大通りに出てしばらく歩くとまず本屋があったが、そこはアートブックのみらしく自分の目的とはちょっと違う。もう少し先へ行くとやがてマリアが言っていた「紀伊国屋みたいな」でかい書店が見えてきた。DVD/CDショップも兼ねているようなのでイマイズミコーイチをDVD売り場に残し、自分は3階に向かった。海外へ行った時にはそこの地図(現地語版)を買うことをルールにしているのだが、さすがいろいろ細かいのがある。でも大概ロードマップなので、なるべくそうではないヤツを、と探す。やっと決めて(どうしても蛇腹式のになってしまう)買おうと思ったらレジが無く、聞いてみると1階で集中会計のようなのでした。イマイズミコーイチに声を掛けてレジでお金を払い、あんまり時間が無いので帰りましょう。フリードリヒシュトラーセ駅構内にはフィッシュ&チップスの店があってすげえうまそうなのでイマイズミコーイチがサンドイッチともども買う。「ソースは?」と聞かれて「ガーリック」しか聞き取れなかったのでガーリック。魚に芋で油でニンニクである。

 ポツダム広場に戻る。パノラマオフィスでマリアに会い、今日はホントに技術スタッフと打ち合わせでしょうね、の約束をして別れ、映画祭グッズを香港Jにあげたいのでどこで買えるのか、と思ったが既に何か買ったというテッペンくんに「CinemaxXで売ってた」と聞いて行ったらCinemaxXには無く(サンプル展示はある)、どこにあるか窓口で聞いてみたら「そこを出て左に曲がって…」と言われる。さて行こうか、と思ったらアジア系の人がドイツ語で話しかけてきて自分の携帯に来たメールを見せ「ここに行くにはどうしたらいいのか?」と言う(たぶん)。メールには「Cinestar」とか書いてあるのでじゃあそこじゃん、と道に出て指し示すとその男性は「ダンケ」とあくまでドイツ語でお礼を言ってCinestarへと向かっていった。自分が「英語で」教えたのは通じたと思ったんだけど何だろう、ドイツ語圏の人に見えたんだろうか。さてCinemaxXのお姉さんが教えてくれた「そこを出て左に曲がって…」をいい加減に聞いていたために自分は道が判らなくなり、その辺りを一周してしまうが見つからない。イマイズミコーイチが「こっちじゃない?」と指差した建物は以前入った一般用チケット売り場があるところ、その奥にグッズ売り場はあってよかった。買うものは決めていたのだが一部売り切れが出ており、いくつか諦めて香港J&Hにはカバン(僕らがもらったのと同じもの)とテディぬいぐるみを買うことにした。Jはクマ好きなのでちょうどいいかな、というよりやはり来れば良かったのに。イマイズミコーイチはちょっと迷って「Berlinale」とロゴが入った青いジャージを買っていた。スポンサーのHUGO BOSS製なのでちょっと高いのですが。


べるりんぐま

 ホテルに戻って(また一駅を電車に乗る)シャワーを浴びて、再びポツダム広場へ(そしてまた一駅を電車で行く)。待ち合わせは16時にCineStarの券売所の辺りで、丁度時間通りだなあ、とカウンターに山積みになっているフリーペーパーを漁る。「ヴァラエティ」とかも日刊フリーぺーパーを出していたり、かなり力が入っているが自分たちの作品が紹介されているものは無し。「母べえ」が表紙なのはありましたけどね。アイハラさんもマリアも見えないねえ、と思っていたら携帯が鳴り、「あ、今どちらですか?」とアイハラさんからだ。はい、僕らが待ち合わせ場所を間違えてます。CineStarじゃなくてCinemaxXでした。急いでマリアに連絡すると「今CinemaxXの近辺まで来てます」ということで急いで向かう。ひー。劇場前で2人に会えて、すいません僕ら、そろそろヨーロッパが脊髄に来てます。そしてこのすぐ近くのベルリナーレフィルムコーディネートオフィスに行かなくてはならないが、ややちこく。

 CinemaxXのすぐ近くにあるビルの一階にマリアは入っていく。エレベータの前には守衛役なのか男性が一人、本と食べ物とペットボトルなどをその辺に置いて待機しており、マリアが彼に何か言うと僕らを通してくれた。エレベータで上がってどこかな、と奥の方に行くと突き当たりに機材が山積みにされたエリアと膨大なテープとディスクを収納したエリアに分かれた部屋に着いた、ここらしい。昨日ソフィーが電話で約束をしてくれた女性は左手のデスクにいた、と思ったらとても小さな犬がちょろちょろしている。彼女の飼い犬らしい。ちょっと緊張しているようで、近づいたら「う~」と唸られてしまった。まず挨拶と自己紹介をして彼女、ターニアに状況を確認する。マリアが通訳をしてくれ、途中自分でも英語で話しつつ、次第に誰がどこまで話を理解しているのかがあやふやになりつつも何とかプレミアの日に何があったのか、が判ってきた。

 最初にテープが届いてテストをした時、オリジナルのBeta SPテープに問題は見つかりませんでした。ところがプレミア上映の日、その1時間前に最終チェックをしていたときに、デッキの中でテープが止まってしまったのです。そのデッキもこれまでそのようなトラブルを起こしたことが無かったので私たちも慌てました。原因がデッキなのかテープなのかはともかく、このテープを今後使いつづけることは危険だと判断したので、あの日あなた方に「バックアップはあるか」と聞いたのです。テープが物理的に破損したわけではないので、私たちはプレミア時の一度だけこれで上映し、同時にMPEG-IMXフォーマットでダビングもすることにしました。万が一の事態を考えてDVDをお借りし、もしオリジナルが止まった場合に備えましたが、幸いDVDを使うことはありませんでした。2回目以降はそのMPEG-IMXテープで上映しています。

 プレミア時の画質・音質はあまり良くなかったのでDVDを使ったのかと思っていたのだがそうではなかった事が判明する。これはこれでショックではある。コピーの方が上映品質がいいという事ってありますか、と聞いたら「場合によっては」ということでダブルショック。

 「初戀」のプレミアはDVDで行われた、と報道されてしまったときには私たちもショックでした。DVDは使ってないのに!トラブル発生時、そこにあまりにも多くの人が介在したせいで、正しい情報が劇場や、制作者であるあなたがたにさえきちんと伝わらなかったのです。例えトラブルであっても、著作権の問題があるので私たちはできるだけコピーを取りたくないのですが、今回は非常事態だったのでそうするほかはありませんでした。予算があまり潤沢ではない自主制作の作家にとって、上映テープが一本しかなく、そしてそれが彼らにとってどれだけ大切なものなのかということを私たちはよく知っています(逆にいつだったか日本の学生が送ってきた短編作品は同じ作品に6本もバックアップが取ってあって意味不明でしたけれど)。今回の事は不幸な出来事でしたが、このようにするしかなかったのです。

 ここでスタッフの男性が陽気な感じで入ってきて、「台湾土産のお菓子があるよ、食べない?」とか言いながらお皿に4等分した大福みたいなものを持って入ってきた。いただいてみましたが餡も餅も日本の大福そのものですけど本当に台湾ですか。僕らはずっと立ったまま話しているのでちょっと疲れてきた。アイハラさんが「この犬の名前はなんていうのですか」とターニアに聞くと「"蚤"、ちっちゃいから」とのお返事。「普段はあまり人がいないのでいいのですが、この時期はいろいろな人間が入れ替わり立ち替り来るのでちょっとストレスを感じるようです」"蚤"は女の子で、しかもけっこういい歳のようでした。

 オリジナルをここでチェックできますけど見たいですか、と言われたのでお願いして反対側の、デッキが山積みになっているエリアで再生チェックをしてもらう。テクニカルの男性が再生してくれるたのだが、昨日の上映で気付いたロゴマーク部分でのクラッチノイズみたいなのはやはりオリジナルにも入っている。「テープがスタックした(止まった)」箇所も多分これでしょう。じゃあやはりこれはここで出来たものということになる。カセットを開けてテープを確認するが、目に見える傷はない。「マスターから、ここでBeta SPテープを作ることはできますよ」と言うことにはなったので、日本に帰ってから継続協議ということになった。

 ターニアは、というかこちらの人は日本人(わし)のようにやたら謝ったりはしないのだがそれでも「せっかく来られたのにテープトラブルで時間を浪費されているのはお気の毒です」とは言ってくれるので自分は「ま、仕方ないです。でもこんなことでもなければベルリン映画祭フィルムコーディネートセクションになんて入れなかったでしょうし」と正直な感想を言うと彼女は笑って「じゃあ、他もお見せしましょう」と案内してくれた。階段を下りてまず「ここがフィルムのチェックをするところで」でかい機械が並んでいる。脇の棚には缶に入ったフィルムが渦高く積んである。「可燃性フィルムもあるので、とても敏感な火災報知機が付いています」とのことでした。フィルムの棚を抜けて、なぜか小さい子供含む一家が遊んでいる(ように見える)ところを通ったので彼らに挨拶をして、次に案内された部屋の壁にはカタログのコピーをつなぎ合わせた上映作品一覧表が貼ってあってものすごい作品数である。「-がまだ上映が終わっていない作品です。終わると縦棒を書き足して+にします」アイハラさんが「こんな膨大な作品を扱うのは神経を使うでしょうね」と言うとターニアは「本当に」と笑った。ふと対角の壁に麒麟の発泡酒「淡麗」のケースダンボールが貼ってあるので何でこれを展示してるんですか、と聞くと「世界中からいろいろな梱包材で届きます。カッコいいのは取っておいて飾るんです」だそうで誰だろうなあブルーの淡麗で梱包した日本人は。さすがに写真を撮るのは憚られたので記憶のみですが、とても良い社会科見学ではありました。これでトラブルさえなきゃね。


ベルリン富士そのに

 スタッフのみなさんにご挨拶をして辞去し、僕らは(立ち会うのが)最後の上映となる。会場はCinestar3、テッペンくんも来たので昨日と同じスキンヘッドの司会者氏を交えて打ち合わせ。今日は最初に監督挨拶、終映後にQ&Aである。司会者氏が「みなさんの席を用意してあります」と言ってくれるが今日は見ないでQ&Aに間に合うように帰ってくる、と告げた。あ、ウィーランド・スペックだ。ウィーランドは僕らを見つけると「やあ」とか言いながら近づいてきてちょっとだけ話をする。イマイズミコーイチは以前からウィーランドに「初戀」のレビューを書いてもらいたいと言っていて、「今しかない、行け」ということなので2人してすいませんお忙しい所、とお願いしてみる。ウィーランドは「この作品を選んだ理由について何か言葉で言うことはできない。私はこの映画を選んだ、それ以上でもそれ以下でもない。ただもしレビューが必要なら、私が書いたものを転載してくれても…」とここでウィーランドは"Berlinale Journal"という簡易版映画祭ガイドブックに自分書いたパノラマ作品紹介記文に目を通し、「ああ、概要紹介しか書いてないね、判った書くよ」とイマイズミコーイチが渡した名刺にメモを書き、約束をしてくれた。いつになるか判らないけれど、ウィーランドの評を読める日が来るといいと思う。テッペンくんとも交代でウィーランドと写真を撮ってもらい、多分これでお別れだろうけど、きっとそんな事を気にしてるほどヒマではないだろうと思って普通に「じゃ、また」。

 客入れ終了。いつものようにイマイズミコーイチのみ挨拶をして、今日は問題なく映画が始まった事を(ロゴマークの傷はそのまんまだけど)確認して僕ら3人は劇場を出た。今日で最後だからね、なんかミーハーにドイツ料理を食おう、とマリアに聞いておいたソニーセンター内の店「リンデンブラウ」に入る。ガイドブックにも載っている店だけあって各国語のメニューがあり、日本語のもあるのだが日本語だけだと却って何なのか判らない料理もあり、じゃあソーセージとジャガイモのスープとパンにバターに…と頼んで、最初にビールを頼んだら500mlのグラス、でかい。 これまでの行った所とは違って何を食べたいという欲求が無かったので気づけば適当なものを食べて(あるいは食べずに)過ごしていたが、今日は6日分食ったという気がする。最後になってもアイスバイン(豚スネ肉を塩と香料で漬け込みボイルしたもの)が来ず、結構お腹一杯になってしまったのでキャンセルしちゃってもいいね、と「あの、まだアイスバインが来ないんですけど…」まで言いかけたところで「そうですか、すぐ確認します」と言われてしまい、そして出てきてしまった。ごついです。そしてひたすら肉とコラーゲンでした。ビールも残さず飲んだらちょっとギブアップしてきました。

 かなり足取りがまずい感じ(このまま寝たい)なのですが、大したことない距離を肩で息をしながら劇場に戻り、通訳マサヨさんによろしくお願いしますをしてQ&A、正直よく憶えてません。これまでと同じように司会者とかなり喋っていたような気がします。CDの宣伝だけは根性でして2枚売れ、そしてソフィーが「父親にプレゼントする(今夜はご両親が観に来てくれたのだ)」と1枚買ってくれた。今日までありがとうのスキンヘッド司会者君と記念写真を撮って今日は時間が早いのでホテルに戻る途中ポツダム広場駅に通じる回転ドアのところで、観てくれたらしい男女混成集団に日本語混じりで話しかけられて「映画、良かったよ」と言ってくれた。部屋でちょっとだけ寝て、アルコールが抜け…はしないのだが多少マシになったところでもっかいCinestarへ、グレッグ・アラキの「The Living End」リマスター&リミックス版を観るのだ。これが撮られてからもう15年も経つのか、というのが正直なところだけど、この中途半端なタイムラグを全く気にさせない世界(総じて埃っぽい)が広がっているのだった。自分に関して言えばやっと観られて良かった。

 終わってとてものどが渇いたので、オレンジジュースが飲みたい、と向かいのバーで注文したらいきなりオレンジを搾り出してしまい、しかもバーテンは新入りらしくその圧搾がうまくいっていない。でも静かに混乱した末にやっと出てきたオレンジジュースの旨かったこと。会計も新入りはよく判ってなくて妙に待たされたが旨いからいいや。とそこへ昨日の「51本目」のおじいさんが通りかかった。「ベルリンにはいつまでいるんだ」と聞くので「明日の朝に帰る」と言ったら「そうか、楽しかったか?遊んだか?たくさんセックスしたか?わはははは」と言われて僕らはそのどれにもへなへなと返事をしつつ、じいさんは豪快に立ち去っていった。


おまけ;フリードリヒシュトラーセ駅構内の果物屋で

 最後の帰り道は歩いて行こうか、寒いけどこれでおしまいだし。映画祭も明日まで、僕らは最後の上映と映画祭のフィナーレを見届けることが出来ない。仕方ないけど、全日程普通に居られるようになるのは、あるとしてもまだまだ先。ホテルに着くと実は隣のホテルに泊まっている(同系列で建物も外側はつながっている)アイハラさん達がお出かけになるところで、「これからリンデンブラウで食事なんです」あ~僕らはさっき行きました。いろいろありがとうございました、また日本で。


2008.0211 ベルリンへ
2008.0212 プレミアまで
2008.0212 プレミアから
2008.0213 オフ、撮影1件、被取材1件
2008.0214 上映二回目、Teddy Award
2008.0215 上映三回目、被取材1件
2008.0216 上映四回目
2008.0217 帰日