2023.0923 星期六

 今日は3時から短編プログラムを観て夜は映画祭のクロージングなので朝はゆっくり、というかいつもゆっくりだけど起きて時間的には昼飯を食べに行く。今日も雲呑麺屋「麥文記麵家」で、と思って行ったら今日は土曜日だからか前回よりかなり人が並んでいる。それでも諦めるほど長くは待たずに入れて、今日は壁に固定されたテーブル席の方に案内されたのだけど向かいに座っている男女が頼んだ料理の麺をほぼ残して立ち去っていったので何てもったいないことを、と貧困国から来た旅行者は慨嘆する。逆に何を食ったのか?と聞きたいレベルの食べ残しであった。自分らは前回と全く同じ雲呑麺+野菜、やっぱりうまい。店を出て今日は寄ることにした隣の「澳洲牛奶公司」の方が更に混んでいて、隣3軒先くらいまで列が延びている。店の人が「1名の人!」「2名の人!」と空いた席数に応じて呼び込むので人数が多いグループほど飛ばされる。しかし呼び込みの店員さんは軍隊の上官みたいな感じで空席を指さして「そこに座れ!」的な接客なので繁盛店じゃなかったらクレームの嵐で潰れるであろう(後でレイにこの店の話をしたら「あそこ接客最悪でしょ?」と笑っていた)。でも牛乳プリンは相変わらず旨い。向かいに相席で座っている学生っぽい男性2人はランチなのか、スープに入ったマカロニにハムが乗ってるのとトースト、という何度見ても不思議な香港定番メニュー(火腿通粉)を食べている。どなたかが「あれは香港人がマカロニを原料に粥を作ったものなのだ」と書いておられたが、そう考えると添えられたトーストは油條(揚げパン)に相当するのかも知れない。自分らが食べ終わって会計をしようと店員を呼んだら「何を頼んだ?」と聞くのだけど英語では通じなくて(そしてオーダー票も何も置かれてないので)押し問答をしていると、その前の2人組が口添えしてくれたので何とか会計メモを書いてもらうことが出来ました。ありがとう、しかしこんな雑でいいのかこの店。
 

雲呑麺と牛乳プリン

 次の映画まではまだ時間がある。自分は尖沙咀にあるマークス&スペンサーに寄りたい、距離的には歩いていけなくもないのだけどこの気温の中を歩いていくのは止めたほうがいいので電車で一駅を乗る。着いたのはまたしても駅直結のショッピングモールなので標識を見てもどっちがどっちだか判らなくなり、案内席に行って聞いてみると「ワンフロア下です」でやっぱり登りすぎている。特にM&Sファンというわけではないのだけど、自分は『赤と白とロイヤルブルー』を読んでからというものジャファケーキを食べてみたくなっていて、マクビティのものが定番だそうなのだけどそれはwellcomeにも見当たらず、あとはマークス&スペンサーが自社ブランドで作ってるやつなら買えるかも知れない、と思ったら幸いこの店に置いてあった。ただし英国の本社通販サイトに記載の価格からすると3倍くらいの値段であるが、もうこれを買って帰ることにする。付き合ってくれたイマイズミコーイチも何故か「ぼくも買おう」と言い出して違うお菓子まで購入していた。ちなみにイマイズミコーイチの持っていた「ものすごい古いオクトパスカード」は無事に駅で払い戻しできて残高は現金で戻って来たのですが、たぶんこのお菓子の代金合計より少ないくらいなものでした。

 3時からの映画館「百老匯電影中心」はいま来たのと逆方向なので電車で宿の方向に戻って一駅先の油麻地、ここから映画館までは地上を歩く。大した距離ではないのだけど暑いのでいきなりへばる。文句を言いつつ駅直結のモールはこういう場合、移動中も涼しいのがよいところだな。このブロードウェイ・シネマテークは2000年の香港レズビアン&ゲイ映画祭で自分らが初めて海外で映画を上映した時の会場であるのだけど道順は全然憶えてないねえ、ちょっと分かりづらい場所だったのは記憶に近いかも。あの頃からおそらく改装されていると思うのだけど、食堂やブックストア(新品と古本混在)などができている。ここでもチケットはスタンの名前を出して予め聞いていた席番号を伝えたら大して揉めずに入手できて、あとは開場まで待つだけになる。外は暑いので(柱に『エゴイスト』のポスターが貼ってあった)ブックショップで時間を潰す。今日観るのは短編プログラム「International Queer Shorts: To My Family」。開場して入るとMCはリリアンだ。2017年に会った時にとても良くしてくれたのだけど、今回は映画祭のフタッフにまだほとんど会えていない。というのもこの映画祭、期間は15日間と長いのだが上映は土日に集中しており、平日は夜に1〜2つくらいしかない。自分の上映日を含む一週間程度でスケジュールを組んだら主要な上映はあらかた終わってしまっていて、そもそも映画祭に行く機会がそれほどないのでした。プログラム自体はサンフランシスコでやったのと被っている作品も多かったので、今回はあまり映画漬けではない海外滞在。この短編集の中で良かったのはオーストラリア映画『Marungka Tjalatjunu (Dipped in Black)』。クィアであり、先住民でもある共同監督、Derik Lynch主演のドキュフィクション作品で、今年のベルリナーレで最優秀短編賞、かつテディアワードでも短編賞も取っている。

 

Marungka Tjalatjunu (Dipped In Black) / Trailer

 

 劇場にはこの監督も含めてゲストが来ていて、上映後にトークセッションもあるのだったのだけど、英語のトークはちとキツいので失礼して劇場を出る。スタンからこの後に「クロージングセレモニーがあるので、6時半までにエレメンツに来て欲しい」と言われていた。半端に時間が空いているので自分だけ宿に戻り、イマイズミコーイチは途中の甘味屋でマンゴープリンを食べていくことにする。部屋に戻ると排水栓は直っておらず、オーナーはいつ来るんだか判らないが自分はさっきのジャファケーキを冷蔵庫にしまい、一応ゲストなので多少ちゃんとした服に着替えて顔を洗ってから部屋を出て、イマイズミコーイチが入った店に向かう。ちょうど食べ終わって出てきたところで合流し、いつも乗るバスでエレメントに向かう。映画館の入口付近が仕切ってあって映画祭のパネルが立ててあるのでそこでセレモニーをやるのかな。スタンの顔が見えたので手を振ると「入ってきて」とジェスチャーで言われる。「写真撮影があるから、この辺にいてもらえるかな?」了解です。と後ろから2人まとめてガッ、と肩を掴まれる。誰やお前、と顔を見ると映画祭ディレクターのジョー・ラムだ。おおこの期に及んでやっと会えた。まあ映画祭最終盤に来る自分らが悪いんですけれども。

 セレモニー始まる。初めて顔を見る若い男性スタッフ?が司会をしている。各種アワードの授賞式があってメインスタッフの紹介、と続いて自分も写真撮っておこうか、と携帯を取り出したら明日会う予定のジョナサンからメッセージが来ていた。「今日のクロージング作品を観る予定なのでエレメントに行きます」自分らはこの後のディナーの方に行くので映画は観ないんだけど…と会場の外に目をやると当のジョナサンがとことこ歩いているではないか。自分は駆け出して彼に追いついて引き止めてからイマイズミコーイチを呼んできて戻り、ああ一足早く会えちゃった、どもどもども、と慌ただしく話し、とかやっていたら映画祭のスタッフが自分らを呼びに来て「集合写真撮るので戻ってください」とのこと。あああじゃあまたね、と仕切りの中に戻る。イマイズミコーイチが「ジョナサンがちょっと泣いちゃって、何だかもう」と呟いて本当にもう何だか…。すいませんすいません、下っ端ゲストが進行を遅らせておりますと列の端っこに紛れ込んで、カメラマンが複数いるのでどの方向に目線を向けたらいいのか判らないまま集合写真撮影会は終わり、その後は自分らが三々五々写真を撮って遊んでいると、さっきの公式カメラマンもまた写真を撮りだすので結構エンドレス。


明らかに自分とイマイズミコーイチだけ別のカメラの方を向いている

 そして体が空いた人からディナー会場のレストラン(同じモール内)に向かうのだが、なかなかまとまらないので自分はレイ&スタンと一緒にたらたら歩きだす。最後まで聞かなかったけどこの2人はカップルなのかも知れない。スタンと映画祭で観た映画の感想を話したりしていた自分らは「Prince Restaurant(王子飯店)」という名のレストランに入っていく。かなり広い店内はお客でいっぱいで騒がしいな…と思っていたら自分らの予約席はもっと奥の静かなところでした。席がレイの隣になったのでこの際いろいろ聞いてみよう、と「香港のドラァグシーンとプライドマーチはどんな感じ?」と聞くと、「ドラァグクィーンは3人しかいない。加えて若い世代はドラァグショーをあまり観たがらず、そもそもパフォーマンスする場がほとんどない。」「香港プライドパレードに関しては一時停止中。コロナ感染拡大防止を口実に政府があらゆる屋外集会(特にデモ的なもの)を許可しないようになって久しいが、パンデミックが終わったとされる現在でも許可が降りるかどうかは微妙で、慎重に見極める必要がある。だから屋内イベントとか、そういったものからやっている。PINK DOT HKも同じような感じだと思う。」後で調べて見つけたHong Kong Pride Parade(香港同志遊行)のfecebookページはこれ。それとピンクドット香港は今年の12月に屋外開催するみたいだ。会場はM+や故宮博物館のある西九龍文化地区だそうで、何だかすごくしっくり来る。

 映画祭のテーブルはもう2つあって、そちらのテーブルにも国外ゲストがいる。うちの1人が自分が持っている台湾製のバッグを見て「これは台湾の?」と聞いてくる。そうそう台湾のゲイ出版社が作ったやつを友達がくれて、と説明すると「自分は台湾出身で、今はフランスにいるんだけど観て懐かしいなあと思った」んだそうでした。彼(名前はカンウェイ)は今日観た短編集で上映された『Bitter September (Septembre Amer)』のアートディレクターと言ってたかな、これまでの経験を思い出してみると香港LG映画祭ってこれまでもゲスト同士の交流とかそういうのが妙に希薄な映画祭だったのだけど、今回みたいに会えるのは珍しいような気がする。タイミングの問題かもだけど。あ、ディナーは大変おいしい中華料理が盛りだくさんでした。食事が終わって、これからクロージングパーティー会場のクラブに行くのだけど、パーティーのチケットはクロージング作品のチケットとセットなので自分らも映画は観ないのにチケットを貰う。クロージング作品は15分違いで2つのシアターで上映するのは何でだろうと思ってましたがパーティーチケットとして枚数を出すためだったのかも知れない。

 自分らはまたレイ&スタンにくっついていく(のが一番確実そうであるため)。4人でタクシーに乗って香港島側の蘭桂坊(Lan Kwai Fong)に向かう。どうでもいいけどここ数時間の自分らが一番「ゲスト」っぽいな。自作上映日の夜はベッドでダニに喰われていたことを思えば雲泥の差である。蘭桂坊もすごい昔に来たきりだなあ。ちょっと渋谷区円山町の奥の方を思わせるザ・盛り場みたいな夜道を歩きながらレイが「あそこに香港で最初のゲイディスコがあったんだよ」とか教えてくれる。スタンが「アイス食べたい?」と聞いてくれるので素直にハイ、と返事をして、セブンイレブンでハーゲンダッツ(しかない)を買ってもらってしまう。うむますますゲストっぽいぞ。アイスを食ってからクラブに入り、まだ時間が早くて人が少ない中をぐるぐる偵察してみる。席は今なら取り放題なのでステージに近いあたりに座って、映画祭用の特別ドリンクというものを貰って飲んだり、そのうちやってきた知り合い(さっきのカンウェイくんとかリリアンとか)と話したり、女性ヴォーカルのパフォーマンスがあったり(そういやドラァグショーはなかった)ジョー・ラムの誕生祝いがあったりなどで楽しいけど、ちょっと疲れてきた。来ると言っていたアーノルドの姿は見当たらず、もうそろそろいいかな、と会えたみんなに挨拶して辞去する。レイ&スタンが見当たらなかったのだが、WhatsAppを開けたらスタンから「ごめん僕らは先に出た、また日本で会おう」というメッセージが入っていた。さあ帰ろう。

 自分らが帰る、と聞いたスタッフが「大丈夫?電車はもうないけど自力で帰れる?」と心配してくれるが、さっきグーグルマップで検索したら空港行きのバスが佐敦駅の辺りで止まるらしいのでそれに乗るから、と言って手を振って別れる。まだまだ賑わっているエリアを背にバス停を探して歩き、大通り沿いに人が何となく溜まっている辺りが乗り場のようだった。それほど待たずにバスは来て、自分らはあまり考えずにオクトパスをタッチしてしまったのだけど、それだと終点(空港)までの一番高い料金を払うことになってしまい、本当はタッチする前に運転手さんに行き先を告げて料金を調整して貰ってからタッチするもののようでした。まあ全額払ってしまってもタクシーに乗るよりは全然安い筈ですけれども。海底トンネルをくぐって九龍側に入ったバスはこの間入ったお粥屋の近くで止まったのでそこで降りて、自分らは夜道を歩きながらさあ映画祭は終わった、やり残したことが何かあるだろうか…と考えつつ、明日の午後はジョナサンに会うのでありました。部屋に戻るとやはり排水栓は直っておらず、つうかオーナーあてのメッセージは既読にもなっていない。改めて部屋のレビューを読み直したら「置いてあるものは半分くらいに減らしたほうがより良いのでは」という率直なご意見も載っていました。


泊まってるお部屋の壁面。あらゆる物があるが、使いたいものはほぼない。

目次
2023.0918 出発までと出発当日、香港到着
2023.0919 M+、『犬漏(SOLID)』上映
2023.0920 香港故宮文化博物館、ディック、映画1本
2023.0921 マカオ
2023.0922 エイドリアン、パトリック、映画2本
2023.0923 映画1本、映画祭クロージングパーティー
2023.0924 ジョナサン、クリフォード
2023.0925 帰国

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