2007.0830, thu

 「有り金をはたく」という表現は得てして自分の気合いを示す記号に過ぎなかったりするのだが、今回の旅行ではほんと全ての預貯金(もちろん大したことない)を100円単位で計算して、メインバンク(大したことはない)はカード支払いにした3人分の飛行機代やらなんやらを旅行中に引き落とされたらもう2000円も残らないくらいの残高にした上で全ての現金(前回使い残してあった325,700インドネシアルピア含む)を持って…と言う前に、話は随分前に遡らなくてはならない。

 その随分前がいつか、と言ったらそれは今年の正月である。すっかり無精になって年賀状は全部電子メールにしてからと言うもの、画像に凝るだけで実に心のこもらない年賀メールを2007年の賀状として友人知人に送るつもりで先年中に用意していたのだったのだが、何故か大晦日の夜にフライングして「Happy New Year! All the best! Let's keep in touch!」とか書いて送ってきた人がおり、それがインドネシアのQ! film Festivalディレクターのジョン・バダルなのだった。後で考えてみたらこの人はしょっちゅう世界中を回っているので、もしかしたら日本より年明けの早いところから送っていたのかも知れなかったが、自分たちにとっては何かおかしく、一応東京の元日を待ってお返事をしたところまた返事が来て「ところで君たちは新作を作ったか?インドネシアにまた上映しに来て欲しい、今はバリ島でも映画祭をやってるから、バリに行きたければそこでの上映もセッティングする」と何も言わないうちに上映予定まで決めてきて、当時まだ編集中だった映画『初戀(Hatsu-koi)』の上映が1月中に内定してしまい、更にいろいろあってスチール写真を撮っていただいた田口弘樹さんの個展をジャカルタでやりましょう、というところまで話は進み、わたわたしているうちに8月23日、田口さんは写真展の準備のために一週間早くジャカルタへ行ってしまった。全てのプリントが上がったのが前日、という状況で旅立っていったのでどうしているだろう、と心配していたら小遣い稼ぎの日雇いバイト中に携帯に「発番通知不可」の人から電話が来て、ジャカルタの田口さんなのだった。その後も何度か電話をくれたのだったが要約すると「蚊が多い、写真展は何とかなりそう、ビール買ったらお釣りをくれない、日本から蚊取り線香持ってきて」と言うことのようでした。


取りあえず東京である(自宅付近)

 で、9ヶ月近く前から決まっていた予定なのになんで当日早朝4時になっても荷造りが終わっていないのかと言うと各方面にメールを書いていたからです、マジむかつくわこの電子メールに掛かる手間ヒマってやつ。とブリブリしながら使い慣れない慇懃な文を各方面に綴り、すいません10日ほど留守にしますと事後をお願いして結局一睡もしないで家を出たのが朝方7時過ぎ、途中ちゃんと窓を閉めたか不安に襲われるが戻っていたら確実に約束の時間に遅れるので諦め、最寄り駅に向かう。イマイズミコーイチとは新宿駅で待ち合わせ、日暮里に向かう。あまりチマチマとしたお金のことは言いたくないのだが京成の、それもスカイライナーでない特急を使うと往復で成田エクスプレスの片道分より安く行けるので今回はイマイズミコーイチにもお付き合いいただき、成田空港第2ターミナルへ全く海外旅行仕様でない電車に乗って行く。自分だったらこんな電車で通勤するのはイヤだ。ジャマだもの。

 初JAL。
 と無意味に改行してみましたが日本航空に乗る自分がさっぱりイメージ出来ていなかったので拍子抜けしております。しかしみんなバリ島に行くせいか、成田→ジャカルタの直行便はJALしかなく、国営ガルーダインドネシア航空でさえ日本発は全てデンパサール(バリ)に行ってしまうので最初にジャカルタ、あとでバリという自分らのスケジュールにはあまり便利ではなく、値段もそんなに変わらなかったのでJALということに相成りました。JALのマイレージなんて今後溜まるのだろうか…。エコノミーなので勿論入れないさくらラウンジ(おっさんがゴルフの話とかしてそう)を尻目に乗った日本航空はなかなか良く機内食も旨く、しかもジャカルタ行く人なんてあんまりいないので空いていて、隣が空いているのをいいことにイマイズミコーイチは2席分に横になって爆睡してました。自分は窓際の席で雲を眺めたり、あ、いまブルネイ上空、とか言ったりモニタに付いてたテトリスで遊んでいたら結構あっという間に着いてしまいました。日本とジャカルタの時差はー2なので、Tokyo 11:25 - Jakarta 16:50(現地時間)のフライトも実質7時間半乗っていたことになるけれど、それでもこれまでで最短。以前には香港一泊ってのがあったからな。


多分カリマンタン(ボルネオ)島上空、ブルネイかマレーシアのあたり

 スカルノハッタ空港に着く。イミグレーションの前に滞在ビザを買うために25$持って並び、大したトラブルもなく税関も通過して出口を出るがあれ、出迎えが見当たらないよ。ジョンは前日のメールで「スタッフの誰かを迎えに行かせる」と言っていたのだったが誰が来るのかは判らず、僕らも連絡のしようがない。しばらく待ってもそれらしい人は見えないので一服しながら偽物ロレックスを売りに来る女の子やタクシーの勧誘をかわしつつ、それでも何も起こらないので仕方なくジョンの携帯に掛けてみようか、と思ったらここの公衆電話では硬貨で携帯には掛けられないようで、どの電話機でもことごとく失敗、するとそれを目ざとくみつけて近寄ってきたアンチャンが「どこに?誰に掛けるんだ?自分の携帯で電話してあげるから番号を教えてよ、お金はいらないよ」とか言ってくるのだがどう考えてもただの親切心からではないみたいなので断りつつ、ひたすら待つが、やっぱり迎えは来ない。

 とにかく自力で電話さえかけられれば、と荷物を引きずって空港の下の階に行ったりまた戻ったりするがダメで、諦めてインフォメーションカウンターのおねいさんに「携帯に電話を掛けたいんだけど、どうしたらいいのでしょう」と聞くとおねいさんニコニコ笑って「それならこの人が掛けてくれますよ」とか言ってその辺にいた男の人を指さし、結局散々僕らがことわりつづけて追っ払ったアンチャンと同類項な感じの人にジョンへ電話してもらうことになってしまった。電話は掛かったようで、渡された携帯からはジョンの声がする。「2時間くらい待ってるんだけど、誰も来ないよー」と若干めそめそ言ってみると、「いま迎えが近くのマクドナルドのところにいる」と言う。ウッソ、と電話を切って何度も前を通ったマックに向かうと案の定電話にいさんは付いてくる。どんな目に遭うのやら、と思っているとにいさん、携帯を振りながら「あ、あれがあなたの友達じゃないのか?」と指さすので見てみると坊主頭の大柄な男の子が大汗かいて小走りしてくる。「イマイズミさん?」と聞くので「違うけど、そう」などと答え、この子が大遅刻して来た迎えのオッカくんなのだった。ありがとう、この野郎。


空港。一応分煙してましたが、排煙マシンはまったく稼働しておりませんした

 さてこの時点でようやく電話にいさんの目的判明、要はタクシーの勧誘なんでした。電話使わせてやったからウチの車に乗れ、ってやつね。もちろん勧誘してくるのはボる可能性が高いので、駐車場まで向かう間にオッカくんが何やら交渉しているがどうやら決裂したらしく、用心のために荷物を渡さないでスーツケースを掴んでいた僕らに「戻りましょう」と合図する。石か何かぶつけられるかな、と思っていたけどもちろんそんなことにはならず、空港出口近くまで戻ってタクシー探し、とは言えそこら中タクシーだらけではある。ちゃんとメーターを倒すタクシーを見つけるのが慣れていないと難しいということなので、だからガイドブックには「Blue Bird」という会社のタクシーに乗るように、と書いてあったりする。オッカくんが拾ったのはブルーバードではなくボロブドゥールという会社のだったが、ま、間違いはないであろう。車内で改めて「大変申し訳ありません」と平謝りするのでまあいいけどさー、とか思いつつ流石に疲れたのですっかり暗くなった窓からの景色もぼんやり眺めるのみ、着いたときは確かけっこう明るかったんだけど。オッカくんは僕らにくるくる丸めたポスターを差し出し、「出口でこれを広げてお迎えするつもりでした」とか言うので見ると今年の映画祭のポスター、なのはいいんですけど今年の映画祭メインスタッフによる仮装大会(画像はこれ)、ものすごいことになっている。茫然としたままあははははは、と乾いた笑いをする僕らにオッカくん、別段恥ずかしそうでもなく「このマリー・アントワネットがボク」などと言うので自分は思わず日本語で「何やってんだよおまえは」と怒鳴りつけ、「で、ジョンはどれなんだよ」と言うと「これ」とオッカくんの右隣の右隣で白いワンレンのヅラ被ってにったり笑っている女装、自分再び「何やってんだよおまえは」と叫ぶ、ジョンのは何を模した女装か判断つかず、でも頭の中では「どな・さまー」という固有名詞が永久運動を始めてマッカーサーパーク。

 「で、結局使わなかったけどこのポスター、あげます」とか車内で言われ、最終的に口もきけないくらいにぐったりした僕らを乗せたタクシーが着いたのは「CEMARA 6」というギャラリー兼カフェ兼ホール兼ホテルで、前回も前々回も上映をしてもらったところ。その時は泊まったことはなかったのだが、そこのオーナー(お金持ちのアート好き、といった感じ)に「君らはカップルか、今度はウチに泊まりなさい」と言われて「是非」と本気で答えたのが伝わっていたのか偶然か、判らないけれど今回のジャカルタでのお宿はここ、とても素晴らしい建物なのでうれしい。入り口を抜けるとまずは一階がギャラリー、その二階がホール、そこを抜けると中庭がカフェになっていてそれを取り囲む形で3部屋だけ宿泊出来るようになっている。中庭には四阿風の屋根に覆われたテーブルがあって、そこに映画祭のスタッフが陣取っているようだ。とことこオッカくんに付いていくと、ドナサマー(違う)ジョンが居た(しかも髪がプラチナブロンドになってる)のでキャー、坊主に待たされたよー、とか言いながら抱擁、をしながらも既に蚊に喰われている。かい。ジョン、また会えて僕らはうれしいよ。で、田口さんは?と聞くと「そこ」と真ん中の部屋を指し、ドアを叩いてみるとギギギ、と開いて一週間ぶりの再会、行く前は「君らが着く日には現地の民族衣装を着て現地人として会うことになると思う」とか言っていたのだけれど、確かに全く違和感、というか異邦人感はないものの別段現地人化はしてないようだ。日本語通じるし。


左がジョン、右の赤いシャツがオッカ、手前の袋が土産物

 日本から持ってきたお土産(食い物ばっか)を渡すとジョンは「荷物を置いて一息ついたら、ご飯食べに行こう」と言うが、もしまだ仕事があるのならここのカフェの旨いナシゴレンで僕らは充分だよ、と言うのだがジョンは「でも近くだし、行こうよ」と言ってくれるので歩いて向かった先はガイドブックに載っている「Ayam Goreng SUHARTI」という有名フライドチキン屋。「Ayam」というのが鶏の意味です。ここは前回も連れてきてもらったのだけれど、実はさっきの車内でイマイズミコーイチ、「あのフライドチキン屋にもっかい行きたい」と言っていたばかりだったので狂喜し、さっきまでヘロヘロだったのが回復してきている。田口さんが「もう毎日こればっか呑んでる」というインドネシアの「BINTANG」というビールを頼み、魚の擂り身を笹に包んで蒸したおつまみ(うまい)を食べながら料理を待つ間、「映画祭はどう?」とジョンに聞く。車内でもオッカくんから聞いていたのだけれど、今年は観客の出足がいいそうで、これまでのようなガラガラではないらしい。検閲されるのを避けるために入場料は取れないのですべて無料だから、客足は直截収支には影響が無いはずだけれど、もちろん主催者としてはお客さんがいっぱい来た方が嬉しいだろうし、それは僕らも同じ事だ。「お客さんは来ている、でもこないだトラブルがあって、会場に警察が踏み込んできて上映テープを押収された」と物騒なことを言い出すので何それ、と擂り身をくわえたまま詳しく聞くと、どうやら映画祭が標的ではなくて、会場のレンタルDVD屋(いくつも上映会場があるのだが、レンタルDVD屋でもやってるのか)が違法営業の疑いで捜査され、映画祭がとばっちりを食らってついでに押収されてしまったらしい。「速攻取り戻したけど」とジョンは笑っていた。タフだなあ。

 さてお楽しみ(注文はジョン任せ)のフライドチキン来ました。塩味ココナッツの衣を付けた鶏がキツネ色に揚がっているものが皿に盛られ、大好きなタイ米が来ただけで自分は満足ですが、さらに壺で玉子他を煮倒したモノが来て、どうやら下にはラムが入っているようでした(超コラーゲン)。とても旨かったけど量が多くて泣く泣く残す。ビールうまい。ジョンはとてもスリムな人だけど、ご飯お代わりして喰う喰う、もしかして忙しくてちゃんとご飯食べてないのかなあ、とちょっと心配になるが、毎回その超人ぶりを目の当たりにしているので多分平気なんであろう。田口さんが「もういつでもどこでも電話が鳴るかメールしてる」と言っていたけれど、そのウチの何回かは僕です、すいません。


オンザロード

 田口さんは道が判っているし、自力で帰れるよと言うとジョンは「じゃあ今日はゆっくり休んで、明日は18時までに上映会場に来て」と言ってチキン屋の前で別れ、僕ら3人は夜道をよたよたと歩く。まだあんま実感がないや。田口さん行きつけの小さいスーパー(可愛いちゃん♥の店員がいるんだと。今夜は居なかったけど)へ行って水やアイスなど買って部屋に戻りやっと室内を観察する。ベッドはダブルで天蓋付、日本だとこの手のは大概飾りだけど、ここでは「蚊帳」。照明は日本製かも知れなくて、変圧器と変換プラグで電源を取っていた。そしてトイレとシャワー(温度調節が難しくて、いきなり熱湯が出たりする) 付き、バスタブはない。クローゼットの隣には何かのお厨子があって、開けてみると男女対の木彫り彫刻があってこれは神様か?イスラム圏ではあるけれどいわゆるアラブのムスリムとは全然ノリが違うのでもしかしたら縁起物かも知れなかったが、それにしてもそのご本尊様の脇にどう考えても使用済みなシャワーキャップが入れてあったのが理解不能であった。荷解きをして田口さんとちょっとお話、設営の模様などを伺って労う。おやすみなさい。明日は第一回目の上映が写真展会場でもある国際交流基金ジャカルタ日本文化センターであるのだ。


ご本尊様@お厨子、んでもって下段の死んだクラゲみたいのが…



2007.0830 ジャカルタへ
2007.0831 ジャカルタ第一回上映+写真展
2007.0901 ジャカルタ第二回上映  ↓
2007.0902 ジャカルタ第三回上映+写真展撤収
2007.0903 バリへ
2007.0904 オフ一日目
2007.0905 オフ二日目
2007.0906 バリ第一回上映
2007.0907 帰日