2007.0906, thu

 今日はジョンはどうだろうね、やっぱ昨日みたく遅れて来るかな、とか予想していたのだけれど、大体正確に現れた。今日は全体的に白っぽい(服が)。昨日と同じくタクシーに乗り込むが、後部座席に先客がいる。「彼はVictric Thng、君たちと同じく映画祭のゲスト」とジョンが紹介してくれる。ジャカルタの映画祭で作家フィーチャーされてた人だ。こんちは、と挨拶して暑いねバリ、とかどうでもいい会話を交わす。車は晴天の空の下、海辺近くの店の前で止まった。半分オープンエアーになったレストラン。あ、フィリップ達がいる、と思って近づいたカウンター近くのテーブルで手を振っている男の子がいる。ニーノじゃん、久しぶり。彼は初めてジャカルタのQ! Film Festivalに行ったときの映画祭スタッフで、普段はジョグジャカルタに住んでいるのだけど、期間中はジャカルタに来て映画祭で働いていたのだった。その後、ジョグジャカルタでQ!のサテライト映画祭を始めたときにそこのディレクターになり、今年も4月にやったはずだ。実はその時『初戀』をやらないか、と言ってくれたのだけど、やるならジョグジャ行きたいので来年に廻してもらってもいい?と断ってしまったのだった。そうだ来年の約束をしないと。

 というのは兎も角、会うのは3年ぶりくらいなのでキャー、とか言って抱き合ってご挨拶。隣には弟のギアくんもいる。彼も初めてジャカルタ行ったときにスタッフで、なんか名物オカマ兄弟、といった感じだったのだが(註;2人とも若いです。ニーノが多分20代半ば)、もらった今年のジョグジャでの映画祭カタログに名前が載っていたので、今は兄貴を手伝ってジョグジャの映画祭をやってるみたいだった。今回ジャカルタでは昔の知り合いにほとんど会えなかったのでとても嬉しい。さて朝ご飯だ、でも時間が微妙だけどいまはモーニングメニューの時間?と聞いたらまだ朝飯時間だというのでメニューから選ぶ。でも何食べたか忘れた。ジュースをマンゴーにしたのだけ憶えている。


こんな店

 店内はものすごい蠅なのだが、いちいち構っていられないので素早くフルーツ盛り合わせを食べ、その他何か(忘れた)を食って…と久しぶりにデフォルトの早食いを発揮してごちそうさま、あとは店を抜け出して海岸の遊具で遊んだりした(あとで聞いたらみんなが自分を指さして「あいつサルみたい」とか言っていたそうで、余計なお世話)後にまた戻り席に付くと何故だかフィリップがクレジットカードを破っており、どしたんすか、と隣の田口さんに聞いたら、「何か無くしたカードが戻ってきたんだけど、もう停めちゃったから要らな~い、って破りだした。これだから西欧人は…」という事のようでした。自分の皿の下に破ったカードがひとかけら残っていたので、「これも捨てな」とフィリップに手渡して、ゴミは各自で処理しましょう。スサント兄弟がなんか子供用の塗り絵に熱中しているので見せてもらい、ふうん、とか何気なくイマイズミコーイチと2人で塗り始めたら止まらなくなって極彩色、傍で見ていたフィリップが甲高い作り声になって「は~い良い子達、大変よくできましたね~先生(もちろん女の)はうれしいですよ~」と悪乗りする。

 ジョンが今日のウブド行きについて聞いてくる。フィリップ達とヴィクトリックくんは行くらしい。今から出るんだよね、やっぱ無理かなあ、と思いながらも田口さんもイマイズミコーイチも全然昨日決めたサインを出さなので仕方なく日本語で「ウブド、ナシでいい?」と聞いたら「いいよ~」と言うので(昨日のサイン決めは何だったのか…)ジョンに「せっかくだけど、僕らはこの辺(スミニャック)に居ることにするよ」と告げるとジョンは、「判った、今日は上映だから、夕方に合流しよう」と言ってくれる。ジョンは何を提案するにしても必ず「でも、イヤだったら無理にすることはないからね」と言ってくれるので、何をするにつけてもとても楽。

 さて食後、フィリップ+BF+ヴィクトリックくんとドライバーはウブド行きの車に乗り込み、「これから今夜のミーティング」というジョンとスサント兄弟(ニーノと弟)は別の車に乗り込んで、僕らは海岸に置き去り…ではなくて、「タクシー拾おうか?」とジョンは言ってくれたのだけど海岸沿いに歩けばホテルはすぐみたいなので、「歩いていくよ」と答えて海辺を歩き出す。裾をまくったズボン一丁になって、サンダルも脱いで歩くと、日差しは強いけど気持ちいい。途中バンジージャンプ台などというアホなものを見掛けたりもしたけど、海で遊ぶ犬2匹と遭遇したりして、楽しい散歩。歩いてみたら何のことはない、15分くらいで毎日夕日を見に来ている辺りまで来てしまった。


あたしゃ絶対やりませんよ

 ホテルに戻り、イマイズミコーイチがマッサージ受けたいと言う。ホテルの説明書によると予約制なので、プールサイドにいるお姉さん(目下先客のフットマッサージ中)に「5時から空いてる?」と聞くと「大丈夫」とのことなので予約を入れ、それまでに、と一昨日行ったビンタンスーパーマーケットに行くことにした。お土産買わないと、ってことで。

 炎天下を歩く、昨日のプールで一気に日焼けした自分は顔や背中がヒリヒリする。早く日陰に、とスーパーへ急ぎ、ここで手持ちのルピアがほとんど無くなっているイマイズミコーイチは両替、レートはジャカルタよりやや良くて¥10,000=rp.803,000。バリはあちこちに両替所があって、もっといいレートを出しているところもあるのだけど、そういうところは手数料を取られたりする場合があるのであんま個人商店みたいなところでない方が安心、という事のようでした。

 お土産なので、と言いつつほとんど自分のお土産だが、ナシゴレンの素とブラウンライスとピーナツと…と選ぶごとにカゴの中身が「普段のお買い物」になっていくのが解せない感じ。一昨日見掛けたメラミン製の可愛い皿をやっぱり買うことにしたのだが、これが持って帰ってみたら大活躍だったのでした。しかも一個30円とか、そういう世界。「友人知人へのお土産」はあまり考えると決まらないので、とにかくたくさん、同じようなモノを、という観点で選んだので余り期待しないでください。追々お渡しします。


スーパー行く途中にあった。嬉しそうすぎます

 一昨日のようにでかい袋を抱えて店を出て、田口さんは「このまま散歩してから帰ろっかな」というのでここで分かれ、僕らは元来た道をまた戻る。途中、行きがけに見つけた洋服屋に入る。スーパーに置いてあったのとはデザインが違う「BINTANG」シャツがいっぱいあったので、お土産兼自分用。サイズが多分欧米仕様(現地の人は着ないだろうコレは)なので、TシャツSとは言っても自分にはでかい。もっと小さいの、と言うと店主のおねえさんはキッズXXLというサイズを出してきた。あ、ピッタリ。というわけで自分よりも小柄なMHくんにはこれの赤にして、自分は白、あとは同じくキッズサイズのタンクトップ黒と大人サイズのタンクトップグレー、ついでにイマイズミコーイチがTシャツMのベージュで5枚、おいくら、と聞くと物静かなお姉さんは「トモダチ・プライス(私はこの言葉が生身の人間から発せられるのを初めて耳にした)」とか言いつつ5枚でrp.450,000(約5,850円)と兇悪な事を言うので、こちらも努めておだやかに電卓合戦、かなり下がったけどスタート値段を高めに設定してしまったのでややお高め、で決着してしまった。ま、いいや。

 部屋に戻ってちょっと寝て、眼を覚ますとイマイズミコーイチがいないのでプールへ行くと、田口さんも一緒になって泳いでいる、というか浮かんでいる。「何か前の人のマッサージが終わらなくて」と言う。じゃあまあ待ってみて、自分も泳ぐ。田口さんは部屋へ戻るというので「もしジョンが迎えに来ちゃったら呼んでください」とお願いする。バリは日が出ていると暑いけど、木陰に入ったり日が落ちたりするとかなり涼しく、初日以外は冷房もほとんど使っていない。この風邪気味も多分最初の夜に付けっぱなしにしていたクーラーのせいだろう。もう夕方なのでプールが冷たくなったので上がる、という辺りで約束の時間を若干過ぎてやっと自分の番が来たので、イマイズミコーイチは嬉々としてマッサージ台の上に登る。うつぶせにされているので表情は判らないが、眠ってるみたいだ。部屋に戻り、シャワーを浴びてちょっとしてからプールサイドに戻るとまだ揉まれている。


ぶわっしゃー

 またしばらくして部屋に(近いんである)戻ると田口さんが居て、「ジョンが来たけど、先に行っちゃった」と言う。はえ?と良く聞いたら「どうも夕日が絶景なバーに連れて行ってくれるつもりだったみたいで、そのあとディナーの計画だったらしい」そうか、だから「あまり遅くないほうがいい」って言ってたのか。「一応まずは(1)夕陽が素敵なバー→その後(2)ディナーのレストラン」をガイドブックにメモしてもらったから」と言うので見るとなんか海岸沿いに歩けばすぐ行けそう。イマイズミコーイチはまだマッサージ中のようなのでゆっくり揉まれていただくことにして、じゃあ一息ついたら散歩がてら行きましょうか、と決めたのがそもそも間違いだった、が、この時点ではそんなことには全く気付いていないのだった。

 揉まれおわったイマイズミコーイチが非常に幸福、といった表情をして戻って来たので、ジョンが先に行っちゃった経緯を説明して、後を追うことにしたのだが既に夕陽は落ちかけているし、最初に店に着いた頃には居ないかもねえ、と言い合うが、「(2)ディナーのレストラン」は更に遠いようなのでまずは「(1)夕陽が素敵なバー」に行ってみるべえか、とホテルの脇道をずんずん入っていく。一つよく判らないのは「Ku De Ta」という(1)の店はガイドブックにも載ってはいるが、ジョンが「ここ」と示した場所はそれより随分海岸寄りで、ジョンが間違えたのか移転したのか。途中不安になってどこかの店の案内係みたいな人(「う~ん可愛い・」と田口さん)に聞くが、方向は間違っていないようだ。しかしこのままだと海に出ちゃいますけど、とまたどこかの警備室みたいなものがあったので聞くとやはり方向は合っている。海岸に出て、海沿いのレストランに入ってウェイターさんに聞くとここでもまた「あっち」と更に先を示される。

 「あっち」ったって海に流れ込む水が1.5m程の小川を作ってる(陸側は果てしなく藪)んですけど、そこを越えねばいかんのか。一人サンダル履きのイマイズミコーイチが自分と田口さんを一人ずつおぶって(写真が無いのが残念です)渡してくれ、それでもバターン死の行進は続く。ジョンはもちろんタクシーで来ると思っているんでしょうけれど、タクシー料金の高い日本国在住の人は歩けそうだと判断したら歩いちゃうのですよ。やっとこさ店のようなものが見えてきたので、難民3人を代表して警備員さんに「ここはクーデターですか」と聞く。「そうだけど、入り口はあっこ」と陸地を指されるので(そらそうだ、海から来る人は不審者だ)、回り道をして店内に入る。日はとっぷり暮れている。店内は非常に広く非常に混んでいたが、居ないみたい。なので店を出て、「ラ・ルチオーラ」という(2)のレストランに向かうことにする。


たとえばゴミ

 サンダルが靴擦れしてきて「やっぱ、断れば良かった」とぶつぶつ言い出したイマイズミコーイチ、地図とメモが見つからなくなって青くなる自分、と終電逃した人みたいになってますが、でかいホテルの脇を抜けて、方向は合ってるんだよなあ(こればっかり)…と更に歩くと先に大きな駐車場、その更に先にレストランらしいものが見えてくる。これかも、と警備員に「ここはラ・ルチオーラですか」と聞くと、「そうだけど、セキュリティーチェック」とカバンの中(下らないもの満載)を改められる。橋を渡って入った照明が素敵・ (やけくそ)なレストランの海が良く見える席あたりにジョン達が居た。さすがに「あ、来たんだ」という感じではあったが。「すんません道に迷って」と言い訳しつつ、僕らは隣の3人席に付く。ジョンが来て、「ここはちょっと料理が出るまでに時間が掛かるんだけどあまり時間がないから、早めに決めて頼んじゃってね」と言う。了解、と早そうなパスタとかにしてドリンクは…オレは疲れた酒飲みたい、となんかのカクテルを注文して。

 わりとすんなり料理は来て、イマイズミコーイチと田口さんは蟹とトマトの、自分は家鴨とキノコのパスタ。うまい。そしてメニュー見たら高い、東京並み。来たカクテル(シャーベットになってる)は大変美味しかったが歩き疲れしたせいか非常に酔う。向こうのテーブルではジョン、スサント兄弟、フィリップ+BF、ヴィクトリックくん(ウブドから帰還したもよう、強行軍だなあ)、バリのスタッフが盛り上がっているが自分らはぼや~っとパスタを味わうのみ。ま、いいのですよこれで。

 食事が済んで、上映までにはまだ時間が半端なのでホテルに戻ることにして、ホテルが近いらしいヴィクトリックくんとタクシーに同乗して部屋に戻る。なんか酔いがまわってぐったりしてきた自分はベッドで10分ほど横になりながらテレビを眺める。漫然と見ていたら蚊取線香のCMをやっていたが、ラベンダーの香り、とかいうその商品は「蚊もいないし、ほらおいで・」とでも言いたげな顔をしたお父さんがベッドの中からお母さんにニタ、と笑いかけるといったCMを見る限りでは催淫剤のようでした。この国のCMは切れ目がよく判らないので洗剤のCMだと思っていたらいつのまにか飲料のCMになっている、という具合。

 「僕らは甚平で上映に出るのですご協力願います」とイマイズミコーイチが言うので、自分も甚平(寝間着)に着替えて出発。会場の"Kudos"まで歩いて行き、上映開始予定時刻前に着くがまだ知ってる人は居ない。入り口には初日に向かいの"Q Bar"で僕らをしつこく「オカマ・ショー」に勧誘した(ここの営業形態はどうなっているのか)小僧がいたので今日は関係者っぽい顔をして「ジョン・バダルさんは居る?」と聞いてみたら小僧、「まだ来てません」とか言うのであっそ、と後ろを振り返ったら当のジョンがいたので、そうかこの小僧は使えないわけね、と納得する。


スクリーンはこんな

 "Kudos"建物前のスペースには向かって左手にはフェンスで仕切られた一段低くなったところがあり、そこに巨大なスクリーンが設置されていて、映画祭の予告映像がエンドレスで流れている。かなり画格が歪んでるなぁ、とスクリーンに近寄ってみたらスクリーン自体が結構凸凹していたので、これでは仕方ないと諦める。スクリーンから一番離れた右手の部分はコンクリートで出来た段々が席になっていて、そこに座ったらいい、とジョンは言ってくれる。3人で座っていると他のお客さんとも相席になり、ジョンはここでの僕らのホテルのスポンサーだ、という人を紹介してくれたり、来たお客さんと始終挨拶をしている。やがてフィリップ達もやってきて、僕らと同じ席に着いた。お客さんはほぼまんべんなくどの席にも、何とも数えようがないのだが100人はいないか、といった印象。

 予定時刻を大幅に押したが、そろそろ上映が始まるようだ。昨日紹介された美貌のお姉さん(男性)がスクリーン近くでMC、ジョンやヴィクトリックくん、僕らを紹介してくれる。前に出て(2人とも甚平)ご挨拶。英語で話さないといけないので(通訳無し)大したことは言えなかったが来てくれてありがとう、を。田口さんは話し終えてワイヤレスマイクをMC嬢に返そうとして落としてしまい(MC嬢の顔が一瞬だけ般若のようになる)、でもまあ壊れはしなかったようだった。最初はヴィクトリックくんの短編を2本上映。ジャカルタでは観られなかったのでどんなのかなあと思っていたのだが、これが何ともクールな映像、かなり好き。ただしやはり屋外なので、時に音に関しては集中するのがなかなか難しい。これで長編(自分らの映画です)やったらどうなるんだろ、思っているうちに『初戀』が始まってしまった。

 向かいの"Q Bar"では音楽がドガドガ流れているし、しまいにはショーが始まったらしくてお客さんの歓声とホイットニー・ヒューストンみたいな朗々としたヴォーカルが流れてきて、しかもそういうときは決まって音楽の入っていない静かなシーンだったりする。自分だったらもう気が散るな、と思って客席を見ると、前の方はそれでも随分集中して観てくれている。まあ日本語の台詞は判らないはずなので字幕を読む分には多少の(ではなかったです)騒音は障害ではないのだろうけれど、それにしても。上映中ジョンは「ごめんね、あんまりいい環境じゃなくて」とすまなそうに何度も言うのだけれど、逆にこういう経験はあまりないのでここまで来たら自分らとしては「いいっすよ」と言うしかない。確かに面白くは、ある。


上映中である

 そういやスサント兄弟が居ないなぁ、と思っていたら上映途中でやって来た。僕らの席に着くなりニーノは「ごめん間に合わなかった、でもジョグジャでちゃんと観るよ」と言って席でグダグダしだす。映画の中でトイレのハッテンシーンがあるのだがニーノ、「あの2人にサンドイッチされたい~」とかジョンに言ってるのが耳に入ってしまいましたが、ちゃんと最初から観ろよジョグジャで。お客さんの反応は周囲が煩いせいでよく判らないのだが、ちゃんと笑いも起きていた。映画は滞りなく(途中で何度か隣のバーのショーに負けそうになりつつも)終盤に差し掛かり、僕らはすっかり忘れていたのだがやはり最終部分で止まりそうになりひい、と悲鳴を上げるが何とかデジタルノイズのひどいヤツ程度で収まってエンドクレジット、もうここでMCが喋り出しても何も言いません。言いませんとも最後まで観てくださって、ありがとう。会場からは拍手。うれしい。

 テレビ局が取材に来ているので出てもらえないか、とジョンに言われ、自分ら甚平(寝間着)ですけど…と思いつつもそれは断る理由にならないので、隣の席にヴィクトリックくん、フィリップ、ジョンとキツキツに座って(結構暗い)インタビュー、リポーターの質問をジョンが英語に訳して伝えてくれ、英語で答えてジョンがインドネシア語に通訳、という手順、自分の英語力ではどうにも太刀打ち出来ないのだが何とか答えて(この映画祭に来てどうですか、何故ゲイ映画を作るのですか、といった質問だったように思う。あと自己紹介を、と言われたな)、やっとこさ解放、これにて『初戀』インドネシアツアー終了、お疲れさまでした。

 話しかけてくるお客さん(女の子2人)が居るのだがなんか日本語、と思ったら「京都に住んでるんです~」だって。あらまあ、と「がんばってください」「一緒に写真撮ってください」とか言われてしかし甚平…、まあいいけど、としばらくしたら今度はイマイズミコーイチと田口さんが男の子とやっぱ日本語で話している。聞いたら彼、Mくんはたまたま旅行中に「日本の映画をやるよ」と言われて来てみたら、なんか知り合いがいっぱい出ててたまげたらしい。そらそうだわな。

 気付けば"Kudos"備え付けのモニター(上映したスクリーンは仮設)の下のスペースでパンツ一丁の男の子が踊っている。しかし照明も何もないのでちょっと気の毒、一応背後にミラーボールはあるんだけど。自分はジョンにもらったビール飲んでたらたら踊っていたらフィリップがやってきて、ダ~ッと感想を言ってくれる。本当は隣で耳を傾けているイマイズミコーイチと田口さんに訳しながら聞きたいのだけど、全然途切れないので仕方なく頭で要約して後でまとめて説明した。

「おめでとう、とてもいい映画だった。脚本も実に質が高く、カメラワークもユニークだ(という好評価は実はこれまであんまり無かったのでした、僕ら自身も撮影・音声技術は未熟だよなあ…と思うところも多々あり)。キャラクター設定もとても練られている。特に「コータ」が素晴らしい。もっとたくさんの人に観られるべき作品だし、上映の機会が増えたらいいと思う。LGBT関係だけではなくて、日本やアジアに関心がある人を惹きつける力があると思う。ここはあまり環境が良くなかったので、私のパリのオフィスに(この人はフランスで配給をしている、らしい)プレビューを送ってくれないかな?きちんとした形でまた観たい。」

 韓国でもそうだったけど、最後になってこういう言葉をもらえたりするので、やっぱり来るべくして自分たちは今ここにいるのだ、と思う。田口さんが後で「フィリップ、映画が始まった途端に背筋が伸びて、上映中はほとんど身動きしないで観てたよ、映画の人だなあ、って思った」と教えてくれた。それを指摘するにせよしないにせよ、欠点も難点も判った上で「いいところ」をきちんと伝えてくれる人はなかなか居ない。ありがとう。


なんだかよく判りませんね

 さて下は甚平、上は脱いで今日買ったビンタン小っちぇえタンクトップ黒という、どこから見てもバカ観光客(しかも酔ってる)になり下った自分は勢いで入り口にいたさっきのMCおねいさん男性(くどい)にもご挨拶。「マイク落としてごめんなさい」「いいのよ(と言うしかないではないか)」とか話しつつ、「私のママ」と紹介されたドラァグおねいさん共々ブレまくりの記念撮影やら映画祭の看板を倒すやら(自分)あちらこちらへ小規模なご迷惑をお掛けしながら、席に座っているイマイズミコーイチと田口さんのところに戻る。さっきまであんなにいたお客さんは誰もいなくなり、代わって向かいの"Q Bar"は盛況のようだ。ジョンもスサント兄弟もいないので、いくつかの店を覗いてみるが見当たらない。ようやく"Q Bar"にヴィクトリックくんがいるのを発見したので「ジョンはどこか知ってる?」と聞いたら「この店に居るはずだよ」と教えてくれたので探すとソファーに座っているジョン+スサント兄弟を見つけた。

 ここで田口さんは「なんか大音響で頭痛がする、先に部屋に戻ってるね」と帰り、僕らは初日から懸案の「オカマ・ショー」を見ないことには、と居残る。大混雑。もうそろそろな筈だけれど時間通りに始まるわけが、と思っていたらパンツ一丁の男の子が4人、 バーカウンターに立ってくねりだした。あ、GO-GOが先か、と眺めるが、特にくねる以上の事をするわけでもないのでそのうち見慣れてしまい、ううむ、ジャカルタでは決して脱がなかったけどここでは問題ないわけですね、といった感想しか出ず。カウンター付近を見るとさっきの日本人MくんがかぶりつきでGO-GOを眺めている。のでよう、とか言って記念撮影。席に戻ってニーノに「今夜はショー、やるかな?」と聞いてみたら「もうすぐのはずだよ」と教えてくれたのでステージ(であろう)あたりにイマイズミコーイチと陣取り待つ、とやがてGO-GOは引っ込んで音楽が変わり、店の奥に掛けてあった銀の幕にスポットが当たった。「オカマ・ショー」、開幕らしい。


こんくらいの写真なら、まあ…いいか。

 最初の人からキレイ。銀の幕が開くとその奥は小部屋になっていて、板付きのキレイにドレスアップしたドラァグクィーンが歌い上げるリップシンク、ただ日本では見慣れた過剰な衣装という感じでもないので、やっぱ目指す方向が違うねえ、と2人目の全身ヒョウ柄のお姉さんのパフォーマンスを見ていたら途中で観客をステージに引っ張り上げ、と思ったらあ、Mくんだ。またしても最前列で見ていたので捕まってしまいました。Mくんはキャップを放り投げられ上半身を裸に剥かれてベルトも外され、パンツの中に手ェ突っ込まれて押し倒されてました。最後「じゃ、帰ってよし」で客席に戻ったときには壇上にいろいろ忘れて(キャップとかポーチとか)ました。ご苦労様です。

 さて3人目も同じよう、4人目も同じよう(と言っては失礼だけど、違いがあんまりない)でそろそろ…あの…お笑いも…とモジモジしだした自分らの前に眼の覚めるような5人目が現れた。鳴りだした曲がなんだかハワイアンというかインドネシアンというか(詳しくないので、判らない)超呑気な感じだったのでお、と居住まいを正したのだが、出てきたのは真っ赤なワンピースに長髪のカツラ、ぽっちゃりした小柄なお姉さん…というかおかあさん。なんだか初手から無茶苦茶ありがたいので、僕は拝んでしまいそうです。おかあさんはお立ち台、と言うにはあまりにラフな箱(これがまたそれぞれ微妙に高さが違う)の上をちょろちょろちょろちょろするのだが、途中段差に蹴つまずいたりでもう、一瞬たりとも目が離せません。やがてお客さんが壇上に歩み寄りおかあさんの胸の谷間に何か(多分お札)を入れるのだけれどこのミステリアスな谷間は四次元ポケットになっているらしく、その後何人もの人が何度お布施を、じゃなかったおひねりを入れても全く変化が無かったのだった。かいぶつ。

 おかあさんはまるで逃げるように幕の向こうに消え、あ~すごかったねえ、と言い合っているうちに今度はアバメドレーみたいなのが(詳しくないので、判らない)掛かり、最初に出た3人が揃ってパフォーマンス、やっぱ圧巻すね。あれ、でもおかあさんは?と思っていたらクィーンの一人が幕の向こうへ手招きをして、しばらくしてからおかあさん再臨、大歓声。でもおかあさんはソロの時と同じようにちょろちょろちょろちょろするばかりで、隙あらばステージの一番はじっこへ行こうとするのを他の3人が呼び戻す、という訳の判らない展開でした。曲が終わって退場の時にもおかあさんはいち早く隠れてしまい、何だったんだろうねえ今の…と僕らは顔を見合わせるが、とにかくイイものを見られたのは間違いない。


おかあさん。何回撮っても毎回ベストショット

 非常に満足して(疲れた)席に戻った自分らは、そろそろ帰ろうかな、とジョンに言う。「うん、とにかく今夜は上映成功おめでとう。映画は好評だったよ。僕が明朝また迎えに行く、今日みたいにみんなで朝ご飯を食べよう」と誘ってくれる。これでイマイズミコーイチが昨夜散々検討した上で決めていたホテルでインドネシアン朝ご飯計画の線は無くなったが、ま、みんなと食べようね。ヴィクトリックくんに帰る~、と言うと「もう?この軟弱者」とか言われるがだって疲れたもん、と手を振ってまた明日、立ちんぼのお姉さん(女性)がいる辺りを抜けたら辺りはいきなり静まりかえり、やっぱ喧しいのはまとめてあるんだね、とイマイズミコーイチは途中の路上で「シェー」のポーズして記念撮影、もちろん誰も、見ていない。

 戻ったのは午前2時頃(現地時間)、田口さん大丈夫かな、と部屋を覗いてみたら扉は開いていてまだ起きていた。平気ですか、と聞いたら「うん、あそこがうるさくてちょっと参っただけ」との事。よかった。さて上映も全て終わったわけですよ、とまた「田口さんの」買ったビールをいただきつつ旅の総括…はしませんで、毎晩毎晩の下らない雑談を。この日の議題だったか記憶が定かでないものの、「理屈抜きで、圧倒的に帰属意識を持てる方言を持たないで育ってしまった自分たち(世田谷区+江東区+埼玉県熊谷市)はどのように日本語で他人とコミュニケートしたらいいのか」という結論の出ない話になってしまった晩があったはずだ。修学旅行か。


人魂も飛ぶ


2007.0830 ジャカルタへ
2007.0831 ジャカルタ第一回上映+写真展
2007.0901 ジャカルタ第二回上映  ↓
2007.0902 ジャカルタ第三回上映+写真展撤収
2007.0903 バリへ
2007.0904 オフ一日目
2007.0905 オフ二日目
2007.0906 バリ第一回上映
2007.0907 帰日